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2020.04.16

新型コロナウイルス感染症と下痢症状【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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新型コロナウイルスに感染すると、下痢症状を訴える方も多いのだとか。
では、症状が下痢だけという方もいるのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、これはGut誌の2020年3月5日にウェブ掲載された、新型コロナウイルス感染症と下痢症状についてのレターです。

1例報告で今更という感じはあるのですが、新型コロナウイルス感染症で見逃し易い症状について、確認の意味で記録しておきます。

▼石原先生のブログはこちら

新型コロナウイルスに感染したら下痢をする?

新型コロナウイルス感染症の症状は、発熱や全身倦怠感、咳などが代表的で、重症化では概ね肺炎を来します。

従って、どうしても肺炎を疑わせるような、咳や呼吸困難などの症状に対しては、誰でも新型コロナウイルス感染症を疑うのですが、たとえば下痢とだるさのみの症状であると、簡単に「感染性胃腸炎」というような判断になり、新型コロナの可能性がスルーされてしまう。ということが起こり得ます。

担当科も肺炎は呼吸器内科で、下痢は消化器内科ということになりますから、その点でも間違いが生じやすいのです。

初期症状が下痢のみという場合も

紹介されている事例は22歳の男性で、4日続く下痢と微熱を主訴に医療機関を受診しました。
軽度の呼吸器症状も認められたため、胸部CTが撮影され、新型コロナウイルスに特徴的な肺炎像が認められました。
画像がこちらです。

軽度の所見ですが、両側性にすりガラス様の陰影が複数認められています。

このように初期症状が下痢のみという新型コロナウイルス感染は、しばしば認められるので注意が必要です。

中国の院内感染の事例の報告では、当初下痢のみの患者が新型コロナウイルス感染を疑われず、それが院内感染の発端となりました。
国内の院内感染の事例でも、消化器内科の入院患者が発端になったケースがあると、話を聞いたことがあります。

便での感染が持続するのが特徴

昨日の論文にもあったように、便で感染が持続し長期間続くことが、今回の新型コロナウイルスの1つの特徴で、これはSARSにはなくMERSには見られた特徴です。
下痢の頻度はSARSが10.6%であったのに対して、MERSは30%に達していました。

ポイントは今回の新型コロナウイルスが、上気道と下気道、および腸管の3種類の部位で、独立して増殖するという性質があることで、下気道感染以外は軽症に推移する一方で、周辺への感染は長期間成立する可能性が高い、という点に注意が必要なのです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36