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2020.03.09

「日本のコロナ対策」間違えてはいけない戦い方|医療崩壊防止が第一、批判応酬しても仕方ない

東洋経済オンライン

中国・武漢市では新型コロナウイルスに感染した患者が殺到して医療機関がパンク状態に(写真:Featurechina/アフロ)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/335672?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

中国・武漢市では新型コロナウイルスに感染した患者が殺到して医療機関がパンク状態に(写真:Featurechina/アフロ)

新型コロナウイルスの感染が国内外に広がっています。今、私たちに本当に求められていることとは何でしょうか?

私は、立教大学ビジネススクールで「クリティカルシンキング」「ストラテジー」「医療ビジネス論」など6科目の講座を担当していますが、これら3科目の複合的な視点から、今の日本に最も求められている新型コロナウイルス対策は何かを考察します。

まずストラテジー、つまりは戦略論の要諦は、「絞り込むこと」にあります。特に今回の感染症拡大のような大きな問題が起きたときの戦略の要諦は、「(多くの問題が起きているなかでも)最大の問題は何か」「その最大の問題において最大の問題箇所はどこか」を特定し、そこに資源を集中することであるとされています。最大効果ポイントに資源を集中させることが大きな問題が起きたときの戦略の定石なのです。

最大の問題とその最大の問題箇所は?

次に、「最大の問題は何か」「その最大の問題において最大の問題箇所はどこか」を特定していくためには、クリティカルシンキングにおける論理思考のOS的なフレームワークである「3W1H」を活用して分析していくことになります

(図表参照:外部配信先では全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

社会や組織で何か大きな問題が起きたときによくあるのは、「問題の特定ができない」、あるいは「そもそも何が問題かを特定しようとせず、打ち手から入ってしまう」ことが挙げられます。今回のコロナウイルス感染拡大においても、政府への批判や不安感を煽るような動きも目立つ一方で、問題箇所や問題の原因を分析せずに、打ち手だけ指摘する向きも少なくないように思います。

そもそも打ち手とは何に対して打つものかというと、実は問題そのものではないのです。打ち手は原因に対して打つもの。したがって、問題の特定や問題箇所の特定ができて初めて合理的に特定可能となる原因分析をしないで、妥当性の高い打ち手を考えるのは困難なのです。

例えば、私は2年ほど前に筋トレをし過ぎて腕を痛めました。最初の頃はマッサージに行って痛みのある腕の箇所を揉んでもらっていましたが、いっこうに痛みは治癒しませんでした。その後、治療院に行って、私の痛みである問題箇所の原因は脇の下の奥であることがわかりました。当該原因部分である脇の下の奥を治療してようやく問題である痛みも治まったのです。これが、問題(痛み)、問題箇所(痛む部分としての腕)、原因(脇の下の奥)、打ち手(脇の下の奥の部分を治療すること)の関係です。

それでは、現在起きているコロナウイルスを対象として3W1H分析を行っていきたいと思います。まず問題(What)としては、「コロナウイルス感染が拡大している」ということが指摘されるでしょう。ここで現実世界において最もよくあることは、次の問題箇所の特定(どこが最大の問題箇所かというWhereのプロセス)を実施せずに、「あれも、これも、問題だ・・・」と取り乱してしまったり、きちんと問題箇所や原因の特定をせずに打ち手を先に考えてしまったりすることなのです。

問題箇所の特定を行うには、いくつかの切り口でコロナウイルス感染拡大を分析してみることが必要です。まず、「感染のどのステージが最も大きな問題箇所となり得るか」という切り口で考えてみたいと思います。

重傷者や死傷者を多数出してしまうのが最大問題

残念ながら日本においてもコロナウイルスは水際対策ではなく、すでに拡大することをある程度予測した対策が不可欠なタイミングとなっています。そう考えてみると、「最も大きな問題箇所」とは、重症者や死傷者を多数出してしまうことにあるのではないかと考えられます。

また「どこで感染が拡大することが最も大きな問題箇所となり得るか」という切り口で考えてみると、感染症という性格から、医療機関で感染が拡大すること、さらにはそれが顕在化して国内で医療崩壊が起きることが最大の問題箇所として指摘できるでしょう。

医療機関自体、そして重症感染者を対象に最大の問題箇所を分析してみると、重症感染者を治療する集中治療室(ICU)やその他の関連設備のキャパシティーが指摘されるのではないかと思います。実際にかねてから国内においては感染対策が施された集中治療室は不足しているとの指摘がなされてきました。

