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2020.10.01

保険適用で注目を浴びる「乳がん予防手術」と最新治療法を解説【乳がん・後編】

kencom 公式ライター:森下千佳

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女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、乳がん予防のために乳房切除の手術を行ったことで話題になった「予防的乳房切除術」。日本では、今年4月から公的医療保険の適用になったことから、今注目を集めています。
「がんになっていないのに、おっぱいを切除するなんて!」と、衝撃が大きいこの手術。どんなメリットがあるのか? 対象になる人は? など、注目を浴びる乳がん予防手術と最新治療法ついて、国立がん研究センター中央病院乳腺外科医長の高山伸先生に聞きました。

■乳がんの基本のキはこちらから

新たな選択肢「予防的乳房切除術」を知る

遺伝的な要素から予防措置を取る手法

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予防的乳房切除術は、簡単に言うと「乳がんになる前に、リスクを取り除いてしまう手術」。遺伝子的に将来乳がんを発症するリスクが高い方の乳腺を取ってしまう手術で、正確には「リスク低減乳房切除術」と言います。
たとえば、一方の乳房に乳がんが見つかった方に遺伝子検査をして、異常が見つかったとします。遺伝子異常が見つかると将来約80%は乳がんになる、と言う報告もあるほどかなり高い確率で乳がんを発症するので、予防的にもう一つの乳房を手術で切除してしまうといったことをします。

親から子に1/2の確率で遺伝。遺伝性乳がんとは?

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乳がんの中には、生まれた時から遺伝子に異変があり、乳がんを発症しやすいタイプ「遺伝性乳がん」があることがわかっています。全乳がん患者のうち、5~10%の割合がこの「遺伝性乳がん」だと言われています。
乳がんの発生に関わる遺伝子として代表的なものは「BRCA1」と「BRCA2」です。本来これらは遺伝子を修復する際にがんの増殖を抑制する働きをするのですが、この部分に異常があるために、がんの増殖にブレーキがかからず、乳がんを発症しやすくなると考えられています。
また、この遺伝子異変は、2分の1の確率で親から子に遺伝します。この2つの遺伝子は卵巣がんにも関係しているので、家族に卵巣がんの既往歴がある場合にも乳がんにかかるリスクが高い場合があります。

遺伝子検査、どんな人が受けられる?

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保険適用の遺伝子検査を受けるには、下記のような条件があります。

一般社団法人日本乳癌学会(2020),『遺伝性乳がん卵巣がん症候群の保険診療に関する手引き』(
/4/1公開,2020/7/10改訂)P.10『⑪ BRCA 遺伝学的検査の保険診療と自費診療の区分』を表化,改編

一般社団法人日本乳癌学会(2020),『遺伝性乳がん卵巣がん症候群の保険診療に関する手引き』( /4/1公開,2020/7/10改訂)P.10『⑪ BRCA 遺伝学的検査の保険診療と自費診療の区分』を表化,改編

これにひとつでも当てはまる場合は遺伝子検査を行えます。検査の結果、異常があった場合に「予防的乳房切除術」は選択肢の一つとして選択できる時代となりました。

今年4月からがん発症者は保険適用!費用は?検査方法は?どこで受けられる?

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遺伝子検査にかかる費用は、これまで約20万円と高額でした。今年の4月からは乳がん、卵巣がん患者であれば、保険が適用されるようになったので、3割負担(6万円ほど)で受けられるようになっています。
検査は、血液を採取するのみ。大学病院やがん専門病院、地域の基幹病院(拠点病院)などで行うことができます。

他にも、予防的に乳房や卵巣を摘出する手術、乳房切除を望まない方に対する定期的な乳腺MRI検査、遺伝カウンセリングも医療保険の適用対象となりました。

保険適用で、多くの命が救われると期待される予防手術

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予防的に乳房を切除すれば、乳がん発症のリスクを約9割以上低下させることができます。
また「BRCA1」と「BRCA2」に異常が見つかると、2~4割が卵巣がんにかかるので、将来出産を望まないのであれば 卵巣・卵管の切除手術も推奨されています。

