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2020.07.10

遺言書保管制度が「普通の家庭」にも役立つ理由|未成年の子がいる親は作っておくのがベター

東洋経済オンライン

7月10日に始まる遺言保管制度を活用するといいでしょう(写真:タカス/PIXTA)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/361190?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

7月10日に始まる遺言保管制度を活用するといいでしょう(写真:タカス/PIXTA)

3.7%――。

これは、55歳以上の男女8000人を対象に「自筆証書遺言を作成したことがあるか」という調査について「ある」と答えた人の割合です(2018年 リベルタス・コンサルティング調べ)。

7月10日より法務局において遺言書保管制度が始まります。自分で作った遺言書を役所に預けることができるので紛失や消失を防げるうえ、これまでは相続が発生したときに必要だった家庭裁判所による検認手続ききという手間も省ける便利な制度です。

厚生労働省の人口動態によれば、2018年における、わが国の死亡者は約136万人なのに対し、同年に公証役場で作られた公正証書遺言は約11万件、家庭裁判所で検認された自筆証書遺言は約1万7000件しかありません(日本公証人連合会 公正証書遺言作成数、司法統計 自筆証書遺言の検認件数)。こうしたデータが物語るのは、遺言書という制度があることを知っていても、実際に遺言書を作る人がいかに少ないかという事実です。

遺言書と聞くと、「財産をたくさん持っている人が作るもの」「もっと歳をとってから考えればいいもの」と考える人も多いのではないでしょうか。しかし、すぐにでも遺言書を作ることをお勧めしたいのは、未成年の小さな子どもがいらっしゃるご夫婦です。

遺言書を作る目的は、相続人たちが遺産で争うことを防ぐことだけではありません。

未成年者の親こそ遺言を

ここからはフィクションとして、例えば、40代の夫婦である竹村豊さん、真美さんの間に17歳高校生の博文さん(いずれも仮名)という家庭のケースを考えてみます。

ある日、突然の事故で夫の豊さんが亡くなってしまい、自宅、預貯金、自家用車と家のローンが残されたとします。

博文さんは未成年でまだ財産の管理ができませんから、本来であればすべての遺産を妻の真美さんが相続して未成年の博文さんを育てていかなければなりません。また、夫の豊さんなしに家のローンを払うのが難しければ、自宅を売却したほうがいいケースもあるでしょう。

これらの場合には自宅や預貯金、自動車などの名義を夫の豊さん名義から妻の真美さん名義に書き替える必要があります。そして、名義を変更するためには相続人全員が遺産分割に合意したことを示す協議書を作成し、不動産については法務局、預貯金については金融機関、自動車については陸運局に提出しなければなりません。

しかし、遺産分割協議書を作りたくても、未成年者の博文さんは単独でどのような遺産分割をするかを決定できません。通常であれば、未成年者である博文さんの代わりに親が親権者として意思表示をするのですが、今回のケースではそれも許されません。

夫の豊さんの遺産を妻の真美さんと子の博文さんが分け合う場面なので、妻と子どもの利益が相反してしまう(妻が多くもらおうとすると、妻自身が代理人を務めようとする子どもの取り分が減ってしまう)のです。

このような場合には、子どもに代わって遺産分割の意思表示をしてもらう代理人を選んでもらうために、家庭裁判所に特別代理人選任の申し立てという手続ききをとらなければなりません。そのためには書類を集めて提出する手間がかかるだけでなく、通常は遺産の額に応じて数万円から数十万円の報酬を特別代理人に払う必要があります。

もし未成年の子どもが2人いたら特別代理人も2人、未成年の子どもが3人いれば特別代理人も3人選んでもらう必要がありますので、それだけ思わぬ出費もかさんでしまうことになるのです。

一方、もし夫の豊さんが生前に

「すべての財産は妻の真美さんに相続させる」

という遺言書を作っていたら。

何とこれだけで、相続人には遺産分割協議書を作る必要がなくなり、子どものために特別代理人を選んでもらう必要もなくなるので、たくさんの手間が省けるだけでなく、多くの費用をかけずに済むことになるのです。

自分の突然の死で家族を困らせないために、万が一のために遺言書を作っておくことが家族を守ることになります。

自筆証書遺言と公正証書遺言

遺言書には大きく「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」という2つの方式があります(正確には「秘密証書遺言」という方式もありますが、あまり利用されていませんので、ここでは触れません)。

自筆証書遺言は、遺言者が手書きで遺言を作成する方式であるのに対し、公正証書遺言は、遺言者が公証役場で公証人に遺言書を作成してもらい、遺言者と証人2名が署名捺印をすることで作成される遺言書です。

遺言が有効となるための形式は法律で細かく決められているため、その形式を守らないとせっかく作った遺言書が無効になってしまうことがあります。それだけでなく、相続が発生した後に「本当にこれは被相続人の意思によらず作成を強要されたものなのではないか?」「偽造されたものなのではないか?」などと、相続人間で遺言書の有効性や解釈について争いになることも少なくありません。

