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2020.06.29

インフル予防がコロナ対策で取り沙汰される訳|罹患リスク低減だけでない効果がある可能性も

東洋経済オンライン

「第2波」に備えるためにあらゆることを検討していく必要がありそうだ(写真:amadank/PIXTA)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/359655?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

「第2波」に備えるためにあらゆることを検討していく必要がありそうだ(写真:amadank/PIXTA)

新型コロナウイルスの「第2波」への備えが議論され、PCR検査体制の強化や入院ベッドの確保の準備などの対策が進んでいる。

一方、こうした一連の議論の中で抜け落ちている対策がある。それはインフルエンザワクチンの接種だ。「なぜ、新型コロナウイルス対策にインフルエンザワクチンが必要なのか?」と疑問に思うかもしれない。ただ、一見すればインフルエンザと新型コロナウイルスは発熱や上気道症状を呈し、臨床症状では区別できないという問題がある。

インフルエンザと新型コロナウイルスは同時に感染することがあるし、抗原検査やPCR検査が陰性であったとしても感染が否定できない。今冬、インフルエンザと新型コロナウイルスが同時に流行するようなことがあったら、発熱患者がインフルエンザだったとしてもすべて新型コロナウイルス感染の可能性がある前提で取り扱わねばならなくなる。

日本の場合、これまでインフルエンザの罹患数は年間で1000万~1400万人程度(推計ベース)にも及んできた。ピーク時には1日数万人単位で罹患する。

今年はインフルの流行が抑えられた

6月24日、中国国家衛生健康委員会が、中国国内の1日あたりのPCRの検査能力を3月はじめの126万件から378万件まで拡大したと発表したのは、インフルエンザ流行を念頭においたものと考えられる。

一方、日本のPCRの検査能力は最大で1日あたり2万8000件だ。自民党新型コロナウイルス関連肺炎対策本部の田村憲久本部長(元厚生労働相)は、PCR検査や抗原検査について、「1日10万件の検査能力を持つべきだ」と数値目標案を示しているが、これで十分なのかと疑問が残る。

日本が貧弱な検査体制で新型コロナウイルスの第1波をやり過ごすことができた要因の1つに、2019-20年のシーズンには1月以降、インフルエンザの流行が収束したことが挙げられる。発熱で病院を受診する患者の絶対数が少なかった。もし、インフルエンザが流行していたら、新型コロナウイルスとすぐに区別がつかず医療現場は大混乱に陥ったはずだ。

今冬、インフルエンザが大流行したら、発熱で病院を訪れた患者の中で、新型コロナウイルス感染が否定できない患者に対しては、長期間の自宅や病院での隔離を勧めざるをえなくなる。

読者の皆さんは、このような状況に陥るのは避けたいだろう。そのためにはインフルエンザや新型コロナウイルスに罹らないように予防を徹底するしかない。徹底した手洗い・消毒やマスクの着用などの基本的な対策に加え、私はインフルエンザワクチンの接種を強くお奨めしたい。発熱や上気道症状などの原因がインフルエンザなのに、新型コロナウイルスに感染していると疑われずに済む。

実はインフルエンザワクチンを推奨するのは、もう1つ理由がある。それはインフルエンザワクチンが新型コロナ感染を予防する可能性もあるからだ。

インフル予防接種者とコロナ患者の相関

アメリカ・コーネル大学の医師たちが6月4日、イタリアの高齢者を対象としたインフルエンザワクチン接種率と、新型コロナ感染時の死亡率の調査で、両者の間に統計的に有意な相関が存在したと報告した。インフルエンザワクチン接種率が40%の地域における新型コロナの死亡率は約15%だったが、70%の地域では約6%まで低下していたという。

もちろん、この結果の解釈は慎重になされなければならない。ワクチン接種率が高い地域は経済的に豊かで、健康状態がよい。両者の関係は単なる交絡かもしれない。ただ、彼らはこの点も解析し、その可能性は低いと述べている。

彼らが考えるもう1つの可能性は、インフルエンザワクチンが免疫力全体を活性化し、インフルエンザだけでなく、新型コロナウイルスに対する免疫力を高めたことだ。これは結核予防のために接種されるBCGワクチンが、新型コロナウイルスに有用ではないかとされる機序と同じだ。

繰り返すが、この考え方は現段階では仮説にすぎない。結論を得るには、今後の臨床研究の結果を待たねばならない。

今冬のインフルエンザの流行については懐疑的な声もある。インフルエンザは世界中を循環し、冬場に南半球から赤道を通って日本に流入もする。新型コロナウイルスの流行のため、海外との交流が激減している日本では流行は小規模かもしれないと考える専門家もいる。

私は、このような楽観論は禁物と考えている。日本経済にとって、いつまでも海外渡航を制限するわけにはいかず、インフルエンザの流入は避けられないからだ。インフルエンザは2019-20年のシーズンは流行していないため、日本人の集団的な免疫力は低下している。いったん流入すれば、大流行へと発展する可能性がある。そうなれば、インフルエンザワクチンの需要が高まり、品薄になるはずだ。

例年、早い施設ではインフルエンザワクチンは9月半ばから接種が始まる。確実な接種には、職場や最寄りの医師との調整が不可欠になるだろう。

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上 昌広:医療ガバナンス研究所理事長

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