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2020.02.10

「私の家でない」改造が裏目に認知症介護の苦悩|認知症の人ための「住宅リフォーム」を考える

東洋経済オンライン

よかれと思ったバリアフリー化が、結果的に当事者や家族を不幸にしてしまう例を紹介します(写真:Fast&Slow/PIXTA)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/327632?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

よかれと思ったバリアフリー化が、結果的に当事者や家族を不幸にしてしまう例を紹介します(写真:Fast&Slow/PIXTA)

高齢化がますます進み、近い将来、5人に1人が認知症になる時代がやってくる。家族の将来を考えてバリアフリー化などリフォームを考える人は多いが、実は間違ったリフォームはかえって症状を悪くする可能性がある。例えば、あらゆる段差をなくし、ケガをしないように「バリア」のない住居にする。一見、いいことに思えるが、自宅のバリアフリー化は元気なうちから先回りしすぎると逆効果になるという。日常的に接するバリアが身体を鍛え、健康を維持するのに役立つという側面があるからだ。またリフォームの内容やタイミングによっては、慣れ親しんだ家が自宅に思えなくなる可能性もあるという。

ノンフィクション作家の奥野修司氏は、これまで多くの認知症当事者や家族を取材することで、リアルな実情、そして問題点を見つめてきた。家族がよかれと思ってした選択が、結果的に当事者や家族を不幸にしてしまう例もある。今回は、リフォームの問題点について、最新の著書『なぜか笑顔になれる認知症介護』より抜粋して紹介する。当然のことながら個別の事情や症状によっても異なるのであくまで一例として参考にしていただきたい。

リフォームは当事者の目線で!

「認知症の母の将来を考えてリフォームしたのに、なぜか『家に帰りたい、家に帰りたい』とばかり言う。こんなことならリフォームなんてしなければよかった」「せっかくバリアフリーにしたのに、認知症の父は歩きにくそう。どうして?」

リフォームに関してこんな悩みを聞くことがある。間違ったリフォームのためにかえって症状を悪くする場合があるというが、どういった点に気をつければいいのだろうか。認知症当事者の平みきさんと、デイサービス「DAYS BLG!」を運営する前田隆行さんに伺ってみた。

一口にリフォームといっても、内容以前に時期も重要な要素である。例えば、

(1)認知症ではない時期

(2)軽度の認知症と診断された時期

(3)症状が進行し始めた時期

などが考えられるが、(3)は冒頭で紹介した「家に帰りたい」ケースで、「ある程度早い段階でリフォームするのはいいが、認知機能が落ちてからリフォームすると、症状がさらに進みます。やるべきではない」と平さんは言う。

都会に住んでいた娘が、認知症になった母親を引き取ったら、逆に認知機能が下がってしまったというケースもある。また、親が認知症になったのでリフォームしたら、「ここは俺の家ではない」と言い張るので困っているという方もいた。リフォームなどで環境が大きく変わると、住環境の連続性が断たれてしまう。よかれと思ってしたことが、裏目に出ることもあるのだ。

考えられるのは(1)認知症ではない時期と(2)軽度の認知症と診断された時期だが、まだ元気なうちにリフォームするにはどこに気をつけたらいいのか、平さんに尋ねてみた。

「リフォームのポイントはいくつかありますが、まず玄関は車いすが入れられる広さにし、廊下も広めに取ることです。手すりは両側に取り付けたほうが楽です。トイレ、風呂、脱衣所も介助者が一緒に入れる広さがあったほうが使い勝手がいい。脱衣所は狭いとだめです。風呂場は内開きのドアより、引き戸のほうが移動は楽です。毎日使うところはできるだけ動線を広く取ること。階段はなるべく直線ではなく、曲がってもいいから傾斜を緩やかにしてください」

全自動トイレはNG?

