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2020.01.11

「生理前の不調」に苦しめられる女性の実情|PMSやPMDDの治療は「婦人科」だけでは難しい

東洋経済オンライン

PMS・PMDDには、漢方薬や抗うつ剤・抗不安薬・向精神病薬などが処方されることが多い(筆者撮影)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/322337?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

PMS・PMDDには、漢方薬や抗うつ剤・抗不安薬・向精神病薬などが処方されることが多い(筆者撮影)

30代後半の桃山麻耶(仮名)さんは、2019年の9月、激しい動悸と「このまま死んでしまうのではないか」という不安感、身の置き所のない苦しさに襲われて救急車を呼んだ。

搬送された病院では、循環器科の先生が女性だったので、問診の際、念のため「生理前です」と伝えた。

その日は簡単な検査の後、精神安定剤を処方され、診察の予約をして帰された。

バイエル薬品が制作し、婦人科などで配布している冊子(『生理前カラダの調子やココロの状態が揺らぐ方へ PMS 月経前症候群』)によると、約74%の女性が、月経前や月経中に体や心の不調(月経随伴症状)を抱えているという。

月経随伴症状とは、月経前はPMS(月経前症候群)やPMDD(月経前不快気分障害)、月経中は月経困難症と呼ばれる症状だが、日本ではまだあまり知られていない印象だ。

しかし、ホルモンバランスの変化により、精神状態や体調が変化することに気づき、悩んでいる女性は少なくない。

そこで、実際にPMSやPMDDに苦しむ女性の事例を紹介することで、PMSやPMDDについての理解を社会に広められたらと思う。

生理前の2~3日がつらい

後日、桃山さんが救急搬送された病院へ行くと、循環器科の医師から婦人科の受診を勧められた。

桃山さんは、友人が通っている婦人科を受診。丁寧な問診を受けた後、PMDDと診断された。

「PMDDという病気を知ったのはそのときが初めてです。数年前から生理2~3日前になると、身の置き所のないような、何とも言えない不快な感覚に襲われることがありました。でも、年齢的なものもあるのかなと、そこまで深刻に捉えてはいませんでした」

婦人科医は最初、低用量ピルと漢方薬、不安感の強さから、抗不安薬を頓服で処方。

その後の1カ月は、薄氷を踏むような日々だった。ピルの休薬日4日間は、また振り出しに戻ったように調子が悪くなり、よかったり悪かったりを繰り返す。

しかし、3カ月が過ぎた2019年の12月。仕事帰りのバスの中で、パニック発作が起こる。

婦人科医に相談したところ、低用量ピルと漢方薬から抗うつ剤へ薬が変更に。

「抗うつ薬になった段階で『婦人科だけではダメかも』と思い、友達が通う評判のいいメンタルクリニックへ電話をしましたが、予約がいっぱいで断られてしまいました」

桃山さんは現在、ほかのメンタルクリニックを探しながら、婦人科に月1回通い続けている。

生理前の不快な症状が悪化

私は桃山さんの経験した動悸や不安感、「身の置き所のない苦しさ」がよくわかる。

私も生理の約1週間前になると、ちょっとしたことでイライラしたり、いつまでもクヨクヨしたり、メソメソ落ち込んだりする精神的な不調とともに、肩こりや目の疲れ、頭痛や便秘などに悩まされていた。

おそらく本格的に悩み、インターネットで情報を集め出したのは、産後仕事に復帰した頃だったように思う。

それでなくても子育てと仕事でクタクタなのに、生理前になると精神的にも身体的にも重だるく、自分だけ地面に沈みながら歩いているような気分だった。

しかし人間、外に出れば「ちゃんとしよう」と思うようで、仕事は何とかこなせたが、家庭では生理前になると夫とよくケンカになったし、子どもにも必要以上にイライラしていた。

