メニュー

2020.05.24

なぜ男は気が利かないと言われてしまうのか【夫婦のトリセツVol.2】

作家:黒川伊保子

女性から「本当に気が利かないんだから!」なんて言われた経験のある男性は多いのではないでしょうか。

「友人はもちろん、職場でもそんなこと言われたことないのに、なんで!?」と疑問が走ることがありますが、なんともこの不思議な現象についてアドバイスをしてくれたのは、「妻のトリセツ」の著者である黒川伊保子さんです。

「自分はどこまで家事のことを理解しているか」を想像しながらご一読ください。

「夫は気が利かない」といわれる理由

男性は目的に向かって突き進むもの

男性は目的に向かって突き進むもの

男は気が利かない。多くの女性がそうため息をつく。
「なぜ、夫は何度言っても置きっぱなしなの!?」。

答えは簡単だ。優秀な狩人の脳だからだ。

40代妻たちへのアンケートによると、夫への不満の圧倒的な一位は「ぱなし」だそうだ。使ったコップを置きっぱなし、脱いだシャツを放りっぱなし。

「夫は毎晩、風呂上りにビールを飲むんですが、そのコップをテーブルに置きっぱなしにするんです。何度言ってもダメ。寝室に行くついでにキッチンに持っていくだけなのに、なぜそれができないのか理解できない」「この間、Tシャツを脱ぎ始めた夫に、『それをそのまま、洗濯機に入れる!』と言ったら、夫は、床のスウェットパンツをひょいと跨ぎ越して、シャツだけ入れました。ひどすぎる」と怒り心頭の書き込みもあった。

しかし、私は、すべての妻たちに告げたい!

多くの男たちにとって、「足元のパンツに気づく」「テーブルの使用済みのグラスに気づく」は、意外に難題なのである。

テレビCMの間に、トイレに行って帰ってくるだけでも、女は数個のタスクを片付ける。テーブルの上の汚れたグラスを片付け、トイレの帰りに、玄関に干してあった傘をたたむ。ついでに、家族の靴を揃える。そこまでしても、台拭きを取りに行くことを忘れず、テーブルを拭く。この気働きこそが、家族と家庭への愛着の証である。

それなのに、夫ときたら、汚れたグラスも、干してある傘も一顧だにしないで、ただトイレに行って帰ってくる。
その気働きのなさに、愛情の欠如を感じて、妻は、絶望してしまうのだ。

しかし、男性の多くは、ゴール指向型である。

目標を決めたら、「目の前のあれやこれや」は、目に入らないように脳がフィルタリング(排除)してしまう。男性脳は、狩人の脳として進化してきた。「あのウサギを狩る」と決めたら、「あ、バラが咲いてる」「あ、イチゴが熟してる」なんて、よそに目が向くわけにはいかないのである。だから、目標をトイレと決めたら、コップや傘が目に入らない。

一方、女性脳は、「周囲のあれやこれや」を緻密に拾うほうが断然有利だ。

子どものわずかな体調変化にも気づけるし、キノコの採取に出掛けたとしても、道中に見つけたベリーも薬草も摘めたわけだもの。
何万年の時をかけて、男性は潔く目標に意識を絞るように、女性は目の前のあれやこれやを拾うように進化してきたのである。

女性脳と同じ気の使い方を男性脳に求めるのは難しい

ゴール指向型の回路に、「あれやこれや」をやらせようと思ったら、大変なことになってしまう。軍隊のように、細部に至るまで規則化して、何度も訓練して身につけさせなければならない。報酬(褒めことばとか階級とか)も与えないと、脳には定着しない。

そこまでしても、「初めての事象」はなかなか目に入らない。妻が、赤ちゃんのおむつを換えているとき、赤ちゃんが急に寝返りを打って、おむつ拭きに手が届かない…なんていう初めての事態に気づいて、取ってあげるなんていうことは、永遠に起こらない(と思ったほうがいい)。

そして、何よりかわいそうなのは、男性脳だ。

女性脳と同じように気働きを要求したら、男性脳には数倍のストレスがかかる。男性ホルモン・テストステロンが減少して、やる気や集中力が落ちてくる。

というわけで、すべての妻たちへ。夫の気働きのなさや、置きっぱなし・脱ぎっぱなしは、ざっくりと許してしまおう。家事は、タスクイーブン(作業の平等)じゃなく、ストレスイーブン(ストレスの平等)で考えることだ。

夫たちは、「自分の知らない家事」が山ほどあることをまるっと認めて、日ごろから妻に感謝すること。
そして、トイレに行くついでに、何か一つだけ「ついで家事」を心がけてみよう。

3回に1回できるだけでも、きっと妻の心に響く。

▼次の記事はこちら

著者プロフィール

⬛︎黒川伊保子(くろかわ・いほこ)
株式会社感性リサーチ 代表取締役社長、人工知能研究者、作家、日本ネーミング協会理事、日本文藝家協会会員

1983年奈良女子大学理学部物理学科を卒業、コンピュータ・メーカーに就職し、人工知能(AI)エンジニアを経て、2003年、ことばの潜在脳効果の数値化に成功、大塚製薬「SoyJoy」のネーミングなど、多くの商品名の感性分析に貢献している。また、男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、人類のコミュニケーション・ストレスの最大の原因を解明。その研究成果を元に多くの著書が生み出されている。中でも、『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』は、家庭の必需品と言われ、ミリオンセラーに及ぶ勢い。

この記事に関連するキーワード