もし4LDKの一軒家があったとすると、3LDKにして風呂、トイレ、廊下は広くしたほうがいいという。

「最近はトイレも全自動になっていますが、これはやめたほうがいいです。トイレっていろんな種類があるんです。トイレによっては水を流す位置も違うし、機能も違います。全自動で全部流すことが習慣になると、認知症になったときに外でトイレを使っても流さなくなることが多いんです」

実際に全自動のトイレで生活していた女性が認知症になった際に、旅館のトイレで大便をしたままお尻も拭かずに出てきたことがあった。トイレを使う手続き記憶(経験の繰り返しによって獲得された記憶)から、お尻を拭いて流すという記憶が欠落してしまったからだろう。こんな失敗が続くと、本人も家族も外出を敬遠する。日常生活の楽しみである外出がなくなると、ストレスが溜まる一方だろう。やがて爆発しないとも限らない。

平さんは、バリアフリーも考えものだという。

「完全なバリアフリーは、足を上げるという機能をなくしてしまいます。段差があるという認識がなくなり、ちょっとした段差でもつまずいてしまうんです。相当に症状が進んだ人でなければ、普段から足を上げることを認識させれば、バリアフリーにしなくても大丈夫です。不安なら、階段のところに白いテープを貼って『段差だよ』と教えてあげればいいのです。そうすれば段差とわかるし、絶対に学習します。転んだら痛いですから」

症状が軽い段階なら、段差でつまずかないように足を鍛えればいい。人に頼らない生活を望むなら、本人も努力するしかないのだ。

前田さんが運営するBLGの建物も典型的な非バリアフリーで段差だらけだ。それでも段差につまずいて倒れた利用者はいないという。

「バリアフリーにすると安全だと思うでしょう? 実は転ぶんです。段差があるほうが転ばないんです。視空間認識に障害が出た人は、床板の継ぎ目の黒い線でも段差に見えることがあります。普段、家の中に段差がない生活をしていると、急に段差があらわれたら足が動かず、バランスを崩して転びます。普段から段差がある生活だと、段差が見えてもさっと跨ぐなりして体をうまく動かせるんです」

視空間認識に障害があると、暗い部分が落ち込み、明るい部分との境目が段差に見える。市松模様や縞模様がデコボコに見え、慌ててバランスを崩すことも。完全なバリアフリーより、段差に見えない工夫のほうが先決かもしれない。

前田さんは、元気なときのリフォームは別として、認知症になったら大幅なリフォームはしないほうがいいと言う。

「段差が危ないからバリアフリーにするというのは、家族の考えなんです。何十年もその家で生活してきた人には頭の中に地図があって、それに基づいて体が動くから、段差があっても体は動きます。それが前に記憶していた部屋と違うと、体がついていけないこともあるんです。

認知症の症状はその人によってさまざまです。途中で変わることもあるのに、先に先にとリフォームすると、体がついていきません。そのうえ、玄関が移動したり、部屋が変わったりしたとき、 前に記憶していた部屋と違うと認識すれば、自分の居場所じゃないと感じることもあります」

介護用ベッドを借りる人が多いが……

認知症になって介護保険サービスが受けられると、介護用ベッドを借りるケースが多いが、これも本人の状態に応じて借りるべきだという。


『なぜか笑顔になれる認知症介護』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

「今まで畳で寝起きしていた人が介護保険を利用すると、ケアマネは介護用ベッドを勧めます。すると起き上がる力が奪われ、夜間にトイレで目が覚めたとき、逆に転んでしまうことがあります。畳で寝起きしていたのなら、何もベッドに替えなくても畳で寝起きしたらいいんです。介護用具を勧めるのは、認知症の人に利用してもらえばもらうほど、ケアマネと福祉業者が儲かるからです」

認知症と診断されたらリフォームと考えるのは、認知症に対する誤解があるからではないか。前田さんは言う。

「将来を考えて、最新型の設備を備えたい気持ちはわからなくもありませんが、本人が描くイメージに合わせて環境を変えるなら、頭も体もついていきますが、家族が勝手に先手を打ってリフォームすると、本人はついていけません。部分的なリフォームは症状が現れてから考えればいいのです」

そのときはもちろん間取りなどは変えないこと。ドアが壁と一体化して見えにくいなら、リフォームしなくても、ドアの周囲に白いテープを張っただけでドアだと認識できる。大柄の模様が入ったカーテンは誤認される可能性があって避けるべきだとされるが、誤認しない人も結構いる。

前田さんが「リフォームは、家族が先手を打ってやると必ず失敗します」というのは、家族の目線ではなく、認知症になった本人の目線で考えろということだ。これは平さんも同じ意見だろう。個別の事情や症状によっても変わってくるが、健康なときならいざ知らず、認知症と診断されてからのリフォームは、最小限にとどめたほうがいいのかもしれない。

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奥野 修司:ノンフィクション作家

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