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2019.11.29

良い睡眠がもたらすものとは?【快眠ナビ#6】

kencom公式:睡眠改善インストラクター・鈴木麻里子

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イヤなことがあってもなんとか乗り越え、グッスリ眠れば翌朝にはイヤだった気持ちがだいぶ和らぐ。そんな体験をしたことがある方は多いでしょう。これが最も簡単なよい睡眠の効果です。
ただし、よい睡眠がとれているときは自然と目の前のことにフォーカスでき、ストレスがあっても納得のできる判断をしながら前に進めるので、自分の睡眠を意識することはほとんどないと思います。
今回は、そんな見えにくい睡眠の恩恵について、不足した際のリスクという形で紹介していこうと思います。

よい睡眠、よい睡眠習慣がもたらすものを考える

それでは具体的に眠りによってもたらされる6つの効果について紹介しましょう。

(1)免疫力の維持と健康的な身体づくり

まず、病気を寄せ付けない健康的な身体づくりがあげられるでしょう。

睡眠不足は、高血圧、糖尿病、歯周疾患、心房細動、脳卒中、虚血性心疾患、突然死といった、いわゆる生活習慣病のリスクを高めると言われています。逆に言えば、しっかり眠ることでリスクを減らせるわけです。

睡眠不足は免疫力を低下させるため、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなるというデータもあります。国立保健医療科学院の研究者である土井由利子氏らの研究グループが2003年に報告した調査では、睡眠の状態が悪化している事務系労働者は睡眠が足りている労働者と比べて病欠リスクが1.89倍も高かったそうです。
また、米カリフォルニア大学のアリック・プレイサー氏が2015年に報告したところでは、1週間のうち1日平均7時間の睡眠を確保していた人とそうでない人の風邪を引く確率は、5〜6時間の人が4.24倍、5時間未満の人は4.50倍高かったという結果が出ています。

他にも、2週間ほど眠れない日が続くとうつ病のリスクが高まるほか、アルツハイマー病などの認知症や、アレルギーの発症リスクにも不眠が影響することがわかっています。

(2)肥満の防止にも役立つ

夜更かしをしていると妙にお腹が空いて、スナック菓子やジャンクフードが食べたくなるという経験はありませんか。実はこれにも睡眠が関係しています。

2005年にコロンビア大学の研究グループが成人男女約8000人を対象に、睡眠時間とBMI値と関係について報告しました。これによると、睡眠時間が7〜9時間の人と比べて、4時間以下の人は肥満の危険率がなんと235%も、5時間では60%、6時間で27%も高いという結果になりました。これは睡眠時間が短いほど太る傾向になりやすいことを示唆しています。

そもそも睡眠が不足すると、食欲抑制ホルモンの「レプチン」が減少し、食欲冗進ホルモン「グレリン」が増加します。これにより食欲が増加してお腹が空いてしまい、いつも何か食べたいという状況になるのです。
スタンフォード大学で2004年に30〜60歳の男女1024名を対象に行われた調査では、8時間睡眠の人と比べて5時間睡眠の人は、血中のグレリンが14.9%も増加、レプチンは15.5%も減少していました。
夜更かしをしているだけで、太りやすい食生活になりやすいことがおわかりいただけたのではないでしょうか。もし太りにくいライフスタイルを目指す、またはダイエットを成功させたいなら、何はともあれ早く寝たほうがよさそうですね。

(3)記憶力の低下も防げる

睡眠と、記憶の定着や消去に密接な関係があることも知られています。

記憶には20秒くらいまで保持される「短期記憶」と、数分〜数十分以上たってから思い出すような「近似記憶」、意識的に覚えてからかなり時間がたった後でも思い出せる「長期記憶」があります。
睡眠不足が続くと、短期記憶と近似記憶の定着が阻害されるだけでなく、長期記憶の整理と索引作りも阻害されるため、覚えることや思い出すことが難しくなるといわれています。
これらから言えることは、一生懸命勉強しても、眠い状態では定着させることが難しく、勉強したあともしっかり眠らないと長期間覚えていられないということです。また、文脈を適切に理解したり、理路整然と話したりするためには、しっかり睡眠を取らないと脳内の短期記憶を扱うワーキングメモリが適切に働かないということになります。

