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2020.07.27

高橋泰教授が新型コロナをめぐる疑問に答える|暴露と感染の広がり方、PCR検査の問題を解説

東洋経済オンライン

7月18日の東洋経済オンライン記事『新型コロナ、日本で重症化率・死亡率が低いワケ 高橋泰教授が「感染7段階モデル」で見える化』には大きな反響があった。そこで読者からいただいたいくつかの疑問・質問について高橋泰・国際医療福祉大学大学院教授に答えてもらった。前回の補足(2ページ目まで)と死者を多く出したダイヤモンド・プリンセスと武漢、都市部と地方の違い、PCR検査の限界と問題点などである。検査で無症状感染者を見つけ出して隔離するのではなく、重症化・死亡のリスクの高い人を守ることに政府は対策の重点を置くべき、というのが高橋教授の主張だ。

新型コロナは強い暴露力で「数打ちゃ当たる」戦略

――先生は、新型コロナウイルスについて、弱毒であり、日本人では暴露した人のうち98%が自然免疫で処理されるとしています。暴露と感染・増殖の違いを教えてください。

「暴露力」は人の体内に入り込むこと。新型コロナウイルスは「暴露力」が強い。体内への侵入に成功したウイルスはさらに身体の奥深くに進み、人の上気道部の細胞の表面にあるACE2受容体との結合を目指す。結合したら「感染」。感染に成功すると人の細胞はウイルスを取り込み細胞内で増殖したウイルスが、再度細胞外に放出される。しかし新型コロナは、インフルエンザと比べ増殖するウイルス数は少ない。つまり「増殖力」は弱いので「伝染力」も弱い。そして、人の細胞を刺激したり破壊したりする力である「毒性」もインフルエンザよりも弱い。

私の仮説の最も重要な点は「新型コロナに感染して細胞から排出されると、毒性も弱く増殖力も弱いので、当初は身体が自然免疫で対処可能な敵と判断し、98%程度は自然免疫で処理され、完治する」ということだ。マクロファージなど異物を食べる貪食細胞で構成される第1次防衛網である「自然免疫」で抑え込んでしまうので、獲得免疫はなかなか発動せず、抗体ができにくい。これに対し、インフルエンザの場合は毒性が強いので、第2次防衛網である「獲得免疫」が早期に発動して抗体ができる。

新型コロナは体外に排出されるウイルス量も少なく、感染した人から次の人にうつる「伝染力」が弱く、感染のチェーンが切れやすい。だから、実効再生産数があまり伸びない。 この弱点を補うためになるべく多くの人に暴露しようというのが、新型コロナの基本戦略で、強い暴露力による「数打ちゃ当たる」というものだ。

新型コロナのごく一部は、自然免疫の攻撃をかいくぐり、広く感染が拡大することがある。このような場合は、獲得免疫が出動し抗体で新型コロナを殲滅する。さらにそのうちわずかな率であるが、一部の人では「免疫機構の暴走」であるサイトカイン・ストームを引き起こして重症化し、死に至ることがある。高齢者や体力の弱っている人や高血圧、肥満の人はサイトカイン・ストームのリスクが高くなる。

高橋泰(たかはし・たい)/国際医療福祉大学大学院教授。金沢大学医学部卒、東大病院研修医、東京大学大学院医学系研究科修了。東京大学医学博士(医療情報)。スタンフォード大学アジア太平洋研究所、ハーバード大学公衆衛生校に留学後、1997年から現職。社会保障国民会議や日本創生会議などで高齢者の急増、若年人口の減少に対応した医療・介護提供体制の整備の必要性を提言。地域医療構想などの先鞭をつける。2016年9月より内閣未来投資会議・構造改革徹底推進会合医療福祉部門副会長。新型コロナウイルスについて、東京都の専門家会議では年代別対策の提言が取り上げられた(撮影:尾形文繁)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/365254?page=2

