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2020.03.26

喫煙者のコロナ感染がどうも楽観視できない訳|米の研究論文で重症化リスク指摘、WHOも警鐘

東洋経済オンライン

タバコ好きな人にとっては好ましくない話ですが……(写真:Altayb/iStock)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/339751?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

タバコ好きな人にとっては好ましくない話ですが……(写真:Altayb/iStock)

3月に入って屋内における喫煙スペースの閉鎖を表明するオフィスビルや商業施設などが相次いでいます。4月1日から喫煙に関する規制が一段と厳しくなる「改正健康増進法(受動喫煙防止法)」の全面施行を控えていることも影響していますが、実は別の理由があります。

それは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大です。屋内の喫煙スペースがクラスター(感染者集団)発生の原因となる可能性が懸念されているのです。

屋内喫煙スペースにクラスターの懸念

日本では3月19日、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が「最も感染拡大のリスクを高める環境」として、①換気の悪い密閉空間、②人が密集している、③近距離での会話や発声が行われる、という3つの条件が同時に重なる場を避けるように、改めて警鐘を鳴らしました。屋内の喫煙スペースには、まさにこの3条件がそろっています。

加えて新型コロナウイルスに限りませんが、感染症の予防においては、徹底した手洗いが推奨されています。ウイルスがついている可能性のある手で顔を触ってしまうことによって、口や鼻、目などからウイルスが侵入して感染するリスクが高まるからなのですが、喫煙行為は、まさに手を口に持ってくる動作そのもの。頻繁に行うことで感染リスクが上がってしまいます。

喫煙スペースは、不特定多数の人が利用するという特徴もあり、クラスターが発生しても感染ルートが追えなくなり、感染流行を阻止できなくなる恐れもあります。

加えて、新型コロナウイルスにはこれ以上に喫煙者にとっての不都合な話があります。喫煙していると新型コロナウイルスに感染した場合に重症化する可能性が高いと指摘されていることです。

WHOが中国の新型コロナウイルス感染者について発表したデータ(Report of the WHO-China Joint Mission on Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)16-24 February 2020)によれば、新型コロナウイルスによる致死率は男性が4.7%、女性2.8%と男性のほうが高くなっています。

これだけで明確な因果関係は立証できないものの、同じくWHOによれば(WHO report on the global tobacco epidemic 2019)、中国では喫煙率は男性で約52%、女性は約3%と男性のほうが圧倒的に高いことがわかっています。

最近、このことに関する研究結果が2つ発表されました。

1つは中国の『チャイニーズ・メディカル・ジャーナル』という医学雑誌に2月28日に掲載された論文です。ここでは多くの要因を考慮した解析により、喫煙歴が最大の重症化要因であり、喫煙していると約14倍重症になりやすいと述べられています。

もう1つはアメリカの『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』という最も権威のある医学雑誌に同じく2月28日に掲載された論文です。こちらには、中国本土の患者1099人の分析が報告されたのですが、非喫煙者の重症率は14%なのに対して、喫煙経験者は24%が重症となっていました。

これに掲載された表から私が計算してみたところ、非喫煙者に対して、喫煙経験者は約1.7倍重症化しやすく、約3倍、危篤状態(集中治療室入室、人工呼吸器装着、死亡のいずれか)になりやすいということが読み取れました。

また、報道ベースの情報ですが、ロイターは3月25日配信記事で、欧州連合(EU)の専門機関、欧州疾病予防管理センター(ECDC)が、喫煙者、および以前に喫煙していた人が新型コロナウイルスに感染すると症状が重くなる恐れがあるとする研究結果を報告したと報じました(「新型コロナ、喫煙者に重症化リスク=欧州疾病センター」)。

喫煙を長く続けると肺の機能は低下しやすい

これらの事実は呼吸器内科医である私にとっては、納得の内容です。喫煙を長い間続けていると俗に「タバコ肺」と呼ばれる慢性閉塞性肺疾患 (COPD)になることが多いのです。そのなかでも典型的なのが肺気腫です。

当然、肺の機能は落ちていきます。私もたくさんのタバコ肺の患者さんを診療していますが、つねに酸素を吸わなければならなくなった患者さんは、本当につらそうです。

タバコ肺が進行すると、日常のちょっとした動作でもすぐに息が切れるようになり、だんだんと外出することもできなくなっていきます。水に溺れたような息苦しさがずーっと続くと考えていただければよいでしょう。息切れを改善する吸入薬はありますが、病気自体の進行を止めるには禁煙するしかありません。

タバコによって肺の余力がなくなった高齢者が、新型コロナウイルスに感染すると、あっという間に呼吸が苦しくなって、人工呼吸器を使用するほどの呼吸困難となる可能性が高いと考えられるのです。

タバコの煙を肺の中に入れていると、感染に対する免疫力が低下します。どこかの免疫学者がタバコを吸うと免疫力が高まるなど変なことを言っていたこともありますが、タバコの煙は全身の免疫力も低下させるというのが正しいのです。当然、煙が入ってくる肺においてもいろいろな機序で免疫機能を低下させます。そのことが、肺の感染症を増やすと考えられます。

具体的には、肺結核、肺炎球菌肺炎、レジオネラ肺炎、インフルエンザ、同じコロナウイルスのMERS等で、感染のリスクが高まったり、重症化しやすくなったりすることが報告されています。

東京新聞:TOKYO Webは3月21日配信記事で、「アメリカのワシントン・ポストが新型コロナウイルス感染症の死者について男性が女性に比べて多い傾向が見られると報じている」と紹介しています(「コロナ死者、男性の方が多い傾向 イタリアは7割以上、理由不明」)。これについても喫煙率の高さが影響している可能性はありえます。

WHOや海外の政治家が喫煙の危険性を指摘

新型コロナウイルス感染症の予防という観点においては、禁煙の重要性が強く言われるようになってきました。

例えば、WHOの公式ホームページでは、新型コロナ感染症にかかわるQ&Aで、「してはいけないことはありますか?」という問いに対する答えとして、最初に「喫煙」と書かれています。また、3月20日に同ページで紹介された事務長談話では、「タバコは吸わないで。喫煙は、あなたが新型コロナウイルス感染症になった場合、重症化するリスクを高めます」と記述されています。

また、ロイターは3月9日配信記事で、アメリカ・ニューヨーク市のビル・デブラシオ(Bill de Blasio)市長が「タバコや電子タバコを吸うと、コロナウイルスに感染した場合、重症化しやすい」とコメントしていることを報じました(「Smoking or vaping increases risks for those with coronavirus: NYC mayor」)。


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海外では、公的機関や政治家からも警鐘が鳴らされていますが、日本では役所や政治家などから、こうした情報が公にあまり伝わってきていません。私自身、医療現場で胸部CT画像の相談を受けているほか、PCR検査に当たるなど新型コロナウイルス感染症の診療に当たっています。地元の岡山ではまだ広がっていないこともあり、幸い現時点では陽性患者をまだ診てはいませんが、この点についてはとても心配に思っています。

少しでもリスクを減らすとすれば、禁煙するほかないというのが呼吸器内科医としての意見です。

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川井 治之:岡山済生会総合病院 呼吸器内科診療部長、がん化学療法センター長

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