PMSという言葉を知ったのはそんな頃だ。

PMSは、月経開始の3~10日くらい前から始まる精神的・身体的症状で、月経開始とともに減退・消失する。70%ほどの女性が何らかの症状をもち、日本人女性の6.5%は、社会生活に影響がある「中等症状以上」の症状を抱えているとの報告があるという。

私は「これだ!」と思い、まずはPMSに効果があるといわれる漢方を処方してくれる病院を探し、桂枝茯苓丸、加味逍遙散、当帰芍薬散、桃核承気湯、半夏厚朴湯、補中益気湯、抑肝散などを片っ端から試した。

しかし、どれもイマイチ効果が実感できず、結局続かなかった。

明らかにいつもと違う不安感

そんな中迎えた2019年の6月、そろそろ生理前の不快な症状が出る頃だと思っていたら、明らかにいつもと違った。

理由もなく不安でたまらない。

誰かにそばにいてほしいのに、誰かがそばにいると煩わしい。イライラソワソワして、走り出したいような、叫び出したいような気分で落ち着かない。他人と自分を比較して、自分はダメだと責め続け、「自分なんていないほうがいい」「死んでも誰も悲しまない」と思い、涙があふれてくる。自分で自分がコントロールできない感覚から、今にも何かとんでもないことをしでかしてしまいそうな気がして、脳内で警鐘が鳴り続けているような感じがする。

自分に対する嫌悪感と同時に、「これはまずい」という危機感に襲われ、私は必死にインターネットを検索した。

年齢的に少し早い更年期障害を疑い、「ホルモン補充療法」が目に留まる。「PMDD」という初めて見る単語にも引っかかった。

PMDDは、PMSよりも精神症状が強く現れ、日本人女性の1.2%がPMDDであるとの報告があり、治療対象になっているとのこと。

その治療方法には、うつ病の人の治療に使われるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)という軽い抗うつ剤が使われることもあると知る。

私は「ホルモン補充療法」とSSRIに興味を持ち、そのどちらにも対応できる病院がないか、近所の精神科や婦人科を調べ、4~5件ほど電話で問い合わせた。

すると、精神科は「ホルモン補充療法はできない」。婦人科は「精神薬は処方できない」と返答。

仕方がないので、更年期障害に的を絞り、ホルモン補充療法に詳しそうな婦人科に行くことにした。

婦人科の医師はまず、ホルモンの量を調べるため、血液を採取。約1週間後に出た結果は、ホルモンの量は十分すぎるほどあり、「更年期障害ではない」。

私は、生理が来ると生理前のつらさを忘れてしまうため、生理前のさまざまなつらい症状を紙に書き出して持って行った。

それを見た医師は、いくつかの質問をしてから、「おそらくPMDDだと思われますが、残念ながらPMDDは婦人科では治療できないので、精神科か心療内科に行ってください」と言い、冒頭の冊子を渡した。