このような争いを予防するためには、公正証書遺言を作成することが有効です。費用はかかってしまいますが、公証人が作成するため形式を誤って無効になることはないですし、証人を立て遺言者の意思を確認して作成するため、遺言者の意思能力や遺言の解釈の争いを未然に防ぐことができるのです。

しかし、未成年の子どもがいる親が、家族に無用な手続ききをとらせる手間から守るために遺言書を作成するのであれば、費用のかからない自筆証書遺言を作成すれば十分です。とても単純な内容の遺言書であれば、形式を誤って無効となる心配もないですし、そもそも相続人の間での遺産争いを防ぐ目的で作るものでないため、公証人の助けを借りる必要もないからです。

自筆証書遺言の作り方

先ほど例に挙げたケースのように、夫が自分名義の財産をすべて妻に相続させたいと考えた場合、以下の手順で簡単に遺言書を作ることができます(妻が自分名義の財産を夫に相続させたい場合も同様です)。

具体的には、A4用紙にボールペンで、
--------------------
遺言書
遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、妻〇〇〇〇(〇〇年〇〇月〇〇日生まれ)に相続させる。

〇〇年〇〇月〇〇日

住所 〇〇〇〇〇〇〇〇
遺言者 〇〇〇〇  印
--------------------
と書くだけです。

以下の5つのポイントだけ注意していただければ、誰でも簡単に作成できるはずです。

① 一度書いたら消すことができない筆記用具(ボールペンや万年筆)を使う。
②財産を「譲る」「遺贈する」ではなく、「相続させる」と書きます。不動産の名義変更の際に「譲る」「遺贈する」との表現では、妻が単独で登記名義の申請をできなくなる可能性があるからです。
③必ず、遺言書を作成した年月日を書きます。「吉日」などの記載は認められません。
④必ず、署名と捺印をします。印鑑は、実印があれば実印が望ましいですが、認印でも問題ありません。
⑤記載を誤った場合には訂正印を用いて訂正することもできますが、改めてすべてを書き直したほうが無難です。

遺言書を作るのが難しいと感じるのは、財産の割合を指定して複数の人に相続させたい場合や、財産ごとにそれぞれ別の相続人に相続させたい場合、相続人以外の人に財産を譲りたい場合などに、財産を特定するための目録の作成、遺留分や相続税に配慮した条項などを作らなければならないからです。

未成年の子どもがいても特別代理人を選任せずに、スムーズな相続手続きができるようにすることを目的とした遺言書は、とてもシンプルなのですぐに作ることができます。

作った遺言書の保管

これまで、作成された自筆証書遺言は、封筒に入れて封をした状態で自宅に保管するか、信頼する人に預けることが多かったようです。遺言書を作ったことは相続人に知らせておきたいが、遺言の内容は秘密にしておかないと、生前に相続人の間で争いが起きたり、遺言書を改ざんされたりする心配があるため、保管の仕方には頭を悩まされてきました。

さらに、遺言者が亡くなった場合に、自宅などに保管されていた自筆証書遺言を使って財産の名義変更をするためには、家庭裁判所で「遺言書の検認」という手続きを受けなければなりません。

相続人が裁判所に集められ、相続人の目の前で封筒を開封したうえ、「この遺言書は裁判所が検認済みである」という証明書が添付されて、はじめて不動産や預貯金の名義変更が認められるのです。検認の申し立てや立ち会いの手間も、遺言書の作成を躊躇させる理由の1つになっていたかもしれません。

このような遺言書の保管場所の問題や検認手続きの手間を解決する制度として、7月10日より法務局による自筆証書遺言書保管制度という新しい制度がスタートします。

自筆証書遺言を作成して自宅近くの法務局に保管申請を出すと、遺言書を保管してもらえるだけでなく、遺言書をデータとしても保管してもらえるので、改ざんや紛失、消失を心配する必要がなくなります。

法務局に遺言書を預けると「保管証」が発行されるので、遺言者は遺言の内容を知られることなく、遺言書を作成したことだけを知らせることもできます。

そして、万が一遺言者が死亡した場合、相続人は法務局から遺言の内容が表示された証明書を取得できるようになります。この証明書があれば、面倒だった家庭裁判所の検認手続きを受けなくても財産の名義変更ができるようになり、とても便利です。

自筆証書遺言を法務局に預けるために必要な手数料は3900円です。

受付は完全予約制なので、法務局に行く前にインターネットで予約をする必要があります(法務局 遺言書保管予約システム)。

「A4用紙に1枚、手書きの遺言書を書いて、法務局に預ける」

これだけで、万が一のときに大切な家族を守ることになります。

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三谷 淳:未来創造弁護士法人 代表弁護士

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