高橋泰(たかはし・たい)/国際医療福祉大学大学院教授。金沢大学医学部卒、東大病院研修医、東京大学大学院医学系研究科修了。東京大学医学博士(医療情報)。スタンフォード大学アジア太平洋研究所、ハーバード大学公衆衛生校に留学後、1997年から現職。社会保障国民会議や日本創生会議などで高齢者の急増、若年人口の減少に対応した医療・介護提供体制の整備の必要性を提言。地域医療構想などの先鞭をつける。2016年9月より内閣未来投資会議・構造改革徹底推進会合医療福祉部門副会長。新型コロナウイルスについて、東京都の専門家会議では年代別対策の提言が取り上げられた(撮影:尾形文繁)

――サイトカイン・ストームについてもう少しご説明ください。

インフルエンザなどの外敵侵入により生体が危機に陥ると、生体防衛の仕組みが働く。免疫を担当する細胞をはじめとする種々の細胞のネットワークが、サイトカインと呼ばれる生理活性物質を産生・分泌することにより、攻撃を命令する。それが適量だったら免疫が適切に調節されウイルスを撃退して終わる。

サイトカイン・ストームの発生機序はまだよく解明されていないが、私の研究チームは、生体防衛のシステムが相手を過大評価してサイトカインを大量に放出し、例えると、ミサイルが10基でよいところ、100基で攻撃し、ウイルスだけでなく自身の正常細胞も傷つけてしまうという現象だと考えている。

新型コロナではこれにより異常な血液凝固が起き、全身に血栓ができやすく、そのことでさらに状態が重篤化することが報告されている。

前回の図で、「ステージ5~6で凶暴化」としたが、ウイルス自体の性格が変わるのではなく、生体のほうが慣れないウイルスなので過剰反応してしまい、自爆するというのがより近い表現だ。

日本人の重症化率・死亡率が低い3つの要因

――次に日本と欧米との違いを簡単におさらいしてください。

日本が欧米と違う点は3つ。第1に環境面だ。リスクの高い高齢者をウイルスから隔離する仕組みが高齢者施設で徹底し、高齢者一人ひとりの自主的な隔離も行われていたこと。もともとインフルエンザウイルスやノロウイルスへの対策が徹底していた。第2に自然免疫。欧米に比べて何らかの理由で強く、BCG説など有力な説がある。第3に体質。日本人は欧米人に比べるとサイトカイン・ストームの起きる率が低く、起きても血栓ができにくく、重症化しにくい。

リスクの高い高齢者の暴露率を日本は欧州と比べ1/4、自然免疫力の差によりしっかりした症状が出てしまう発症率の差は欧州人の1/10、サイトカイン発生により死亡する可能性を欧州人の1/2.5とすると、4×10×2.5=100で日本の死亡率が欧州各国の約1/100という関係を説明できる。3つの数字の設定はさまざまな情報から私が予測したものにすぎないが、数字を変えるとき、3つを掛け合わせれば100になる関係であることが必要だ。

――前回、すでに日本人の30%が暴露しているとしたことについて、この数字はどうやって出したのか、という質問がありました。

シミュレーションは暴露率をいくつか設定して現実の死者数に当てはまりのよい数字を見つけた。そこからさらに全員が暴露した場合の重症者数と死亡者数の予測を行った。

例えば、暴露率を全国民1億2600万人の約1/3、4200万人が暴露していると仮定し、この時の死亡者数が1000人とすると、全国民・残り8400万人が暴露したら、あと2000人が死亡する。国民の1/30である420万人しか暴露していないと仮定すると、あと1億2180万人が全員暴露したら、29倍(12180÷420)の2万9000人が死亡することとなる。このような考え方をもとに、5月10日時点を起点として、6月7日までの重症者数、死亡者数の動向に照らし合わせると、現状の7月25日時点の暴露比率は30~40%に想定するのが、実態に合っていると判断している。

