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2020.02.16

がん患者悩ませる「脱毛症状」は治療できるのか|外見変化に対応するアピアランスケアとは

東洋経済オンライン

抗がん剤治療などに伴う脱毛症状に悩むがん患者は少なくない(写真:pearlinheart/PIXTA)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/329781?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

抗がん剤治療などに伴う脱毛症状に悩むがん患者は少なくない(写真:pearlinheart/PIXTA)

「がんを宣告されたときは治ることだけを考えていましたが、手術が終わって退院しても、髪の毛や眉毛、まつ毛のない自分の顔を見るのがイヤで、人に会うことも避けていました」「術後は髪が生えてくるのか心配で仕方がなくて、ただじっと待っているのが怖かったんです」「退院してからはウィッグをつけていましたが、周囲の人に『あの人、がんになったのかな』と思われるのがつらくて」――。

これらは、がん治療にともなう脱毛症状に悩み、「Dクリニック東京 ウィメンズ」の女性頭髪専門外来を受診された人の声です。

注目される「アピアランスケア」

日本では今、2人に1人が、一生のうちにがんに罹患するといわれています。一方、医療技術の進歩により、早期発見・治療ができれば、がんは治る時代にもなってきています。そこで注目されているのが、「アピアランスケア」です。アピアランスケアは、がん治療に伴う外見変化に対するサポートを行い、がん患者の苦痛を軽減する役割を担っています。

がん患者の多くが経験する外見変化の1つに、がん治療の副作用として起こる「脱毛症状」があります。筆者のクリニックにも、がん治療に伴う脱毛症状に悩み、相談に訪れる人が増えています。

乳がんの治療を受けていたAさん(40代)が初めて来院したとき、病院で手渡されたという冊子を見せてくれました。その冊子は、抗がん剤治療と脱毛症状について詳しく説明されたもの。がん患者の不安に寄り添い、脱毛が心身に及ぼす影響や、治療前後の準備やケアについてもまとめられていました。

ところが、術後のケアとしては、帽子やスカーフ、バンダナ、それらと併用する付け毛、医療用やファッション用のウィッグについては説明されているものの、発毛や育毛治療についてはまったく触れられていないのです。

そこで、「1日でも早く元どおりの自分の外見に戻りたい」と切望していたAさんは、発毛や育毛を専門とする医療機関を自らインターネットで検索して、当クリニックを受診したのでした。

Aさんは「髪がなかなか生えてこなくて悩んでいても、がんの治療をしてくれている主治医にとっては取るに足らないことだろうと思うと、相談しづらくて」とも打ち明けてくれました。

Aさんのように、治療中や治療後に脱毛の不安や悩みを抱えていても、命に関わるようなことではないため、主治医に相談することをためらってしまう人は少なくありません。また、家族や友人に話しても「がんが治ったんだからいいじゃない」「髪はそのうち生えてくるから、待つしかないよ」などと軽い調子で言われ、密かに傷ついてしまうこともあります。

毛母細胞は抗がん剤の影響を受けやすい

がん治療によって起こる脱毛は、抗がん剤やホルモン剤による薬物療法、放射線療法などの補助的な治療によるものです。例えば、抗がん剤はがん細胞の増殖を妨げたり、細胞が成長するのに必要な物質を作らせない、あるいは過剰に産生させてがん細胞の死滅を促す「化学療法」のことをいう場合が多いのですが、発毛の元である毛母細胞は体の中でもとくに細胞分裂が活発に行われているため、抗がん剤の影響を受けやすくなります。

女性特有の乳がんや子宮がんでは、女性ホルモンを調節することによりがん細胞の増殖を抑える「ホルモン療法」を取り入れることがあります。健康な髪に必要な女性ホルモンの割合が変化するため、脱毛が生じるケースも多いようです。

がんの既往歴がある人へ頭髪治療を行う場合も、基本的には薄毛や脱毛で悩む人と同様の治療を行います。ただし、がんを治療中の場合には、まずはがんの治療を最優先にするようお話しします。そして、吐き気がおさまる・免疫力が回復するなど、全身の状態がよくなってから、低刺激な外用薬から治療を始めます。

頭髪治療を開始する時期は、その人の免疫の回復具合やがんのステージ(進行度)などによっても違ってきます。治療の効果にも個人差がありますが、早い人では治療開始から6カ月程度で効果を実感するようです。

先のAさんは、主治医に相談する前に当クリニックを受診したので、私のほうから主治医に連絡をして、頭髪治療を行ってもがんの治療には影響がないことを確認しました。治療方針についても同意を得て、Aさんとも改めてよく話し合ったうえで、頭髪治療をスタートしました。

このように、がん患者の頭髪治療を行うときには、主治医との連携と、患者との綿密なカウンセリングによる精神的なサポートやケアが重要です。Aさんは頭髪治療を始めてから主治医とも打ち解けられるようになり、いずれの治療にも前向きに取り組んでいます。

がんの治療が終わり、約1年から1年半もすれば、髪はまた生えてくると言われることが多いのですが、実際にはもっと時間がかかる人もいます。また、生えてはきても、髪質が細くなったり、毛量が少なくなったりすることもあります。

そんなときに、発毛を促したり、健康な髪を育てたりする頭髪治療というアプローチがあることを知っておけば、多くの人の救いになるはずです。しかし、がん専門の医療機関でも、頭髪治療に関する情報はほとんど提供されていないのが現状です。

外見変化に強いストレスを感じる人も

がんの治療中は治すことに専念していても、社会復帰が考えられるようになると、がんそのものよりも、外見の変化に強いストレスを感じてしまう人も少なからずいます。

Bさん(60代)は肺がんが再発したとき、入院中に外出許可を取って、クリニックを訪れました。入院中と聞いたので、とにかく今は、がんの治療に専念してください、とお話ししましたが、以前の治療で脱毛してしまった苦痛が忘れられず、今からできることをしておきたいと言われました。

がんの治療が最優先となる状態でも、脱毛を避けたいというBさんの言葉を聞いて、女性にとって髪はそれほどまでに大切なものだということを、改めて思い知らされました。

がんを克服した女性の中には、治療が終わったときよりも、髪が生えそろったときのほうが、自分の人生を取り戻せたと感じたという人もいます。また、髪が生えそろっても、できるだけ健康な髪を維持したいといって、頭髪治療を続ける人もいます。とくに、女性にとってはより深刻な問題で、がん治療後の社会復帰において高いハードルになることも少なくありません。

がんが治る時代になってきた今だからこそ、治療後のケアの1つとして頭髪治療があることを、より多くの人に知ってもらいたいです。

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浜中 聡子:Dクリニック東京 ウィメンズ院長

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