実際にも、日本集中治療医学会では、2月10日付で「新型コロナウイルスへのICU対応について」という会員向けの通達を出し、そのなかで「新型コロナウイルス感染症は2月1日に指定感染症に指定されました。このことによって1類感染症の規定が準用され、現在のところ感染症病床がある医療機関を優先として入院加療が行われています。しかし今後さらに感染が拡大すれば、感染症指定医療機関外のICUにおいても加療が必要となる場面も否定できません」と述べています。

さらに同学会では、3月9日付で「人工呼吸器および ECMO(対外式膜型人工肺)装置の取扱台数等に関する緊急調査」の結果を公表しています。「本データの引用は禁止」とされていることから、ここでは調査結果は記しませんが、「調査の目的」には以下のように記載されています。

――新型コロナウイルス肺炎患者の重症化が懸念されている。従前から新興感染症パンデミック時の医療機器配備不足も懸念されている。都道府県による感染症指定医療機関等における人工呼吸器の保有台数等の調査がされているようであるが、広範囲な状況把握が必要との判断に基づき、 (一社)日本呼吸療法医学会・(公社)日本臨床工学技士会において、人工呼吸器および ECMO 装置 の稼働台数等の調査を行うこととした――

原因と打ち手を考える

それでは次に、上記で指摘した問題箇所についての原因と打ち手を考えていきたいと思います。まずは「最大の問題箇所」として指摘した医療機関が、どうして「最大の問題箇所」として指摘されるのかの理由や原因について考えてみたいと思います。

そもそもコロナウイルスは疾病であることから、その疾病に対処するべき医療機関で感染が拡大すること自体が大きな問題であることは言うまでもないでしょう。それに加えて、これからさらに感染が拡大してくると、感染者や感染を懸念する人たちが医療機関に殺到すること、それによってさらに感染が拡大すること、そして当該医療機関において感染者が出ることで当該医療機関の通常業務が影響を受けること、さらには感染もさらに拡大することなどが予想されます。

それでは、これらに対する打ち手とはどのようなことになるでしょうか。打ち手としては

・感染者や感染を懸念する人たちが医療機関に殺到しない施策を打つこと
・通常の患者とコロナウイルス患者とで明確に分別すること
・万が一、当該医療機関で感染者が出ても当該医療機関を閉鎖する等の措置が行われないように準備を徹底しておくこと

などが考えられるでしょう。


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実際に中国・武漢やイランなどの事例を見ると、医療崩壊が起きていたことがうかがわれます。医療機関での感染拡大と医療崩壊を防いでいくことこそが、今の日本で最も求められていることだと考えられるのです。

建設的批判はつねに重要である一方で、政治的には与党と野党で批判し合うことではなく、あるいは一般的にもお互いに批判し合うことではなく、「敵はコロナウイルスである」という共通認識のもとに、共通の敵に対して、一致団結することではないかと思います。致命率は必ずしも高くないという指摘もされるコロナウイルスですが、今後感染者数そのものが増えていくとおのずと死亡者も増えかねません。

「敵はコロナウイルスである」

「敵はコロナウイルスである」という共通認識をもち、少しでも早期に敵に打ち勝っていくためにも、最後に、孫子の兵法の中でももっとも重要な箇所といわれる「兵は国の大事なり」の全文と現代語訳を、軍事研究の大家であり戦 史研究家でもある杉之尾宜生先生の『[現代語訳]孫子』(日本経済新聞出版社)から引用します。ビジネスや経営に即した現代語訳ではなく、あえて軍事研究家の現代語訳を引用するのは、コロナウイルスの感染が拡大しているなかで、私たちが敵であるコロナウイルスとの「戦い」ということの厳しさを再認識し、本当にみんなが一致団結する必要があると思うからなのです。

[原文]

孫子曰く、兵は国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざるべからざるなり。故に、之を経るに五事を以てし、之を校ぶるに七計を以てし、その情を索む。

[現代語訳] 戦争特に武力戦とは、国家にとって回避することのできない重要な課題である。戦争、特に武力戦は、国民にとって生死が決せられるところであり、国家にとっては存続するか滅亡するかの岐(わかれ)道である。我々は、戦争、特に武力戦を徹底的に研究する必要がある。根本的な5つの考慮要素について、己自身の主体的力量を検証し、次いで7つの考慮要素に基づき彼我の力量を比較検証せよ。そうすれば、彼我の相対的な力量の実態を解明できるであろう。

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田中 道昭:立教大学ビジネススクール教授

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