前回のインタビューのあと、社会保険研究所のホームページでシミュレーションの内容も詳細に説明した論考を公開しているので、関心のある方はご参照いただきたい。

クルーズ船、武漢は暴露を濃厚にする閉鎖環境

――モデルでは日本人のうち約3割が新型コロナに暴露しており、暴露した人のうちの98%は自然免疫で治り、発症は2%、重症化する人は暴露した人の0.01%にも満たない数字です。これは日本全体の平均です。一方、これとは別枠のダイヤモンド・プリンセスは乗客乗員計3711名、うち陽性が712名で7月25日までに死者が13人出ています。また中国全体では死亡率は低いけれど、武漢では他の10倍を超える高さでした。

ダイヤモンド・プリンセスについても、5月10日時点で死亡者予測のシミュレーションを行ってみた。年齢層別発症者数から算出した死亡者予測は現実と一致しており、ダイヤモンド・プリンセスの死亡者数の多さは、船内での発症率が平均よりも高かったことが主因とみられる。

これは前述の3要素の中では1つめの環境の問題が大きいと思われる。船内の食事はビュッフェ形式であり、そこで多くの人が濃厚な暴露を受けたことが予測される。新型コロナの最初の流行地であった武漢も、流行開始時は春節に当たり、無防備なままパーティーが各地で開催された。中国の食習慣である直箸(じかばし)で、ウイルスを大量に排出する無症候キャリアから、濃厚暴露が各地で起こり、感染が急速に広がったことが予測される。

また、ダイヤモンド・プリンセスはその後、重症者を含め多くの人がその場に閉じ込められた閉鎖空間となり、その結果、ウイルスの密度の高い状態となり、大量のウイルスの保持者がお互いにうつしあうことになった。武漢も野戦病院形式で検査や治療を同じ部屋で行い、結果的にウイルスの大量暴露や繰り返しの暴露が起きやすい環境が実現したと推測できる。

そのような環境では、最初は自然免疫で治っても暴露の状態が続いてしまう。AさんがBさんにうつし、Cさんにもうつすが、またBさんがAさんにうつし返すといった具合で、感染のチェーンも途切れなくなってしまうし、何度もかかると体力を消耗し、自然免疫の力も弱くなってしまう。院内感染を起こしたような施設も同じ状態だ。つまり、閉じられた空間にいたから何度も暴露する。

逆に言えば、そうした濃厚暴露の環境を防ぐことは有効だ。 開かれた空間で普通に活動していれば、ウイルスに1日に何度も暴露するということは非常に稀(まれ)だ。

――新型コロナの感染拡大は都市型であり、地方では感染のチェーンが切れがちとのことですね。

感染拡大について上の図で解説しましょう。この図では水色の四角で囲んだ部分が、新型コロナに暴露した人々です。その中で色がついているのは、暴露したうち感染に至った人です。

しかし、青色で示した多くの人は自然免疫が強くてほとんど無症状か気がつかないほどの軽症で、ウイルスの排出もほとんどなくスプレッダーにならない。また、黄色の人は、無自覚スプレッダーで、一時的にウイルスを排出するが、自然免疫で治る。

ところが、発生確率は低いけれど、自然免疫では抑えられず獲得免疫が出動し、風邪のような症状もかなり出て、ウイルスも多めに排出して人にうつすオレンジの人が出てくる。さらに、明らかな熱や咳などの症状が出たのが赤色の人で、PCR検査したら陽性になって入院することになる。

都市型感染拡大の一部をたまたま見つけている

赤色の人の周辺を検査したら陽性者が4名見つかった。そこで、この赤色の丸で囲まれた部分を、現状では「クラスターが発生した」と表現しているが、実はたまたま、見つかったにすぎない。

現在は検査を増やしているので、陽性者の発見が増えている。3月下旬は検査数が少なかったが、実効再生産数はピークであり、この時にもっと検査していたら、今の数十倍から数百倍のPCR陽性者が見つかっていたのではないかと私はみている。

図は都市部の広がり方だが、クラスターから4代目までうつしていたという例は今まで報告がないようだ。そのことからも、ウイルスの暴露力は強いが伝染力は弱く、感染のチェーンは切れやすいと考えられる。過密な状態ができないと暴露数も少なくなり、上の図でいえば水色で囲まれた部分の規模が小さくなるので、一般的に都市部より地方のほうが感染は広がりにくい。

