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2020.05.05

コロナ「重症患者」を実際に治療した医師の証言|喫煙と肥満は危険因子、若年でも油断できない

東洋経済オンライン

Zoomで取材に応じた郷間厳医師。普段は禁煙外来も担当している(筆者撮影、画像はZoomより)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/348505?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

Zoomで取材に応じた郷間厳医師。普段は禁煙外来も担当している(筆者撮影、画像はZoomより)

感染した患者のうち、約2割が重症化するといわれる、新型コロナウイルス。今、私たちは、どのようなことに注意すべきなのか? そして、医療崩壊の危機が伝えられる現場のリアルとは?

第一種感染症指定医療機関として、新型コロナ感染症の治療にあたる、大阪府の堺市立総合医療センターの郷間厳・呼吸器内科部長に緊急インタビューした。(※本取材は、遠隔会議システム・Zoomを利用して、5月3日に実施)

インフル肺炎より重症でなおかつ長引く

──新型コロナの治療に関して、現状はどのようになっていますか。

5月3日現在、入院患者は13人。このうち、エクモ(※体外式膜型人工肺)は、1人に減り、人工呼吸器を含めICU(集中治療室)に入っている人は4人。先々週は、入院患者が倍以上いたので、対応がかなり厳しかった。

難しいのは、この新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と同様の病気がないこと。強いて言えば、インフルエンザだが、インフルエンザの肺炎より重症で、なおかつ長引くという印象だ。

──重症化する患者の傾向は、明確になってきたのでしょうか。

これまで、59人の患者を受け入れて治療しているが、この数で、はっきり傾向を言うのは難しい。若い人でも中等症になる患者もいるし、高齢でも比較的軽く済む患者もいる。中国の報告から、高齢者ほど重症化することは知られていたが、若年者だからといって安全とはいえない。それが、この新しい病気が持つ難しいところだろう。

喫煙歴については、重症化因子の1つと疑っている。全59人の患者のうち、喫煙歴がある人は21人。このうち6人が重症化して、人工呼吸器を装着した(約30%)。一方、喫煙歴なしの患者は38人、このうち4人が人工呼吸器の装着となった(約10%)。

──この数字を比較すると、重症化する割合は喫煙者のほうが非喫煙者の約3倍に見えますが?

私は、新型コロナの重症化の要因を特定するには、一つの施設のデータだけではなく、疫学的(多施設の症例数から解析する)統計が重要という立場。

ただし、重症化因子として、狭心症や心筋梗塞など、循環系(心臓)の問題が当初から指摘されていたが、この循環器疾患はタバコの影響が非常に大きい。

まだ日本ではあまり報告されていないが、血管の内皮細胞が障害される症状について、コロナとタバコとの関係はあるだろう。もともと喫煙による肺気腫(※COPD)などで、肺の状態が悪かった方に肺炎が起こると、早期に低酸素血症になるし、人工呼吸器の装着が必要になった患者もいた。

それにタバコを吸っていると、肺の局所の免疫力が弱くなるから、肺の中に入ったウイルスがなかなか排除されず、悪化する恐れはある。

いま大事なのは、少しでもリスクを減らすために、タバコをすぐに止めておく、ということだ。

1日でも早くタバコを止めることは大切

──今から禁煙してもムダではないか、と諦めている人もいるようです。

新型コロナは、タバコを吸っているか、否かは関係なく感染する。だが、喫煙者は重症化する可能性が高い。心筋梗塞や狭心症の発症リスクは、禁煙早期でも低下することが知られている。1日でも早くタバコを止めることは、コロナにたとえ罹患しても重症化を避けたいという意味では大切。

──重症化した患者たちの中で、他に気になる点はありますか。

肺炎で重症化する要因のひとつに「肥満」がありそうだ。要するに「太っている患者は悪化しやすい」。

なぜかというと、新型コロナの特徴として、肺の全部がおかされるわけではなくて、おかされた部分と、やられてない部分が、肺の中に分かれて存在することが多い。

肺炎が進行しても正常に近い部分を使って呼吸をすることが可能。この時の呼吸の仕方を例えていうと、運動時のような呼吸状態で、大きく速い呼吸の仕方で補っている。その場合に肥満があると、呼吸仕事量が余分に必要となる。それで、太っていると早く悪化してしまうようだ。

──アビガンやレムデシビルなど、治療薬の効果は出ているのでしょうか?

