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2020.05.27

なぜぶつかる?夫婦のミゾの正体【夫婦のトリセツVol.5】

作家:黒川伊保子

些細なことで言い合う「夫婦喧嘩」が絶えないなんて人はいませんか。
普通に話していたはずなのに、なぜか言い合い。果てには、友人間や職場などで愚痴をこぼしてみたりと、夫婦の悩みは尽きないものです。

脳科学を研究する作家・黒川さんによる「夫婦のトリセツ」の5回目は男女のミゾに迫ります。

男女の間にあるミゾの正体とは?

わかり合ったはずなのに…。夫婦とは難しいものです

わかり合ったはずなのに…。夫婦とは難しいものです

脳には、とっさに使われる、二つの回路がある。

プロセス指向共感型とゴール指向問題解決型と呼ばれる二つの脳の使い方だ。

前者は、「深い気づき」と「リスクヘッジ」に長けた回路である。それをうまく回すために、感情トリガーを駆使する。
それができない脳から見れば、ときに、感情的でだらだらした会話に陥りやすく、「今さら言ってもしょうがない過去」を蒸し返すように見える。

後者は、すばやい判断と危機対応力に長けた回路である。それをうまく回すためには、相手の欠点をいきなり指摘して事を荒立て、時にぼうっとして使いものにならない。

それをしない脳から見れば、「ひどい人」である。優しさの欠如に思える。

脳の中には、このような相反する二つの感性が内在しており、多くの女性がプロセス指向共感型を、多くの男性がゴール指向問題解決型を優先して使う傾向にある。

この二つの感性がぶつかり合うと、著しいコミュニケーション・ストレスを生み出す。それこそが、男女のミゾの正体である。

違う感性モデルを優先する相手を、自分と同じだと思い込むのが一番いけない。相手がひどく劣って見える。相手が優先している感性モデルを熟知すれば、愚行に見える行為から繰り出される才能に気づき、真の敬意が生まれる。

ダイバーシティ・インクルージョンのセミナーやシンポジウムに出向くと、必ずと言っていいほど、冒頭に主催者代表の方が「男女が互いに理解し合い、敬意を持って」と挨拶されるのだが、精神論だけじゃ、とうてい無理。なぜなら、ヒトは、感性に洗脳されているからだ。

感性とは、生存可能性を上げるために、脳の基調となる神経回路特性である。

生存に関わるので、迷っていては危ない。脳は、躊躇なく、自分の優先側を選ばないといけないのである。物を掴むとき、とっさに利き手を出すように。

躊躇なく選ぶということは、別の手段があるとも思えない、ということだ。つまり、自分の感性モデルが「世界のすべて」であり、「世界の正義」だと信じているのである。

とっさの感性がすれ違ったとき、ゴール指向問題解決型の人は、きっとこう思うのだろう。

「この人、だめだなぁ。どうでもいいような話を延々とするばかりで、建設的な会話ができない。せっかくの適切なアドバイスにも逆切れするし…。正しいのは、客観的に判断して、すばやく問題解決できる自分である」

一方で、プロセス指向共感型の人だって、うんざりしている。

「この人、ひどいわ。思いやりもないし、そもそも人の話をまともに聞けやしない…。正しいのは、ヒトの気持ちに寄り添って、深い納得を生み出してやれる私」

この感性の呪縛を超えて、私たちはわかり合わなければいけない。
男女が入り混じって、多様性組織を作っていく、今という時代に。

価値観の違いやぶつかりあいも、楽しむ気持ちを忘れずに

男女が同じ場所に、同等の権利で混じり合う——実は、人類が何万年も経験したことがなかった衝撃の事態なのである。しかも、コロナショックで、世界はテレワークの時代に一気に突入。夫婦は、未曽有の危機にさらされている。

その上、夫婦は、「外界刺激への反応」が真逆のタイプがペアになっていることが多い。
寒がりは暑がりと、寝つきの悪い人はいい人と、おっとりは、せっかちと惚れ合う。違う免疫タイプを持ち寄って、よりタフな子孫を残すためだ。

というわけで、

この世で最も感性の違う相手と「生き残るためのタフなペア」を組むのが夫婦という組織なのである。

わかりあって、いたわりあって、ほのぼのと過ごすための一組だと思っていると痛い目に遭う。
でもね、痛い相手ほど、自分にできないことを軽やかにしてくれる最高の戦友になる。

山谷を超えて、夫婦というタフな関係を楽しもうじゃありませんか。

▼「夫婦のトリセツ」バックナンバーはこちら

著者プロフィール

⬛︎黒川伊保子(くろかわ・いほこ)
株式会社感性リサーチ 代表取締役社長、人工知能研究者、作家、日本ネーミング協会理事、日本文藝家協会会員

1983年奈良女子大学理学部物理学科を卒業、コンピュータ・メーカーに就職し、人工知能(AI)エンジニアを経て、2003年、ことばの潜在脳効果の数値化に成功、大塚製薬「SoyJoy」のネーミングなど、多くの商品名の感性分析に貢献している。また、男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、人類のコミュニケーション・ストレスの最大の原因を解明。その研究成果を元に多くの著書が生み出されている。中でも、『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』は、家庭の必需品と言われ、ミリオンセラーに及ぶ勢い。

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