また、付け加えれば、自然免疫力が日本人よりも弱い人が多い欧米の場合、同じ数の人が暴露しても日本より発症者が多く、伝染のスピードが早い。入院を要する人の数も比例して増える。また、海外を見ても、人口密度の高い都市部のほうが被害は大きい。

――「PCR検査でたまたま見つかっただけ」というお話でした。しかし、テレビではこの数ばかり報道して「第2波が来た」としています。先生はPCR検査を拡大することの問題点も指摘されています。

なぜ、「PCR検査陽性者数」を重要視するのかと疑問に思う。新宿や池袋では特に、感染事例が多いとして、今、検査を盛んに行っているので、ある事例を上の図で見てみましょう。仮にPCR検査をしていたら陽性になる状態をPCR陽性期間、陰性になる期間をPCR陰性期間としましょう。

人が密集し他人との飲食も恒常的でほぼ毎日新型コロナにさらされる、つまり暴露しやすい環境にある人がいたとする。そこで感染すれば、PCR陽性期間に入る。その後、無症状のまま自然免疫で撃退してしまうと、ウイルスの遺伝子の残骸が消失して、PCR陰性期間に入る。

ところが次に感染したら、無理もしていたので、自然免疫で撃退できずに熱が出て一週間寝込んだ。この間はPCR陽性期間になる。でも若くて基礎疾患もなかったので、獲得免疫で撃退して治り、抗体ができて、これ以降、抗体検査をすればずっと陽性になる。しばらくしたらPCRは陰性期間に入る。その後、またしても感染したら、抗体ができているので発症はしないのに、PCR検査は陽性期間に入ってしまう。

PCR検査の「陽性」「陰性」が隔離に使えない理由

この例でもわかるように、抗体があるのにPCRは陽性になりうるし、PCR陰性といわれても次の日には暴露して陽性かもしれない。このことがほとんどの人に理解されていない。PCRの「陰性」が意味するところは、「検査時の前1週間程度は、新型コロナに感染していないこと」であり、2週間前に感染していた可能性や検査直後の感染可能性はまったく否定できない。企業が採用のために「PCR検査を受けてこい」といったなどという話があるが、「陰性証明」などほとんど意味がないのではないか。

前回も話したが、感染者に照準を当てて無症状者の検査をどんどん拡大して、陽性者の入院や隔離を行うことは、医師や看護師など医療従事者に過大な負担をかけ、医療資材を費消する。肝心の重症者に手が回らなくなるおそれがある。また、無症状なのに入院・隔離させられた人の社会・経済活動を制限するので、社会全体にとって大きな損失だ。

――世界的にも感染者数の拡大に焦点を当てた報道が多いですね。

世界的に見ても、日本と同様に検査数の拡大によって感染が見つかる数は急激に伸びているが、死者数はそれほどには増えていないんですよ。

――若い人が動き回って高齢者にうつすことについては、どう考えますか。


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確かにそのリスクは高まるし、高齢者のほうが死亡リスクも高い。GoToキャンペーンにしても、他の活動にしても人の移動が活発化すれば、当然、感染リスクは高まる。しかし、私のシミュレーションでは、それでも、10万人当たりの死者が3人を超えることはなさそうだという予測です。一方、10万人対比16人が自殺で亡くなっており、経済活動の停滞が続くと、自殺者が急増する危険性が指摘されている。

また、新型コロナ感染を怖がって健康診断を延期する人が多く、従来ならば発見されるはずの早期がんの発見が遅れ、救えるはずの命が救えなくなることが危惧されている。さらにステイホームにより体重が増えると、細胞表面のACE2アダプターが増え、感染と重症化の確率が上がるという研究報告がある。高齢者ではデイケア・デイサービスに行けず、認知症が進み足腰が弱る人も増えている。

このように新型コロナの暴露確率を下げるメリットと他のリスクを高めるデメリットのバランスを考慮して対策の内容を見直す必要があるだろう。

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大崎 明子:東洋経済 解説部コラムニスト

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