卵巣がんは早期発見の手段がないので、切除手術は卵巣がん予防に大きなメリットをもたらします。今回の保険適用で検査や手術のハードルが下がり、多くの人の命が救われると期待されています。

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しかし、予防的乳房切除術は誰もが行うものではなく、遺伝子の異常があった場合に選択肢として考えるもの。当てはまらない9割の方には、乳がんの予防法はまだ確立されていないので、検診をして早期発見をすることが大切です。万が一、がんが見つかった場合の治療法はどのようなものでしょうか?

進化する乳がん治療の最前線

乳がん治療の大まかな流れ

国立がん研究センター がん情報サービスHP「乳がん治療の流れ」より
(https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/treatment.html)

国立がん研究センター がん情報サービスHP「乳がん治療の流れ」より (https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/treatment.html)

乳がんの治療は、「局所の治療」と、「全身の治療」を行います。
「局所の治療」は、手術で胸やリンパ節の病巣(がんの巣)をしっかりと取り除きます。その後に、放射線治療を追加する場合があります。
また、「全身の治療」は、病巣から血管の中に入り込んで、血液の流れに乗って全身を駆け巡っているかもしれない微小ながん細胞に対して、薬物で治療をしていきます。

手術後の病理検査などによって治療計画を検討していきますが、乳がんのタイプ分けの研究が進んだことによって、最近ではタイプごとに一番効果のある薬を使い分けができるようになったため、乳がんの治療成績が上がってきています。
また、近年では、これまで手術後に行われていた薬物療法を手術前に行う、術前薬物療法が広く行われるようになりました。中には、がんが完全に消失するケースもあり、その場合は再発率が少なく予後が良好なことが確認されています。

技術の進歩で綺麗なおっぱいも残せるように

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技術が進歩し、傷痕の目立たない手術も可能になってきています。手術には、「乳房部分切除術」と「乳房全切除術」の2つの方法があります。「乳房部分切除術」は、がん細胞とその周りの正常組織1〜2cmだけを切除する、自分の乳房を大半を残せる手術です。
がんが小さく、本人が乳房を残すことを望んでいる場合に選択が可能な手術です。最近では、乳輪のラインや乳房のラインに沿って皮膚を切開することで、ラインと傷痕が重なるようにして、傷痕も見えにくくするなどの工夫も行われています。

がんができている乳房を全て取るのが「乳房全切除術」です。この手術は、がんが大きい場合や、遺伝性乳がんなどの場合に行われます。
最近では、乳房切除と同時に乳房再建も行う同時再建手術も増えてきました。患者さんが、自分の乳房がなくなった状態を見ることがなく、精神的なダメージを少なくすることが出来るメリットがあります。

定期的なセルフチェックが予防・治療の鍵

日本人女性の9人に1人は乳がんになる時代です。まだ予防できる時代ではありません。でも、決して怖がらないでください。正しい知識を持って、しっかりと検診さえ受けてもらえれば、万が一がんが見つかったとしても治せる病気です。早期発見・早期治療が重要です。「自分だけは大丈夫」と言う過信を持たず、定期的なセルフチェックと検診を心がけてください。

高山 伸(たかやま・しん)先生

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国立がん研究センター中央病院 乳腺外科 医長
平成7年東京慈恵会医科大学卒業後、慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。栃木県立がんセンター外科、米国ニューヨーク州コーネル大学医学部、東京歯科大学市川総合病院外科などを経て、平成27年4月より現職。
専門医・認定医資格: 日本外科学会専門医・指導医、日本乳癌学会専門医・指導医、がん治療認定医、マンモグラフィ検診精度管理中央委員会読影認定医、乳房再建用エキスパンダー責任医師

参考文献

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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