メニュー

2020.06.06

新型コロナウイルスは夏になればおさまるのか?

kencom監修医:石原藤樹先生

記事画像

緊急事態宣言が解除されたものの、平穏な日常が戻るのは時間がかかりそうな日々が続いています。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、medRxiv誌という査読前の論文を集めたサイトに2020年5月5日にウェブ掲載された「新型コロナウイルスの加熱に伴う不活化」を検証した論文です。

今日はこれを含めて3編の論文をご紹介し、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)と温度や気候との関係を考えます。

▼石原先生のブログはこちら

ウイルスの増殖は温度に関係するのか?

記事画像

ウイルスはその種別によって、温度が低い方がより増殖しやすいものもあれば、温度が高めの方が増殖しやすい性質のものもあります。

それでは、新型コロナウイルスはその点どうなのでしょうか?

最初の論文はそれを検証したもので、主にRT-PDR検査目的で患者さんの検体を採取した際に、他の場所に付着したウイルスが、どのくらいの温度で不活化するかを実験しています。

まず37度の温度においては、24時間でウイルスの感染力は殆ど低下せず、48時間でも低下はするものの、感染力は維持されていました。これが42度の室温下になると、24時間後には感染力はほぼなくなり、48時間では感染はしない状態になります。

更に56度の室温下では、30分でウイルスは不活化して感染力はなくなります。ただ、56度で30分置いた後においても、ウイルスのRNA自体はそのまま保たれていました。

ウイルスは不活性となるものの死滅はしない!

つまり、56度の高温で30分維持すると、ウイルス自体は不活化して感染力は失うのですが、ウイルスが死滅したということではなく、活動出来るような環境に置かれれば感染力も回復する可能性がある…ということになります。

これは遺伝子検査などを行なう際に、56度で30分検体を置いておけば、その場では感染するリスクなく検体を扱えて、遺伝子自体の抽出には問題は生じない可能性が高いということを意味しているのです。

一時「お湯を飲むとウイルスが死ぬ」というような、トンデモ情報が世間をにぎわしたことがありました。確かに熱いお湯を30分以上飲み続ければウイルスの不活化には成功しますが、それは現実には不可能ですし、ただお湯を飲んだだけではウイルスは不活化しないのは、これはもう間違いのないことなのです。

では次の知見です。

新型コロナな夏になれば自然と収まるのか?

記事画像

気温や湿度とウイルス感染との関連、というのも議論になるところです。単純に言えば、流行は夏になると自然に収まるのでは…というような意見の真偽です。

この論文は2020年のEur Respir Jに掲載されたレターですが、中国全土の新型コロナウイルスの感染地域において、その場所の気温や湿度紫外線量と、感染の起こり易さとの関連をみたものです。

感染の起こり易さは、1人の患者が何人に感染させるかを示す、基本再生産数(R0)という指標と累積の患者数で検証しています。その結果、気温や湿度、紫外線量と感染の起こり易さとの間に、明確な関連は認められませんでした。

現状の新型コロナウイルスの感染と季節は関連なのではないか、ということを示唆する知見です。

最後に紹介するのは、査読前の論文サーバー「medRxiv」に、2020年5月5日に掲載されたもの。数理的なモデルを用いて、新型コロナウイルスの感染力と気候変動との関連を検証したものです。

medRxivに載せられている論文は玉石混交で、市販の抗体キットで抗体を測ってみただけというようなレベルから、ネイチャー掲載レベルまでその質は様々です。

この論文は中国のものですがかなり高度な内容です。

新型コロナウイルスの感染力を、その飛沫粒子の安定性という観点から分析し、それを元にして検証を行なっています。飛沫がどれだけの水分を含むか、風がどのように吹いているか、気温はどのくらいか、というような因子によって、飛沫粒子の物理的な振る舞いは推測が可能なので、それを足掛かりにして分析をしようという発想です。

記事画像

その結果、北緯30度付近では12月から2月の冬の時期に飛沫粒子の安定性は高まって感染力も高まり、それが気温の上昇と共に北半球全体に広がって、4月くらいに流行はピークに達します。その後徐々に感染力は低下して、北半球では5月以降に流行は収束に向かいます。

一方で南半球では、4月から8月に掛けて感染力は高まり、その後はしばらく維持されることになると推測されています。つまり、大枠では感染は北半球では夏場に掛けて収まりそうですが、完全に終息することはなく、油断していると秋口から再び、というパターンになる可能性が高そうです。

新型コロナウイルスに現時点で明確な季節性などの特徴はなさそうですが、その飛沫感染などの動態から考えて、日本のような北半球では、夏場の時期は減少する可能性は高そうです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36