当院では、ヒドロキシクロロキンが効いたように思える症例もあるし、かなり重い呼吸不全から良くなった患者もいる。先日からアビガンの使用が始まったが、効果が得られたように思う症例もあったが、進行した症例もある。

信頼できる医学報告を参考に、有効性が期待され副作用の少ない薬剤を選んでいるが、既存薬における劇的な手応えというのはまだ感じられない。新型コロナの治療薬は、多数の症例で行った臨床試験で、冷静に評価しなければならない。

──重症化した場合はエクモが有効、という報告もありますが、後遺症もなく回復されているのでしょうか?

エクモの治療で重要なポイントは、相当に熟練した集中治療室の管理が必要であること。医師だけではなく、臨床工学技士が24時間体制で張り付くし、看護師のスキルが大きく影響する。当院では、新型コロナ患者にかかわるすべてのスタッフの力を結集し、「チーム医療」によって患者の命を守っている。

もう一つのポイントは、リハビリ。エクモを使うほどコロナが重症化すると、ICUに入っている期間が非常に長くなり、肺の回復後に「体を起こす」リハビリが必要となる。ただ、理学療法士が感染防御をしながら、リハビリを行うのは非常に難しい。そうすると1日の大半は寝たままになり、社会復帰のレベルに持っていけないという問題が、全国的に懸念されている。

──新型コロナの影響で、医療崩壊してしまうのではないか、という懸念がありましたが、現在はどのような状況でしょうか。

このままでは無理かもしれない、と危機感を抱いた時もあったが、「自粛効果」があって、新規の患者は減っている。軽症者のホテル利用開始も有効だ。

搬送依頼を全て受け入れできているわけではないが、大阪府では、新型コロナの重症者を多施設で分担しているので、医療崩壊はしていないと思う。ただし、中等症以上の患者の入院期間が長くなっていることは引き続き課題。

──クラスター追跡で感染経路を特定していましたが、現在はどうなのでしょう。

大阪府の場合、4月の頭くらいまでは感染経路を追えたが、その後は明確な経過がわからない方が大半になった。飲食店での感染の可能性が高いとか、患者さん本人はどこにも出掛けていないのに同居で通勤など外出を続けている子供さんたちから移ったとしか考えられないような患者が増えていた。

N95マスクが足りず使い回している

──医療現場の物資が不足していると聞きますが、改善されましたか?

絶対的に不足している。例えば、PPE(個人用感染防護具)のガウンは、使い回しこそしていないが、節約のために着用する人数を制限して、1回着たら患者のいるゾーンに入ってしばらく出てこない、という工夫をしている。

だが、これが非常にスタッフに負担がかかり、ストレスが大きい。あと、N95マスク(※感染防御用マスク)も非常に足りない。先週からは、一度使用したN95を、72時間休ませてから再使用している。普段では考えられないやり方だ。

《インタビューを終えて》

新型コロナから命を守る「最後の砦」が、堺市立総合医療センターのような医療機関だ。

それなのに、今でも現場ではマスクの使い回しだけでなく、フェイスシールドを手作りしたり、消毒液の調達に苦労するなど、通常ではありえない対応が続いている。医療スタッフを感染リスクにさらしてしまうことは、絶対にあってはならない。政府や自治体は、医療現場の感染防護用品の不足を一刻も早く改善する責務があるはずだ。

現時点では、わからないことが多い新型コロナだが、今すぐタバコを止める意味はとても大きいことは確かなようだ。

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岩澤 倫彦:ジャーナリスト

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