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2020.06.14

SARSの抗体の一部が新型コロナウイルスに有効?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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ウイルスなどの病原体が身体に侵入して感染を起こすと、それを排除しようと反応する物質の総称が「抗体」。この仕組みを「免疫」といいますが、抗体をもっていたとしても新型コロナウイルスに感染する可能性はある…と耳にしたことも多いのではないでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、Nature誌に2020年5月18日にウェブ掲載された、SARS患者の回復後のリンパ球が産生する抗体の一部が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の中和抗体でもあるという興味深い検査結果についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

抗体がウイルスを排除する仕組みとは?

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ウイルスなどの病原体が身体に侵入して感染を起こすと、それを排除しようとする免疫の仕組みが働きます。そして病原体が排除された回復期になると、その病原体を速やかに排除するために病原体の特徴的な部分に結合する、抗体というマーカーのようなタンパク質が、B細胞というリンパ球によって産生されます。

仮にまた同じウイルスが感染を起こそうとして侵入すると、その抗体が速やかにそこに結合してその侵入を許さないのです。

これが抗体がウイルスを排除して、同じ病気に2度罹らないようにする仕組みです。個別のウイルスに対しては、通常そのウイルスにのみ結合する抗体が産生されます。

ただ、ウイルス自体に似通った性質がある場合、違うウイルスに対しても同じ抗体が結合し反応する、ということもありえます。

あるウイルスに対する抗体が他のウイルスに対しても有効である場合、これを「交差免疫」と呼んでいます。

原因ウイルスが非常に似ている新型コロナとSARS

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今回の新型コロナウイルスはSARSの原因ウイルスと、高い類似性があります。分類的にも、同じβコロナウイルスのサルベコウイルス亜属に属します。

上記文献の著者らは、SARSから回復した患者の血液より、メモリーB細胞という抗体産生細胞を取り出し、SARSに反応する抗体の分析を行なっています。

SARSの原因ウイルスに反応する抗体と言っても、1種類ではなく多くの抗体が存在しているのですが、その中に他のコウモリなど動物由来のコロナウイルスに対しても、中和抗体として働くような抗体があることを発見しているのです。

であるならば、SARSから回復した患者のリンパ球が産生する抗体の中に、今回の新型コロナウイルスを中和するような抗体も、あるのではないでしょうか?

どの抗体がウイルスの中和に働くのか?

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そうした推測のもとに、25種類の主に感染に関わる突起の部位に結合する抗体を解析。それが新型コロナウイルスの中和抗体として働くかどうかを検証しています。

25種類の抗体のうち8種類は新型コロナウイルスにも結合し、特にS309とネーミングされた抗体が、新型コロナウイルスの中和抗体として働くことが、疑似ウイルス中和アッセイという厳密な手法により確認されました。

これは本物のウイルスではありませんが、それに非常に近い疑似ウイルスを細胞に感染させ、それを抗体が阻止するかどうかを見ている検査で、かなり信頼性の高いものなのです。

このS309というモノクローナル抗体を合成して、投与すれば理屈の上では新型コロナウイルスには感染しません。

勿論、新型コロナウイルス感染症自体から回復した患者によって、同様の検証を行なえばより確実であるのですが、その検証の手がかりにもなる訳です。

抗体と簡単に言いますが、実際にはウイルスの結合部位に対する抗体も、SARS原因ウイルスにおいて20種類以上も同定されていますから、どの抗体が確実にウイルスの中和に働くのか、それともあまり働かないのか、ワクチンの開発も含めてその辺りの検証はそう簡単なものではないようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36