他にも、ノンレム睡眠とレム睡眠では定着させる記憶に違いがあることがわかってきました。ノンレム睡眠では出来事に関する記憶や、知識などの記憶を定着させる役割がありますが、レム睡眠では車の運転のような身体を使って覚える記憶を定着させる役割があるといわれています。
一晩の睡眠サイクルの中では、前半にノンレム睡眠が多く、後半にレム睡眠が多いという傾向があります。十分な睡眠時間を確保できないと、定着させる記憶の種類にも影響がでてくる可能性があるわけです。

(4)生産性の向上ややる気の維持にも効果的

仕事中に限らず、人は大なり小なりさまざまな判断と決定を繰り返しています。この意思決定機能にも睡眠が大きな影響を与えています。
睡眠が不足すると、真っ先にダメージを受けるのは、脳の前頭連合野という部位です。前頭連合野は状況を把握したり、情報を適切に処理、判断して柔軟に対応するための中枢です。
この部分の機能が睡眠不足により低下すると、まず思考力が低下し、思い違いなどのミスが増加します。結果モチベーションが下がり、生産性低下の原因になるだけでなく、ケアレスミスの増加につながります。

寝不足のときにちょっとした作業でもなかなかはかどらないことは、誰もが身をもって知っていると思います。実は過去の研究では、8時間の睡眠量に対して睡眠時間が2時間不足した状態は、少し酔っぱらった状態(0.54g/kgのエタノール摂取=弱度酩酊量)と同等の影響を及ぼすという報告があります。

睡眠不足は軽く酔っ払っているのと等しい状態。そんなときに正しい判断のみならず、正常な反射神経が働くわけがありません。しかし、休息できずに精細を欠いた脳は、自分が睡眠不足であることが分からないという欠点があります。
ものごとを安全かつ迅速に遂行し、本来持っている力を最大限発揮しようと思ったら、しっかり眠っておくことが大事だということですね。

(5)運動能力の向上

オリンピックなどの世界大会に出場しているスポーツ選手が、睡眠を重視している話は聞いたことがあるのではないでしょうか。

試合中の論理的な思考と認知力は、前述の通り睡眠から大きな影響を受けます。また、レム睡眠が行動の記憶の定着に関係していることもお話しした通りです。実はそれ以外にもスポーツに関わる部分で睡眠は影響を与えています。

例えば米国のバスケットボール選手を対象に行われた研究では、毎晩10時間睡眠を取った場合のスプリントタイムや3点シュート、フリースローの成功率は、いずれもそれ以前より向上していたという報告があります。

日中の適度な運動は睡眠にいい影響を与えますが、しっかり眠ることが運動能力の向上にも一役買っているようです。

(6)子どもの健やかな成長にもつながる

ここまではある程度成長した方の睡眠についてでしたが、成長過程の子どもにとっての睡眠はより大きな意味を持ちます。
「寝る子は育つ」という言葉がありますが、まさにその通りなのです。良質な睡眠は成長ホルモンの十分な分泌に必要不可欠です。つまり成長過程にある子どもがその年齢に応じた睡眠を十分とれないと、肉体的な成長が妨げられる可能性があります。加えて、キレやすく問題行動を起こしやすい子どもになるなど精神的にも問題が起こりやすくなるといわれています。また、睡眠不足が脳に与える影響により、学習にも悪影響がでてしまいます。

子どもの生活習慣は保護者の責任ですから、健やかな成長のためにも、保護者が睡眠に関する知識を持つことは非常に大切といえるでしょう。

睡眠のもたらす恩恵を知れば、もっと眠るのが楽しくなる

睡眠をしっかり取るだけで様々な恩恵が得られることをご理解いただけたのではないでしょうか。
軽くみられがちな睡眠ですが、トータルでは人生の3分の1近くを費やすことになります。その時間を無駄と考えて削るよりも、他の時間を充実させると言う意味で、楽しんでいくのが良いでしょう。
これからの季節は寒さも厳しくなりなかなか寝付けない方もいらっしゃると思います。ぜひ寒さ対策をしてしっかり眠ってみてください。朝の目覚めが格別になりますよ。

著者プロフィール

■鈴木麻里子(すずき・まりこ)
ライター、睡眠改善インストラクター。睡眠系の話題に限らず、IT系から家電関連まで幅広いジャンルをカバーする。主な著書に「Facebook仕事便利帳」「iPhone 4 仕事便利帳」(ソフトバンククリエイティブ)など。

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