「生理に関係する症状なのに、婦人科で治療できないの?」と内心さじを投げられたような絶望感の中で冊子をめくると、以下のようなチェックシートがあった。

【PMDD ~月経開始前1週間について~】

□うつ気分や落ち込みがひどい

□不安、緊張感、どうにもならない、がけっぷちなどの感情がある

□拒絶や批判に対する感受性が高くなったり、情緒的に不安定だったり、予測できなかったりする

□イライラしたり、怒りっぽくなる

○趣味や日常活動に興味が薄れている

○物事に対する集中力が薄れている

○いつもより疲れているし、活動性が低い

○炭水化物を偏って摂食したり、同じものを食べ続けたりする

○睡眠過多だったり、睡眠不足だったりする

○限界感、自己喪失感がある

●月経前に以下の少なくとも2つの症状のために悩まされる

( )乳房痛・張った感じ ( )頭痛 ( )関節痛または筋肉痛 

( )ふわふわした感じ ( )体重増加

〈以下の4つすべてにチェックが入った場合はPMDDの可能性がありますので、医師に相談してみましょう〉

・□の4項目のうち、少なくとも1つに当てはまる

・□と○にチェックが入った項目の合計が、5つ以上になる

・□と○にチェックが入った項目の大部分は、月経開始後3日以内で消失する

・●の症状があるとき、日常の活動が障害される

私は愕然とした。

今回の症状は、□の4つの項目すべてに当てはまるうえ、当てはまる項目の合計が5つ以上になる。

PMDDもかすかに想定してはいたが、どこかで否定している自分がおり、正直面食らってしまった。

PMS・PMDDの治療

私はその日のうちに心療内科を予約した。心療内科の医師は、簡単なカウンセリングをおこなった後、薬物療法を提案。SNRIと呼ばれるセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬と抗不安薬を処方された。

セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI:Serotonin & Norepinephrine Reuptake Inhibitors)は、抗うつ薬の一種で、セロトニンとノルアドレナリンの再吸収に作用するため、気力や意欲の低下に効果が期待でき、うつ症状や病気としての不安の改善を目指す薬だ。

社会生活上QOLへの影響が軽ければ、EP配合剤などのホルモン剤や鎮痛剤、安定剤や漢方薬などで対応するらしいが、私の場合は漢方では効かなかった経験があり、すでにPMDDと診断されているため、中等症以上の患者に対応する治療法を選択されたようだ。

EP配合剤などのホルモン剤とは、エストロゲン(E:卵胞ホルモン)とプロゲステロン(P:黄体ホルモン)の2種類の女性ホルモンを配合した薬だ。服用中は排卵を休めることで子宮内膜を薄い状態にし、経血量を減らすだけでなく、子宮内膜での痛み物質の産生を抑制し、PMS・PMDDの症状も起きにくくできる。

そのため、海外にはPMDD治療の承認を得ているEP配合剤が存在するが、日本国内には避妊を適応に持つピルと、月経困難症に保険適用のある月経困難症治療薬があるのみで、PMS・PMDDに適応のあるEP配合剤はない。

私は、PMSに対して低用量ピルを用いたホルモン療法(偽妊娠療法)がいいという話を聞いたことがあったので、「PMDDの治療はピルではできないのか」と婦人科で質問したが、「40歳以上の患者にピルを使うとがんのリスクが高まる」ため、ピル以外の治療方法を選択したほうがよいとのことだった。

それからというもの、私はSNRIを毎日飲み続けている。おかげで、昨年6月に経験したほどの不安感や焦燥感に襲われることはなくなり、現在抗不安薬は飲んでいない。

原因は諸説あり、解明されていないことも多い

服薬と同時に、スマートフォンに月経やPMSを記録できるアプリを入れ、毎日記録し始めた。

記録がたまってくると、自分の生理やPMS・PMDDの周期、体調の変化や傾向が把握できるようになってくる。

アプリを使うようになってから、夫は時々「アプリを見せて」と言うようになり、生理が近くなると、私の体調を気遣ってくれる。

正直、薬を飲み、アプリに記録をし続けることが面倒に感じることもあるが、自分自身や家族のために、閉経するまで継続するつもりだ。

PMS・PMDDの原因はいろいろな説があり、まだ解明されていないことが多い。

PMS自体がまだあまり世の中に知られていない中、PMSとPMDDの違いが明確になってきたのはごく最近だ。

私も桃山さんも、最初は精神科にかかることや抗うつ薬を飲むことには抵抗があったし、生理前の自分の至らなさをPMSやPMDDのせいにしているようで、気が引ける思いもあった。しかし、多少にかかわらず、体調や気分が楽になるのなら、病院や薬に頼ることは恥ではないし、PMSやPMDDと診断されたからには、自分の持病として真っ向から対峙する責任があると思っている。

生理前に苦しむ女性のすべてに私や桃山さんの経験や対処法が役立つとは思わないが、ほんの少しでも参考になる部分があれば幸いだ。

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旦木 瑞穂:ライター・グラフィックデザイナー

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