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2019.10.02

ネットを信じ込む妊産婦と医師の情報差の実態|不明確な情報が氾濫する中で必要なこととは

東洋経済オンライン

現代の妊産婦は情報量が豊富ゆえ、リスクや不安も生まれています(写真:Mills/PIXTA)

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現代の妊産婦は情報量が豊富ゆえ、リスクや不安も生まれています(写真:Mills/PIXTA)

皆さんは、現代のお母さんたちが、一昔前と比べてとても便利で豊かな妊産婦・育児生活を送っていると考えていますか? スマホやインターネットの普及が進み、SNSなどを通して不安などをシェアしながら快適な生活を送っていると思われがちです。もちろん、欲しい情報がすぐに手に入る、誰かにすぐに相談できる、そんな環境が与えてくれる安心感もあります。

一方で、情報量の豊富さゆえ、リスクや不安も生まれています。そして、日々妊産婦と向き合う産婦人科医たちも同じくらい情報に対して課題を感じています。今回は、妊産婦と産婦人科医が抱えていた問題と、その解決に向けた挑戦をお伝えしたいと思います。

妊産婦と産婦人科医が抱える課題

情報検索が容易で便利な現代ですが、妊産婦や産婦人科医にとってこの状況は喜ばしいことばかりではありません。ネット上には出典元が不明確な情報が氾濫し、「妊産婦はインフルエンザの予防接種を受けるべきではない」「妊産婦はどんな薬も服用してはいけない」「赤ちゃんに抱き癖が付くからあまり抱っこはしないほうがいい」といった誤った常識や古い情報も無数に出回り、そういった情報を正しいと信じている人も少なくないからです。

1人ひとり状況がまるで異なる妊産婦がこの中から妊娠周期や自分のケースに合う的確な情報を選び出すことは、まるで砂漠の中から1本の針を見つけ出すようなものなのです。

そのような状況を作り出さないように、産婦人科医が適切な時期に必要な知識を直接伝えられればよいのですが、妊産婦とコミュニケーションが取れる健診の場では、赤ちゃんに異常がないかの確認を最も大事にしたいため、妊産婦の不安や疑問をじっくりと解消できる機会はかなり限られているのが現状です。

それぞれの目的は安心・安全な妊娠生活の実現に向けた正しい情報の取得・供給と一致しているのに、それがかなわない理由として、以下の3点が挙げられます。ここからは、リクルートマーケティングパートナーズが日本産科婦人科学会協力のもと行った、産婦人科医 妊産婦の『「妊娠出産に関する情報」の意識調査』結果を見ながら解説していきましょう。

「情報」に関する認識・課題

① 妊産婦と産婦人科医の、情報に対する課題意識の不一致

妊娠・出産シーンに限らず、世の中には情報が氾濫しています。妊娠・出産に関する「情報」に関する認識・課題について、妊産婦と産婦人科医に尋ねました。

「情報過多」については両者とも危惧していることですが、その先にある両者間の課題意識の不一致は問題です。「情報の信憑性」に関しては、産婦人科医の約9割が課題を感じている一方で、妊産婦は約3割と、50ポイント以上の差があります。

入手した情報の信憑性に関して疑いを持つ妊産婦の少なさには、危機感を覚えざるをえません。もちろん中には質のよい内容もありますが、情報元が明確でない情報を信用することは、時に早産や流産といったリスクにつながる可能性があります。

② 妊産婦のニーズと、産婦人科医が提供したい情報の不一致

妊産婦が「習得するべき知識」と「知りたい知識」の差について妊産婦と産婦人科医に尋ねました。産婦人科医が妊産婦に知ってほしい情報とは、主に「母体」に関することです。「妊娠中の体の変化」や「妊娠中の栄養について」や「高血圧症について」など、からだの変化やこころへの影響、働き方、必要な栄養素などがその内容ですが、妊産婦はこれらへの関心は低い傾向にあります。

一方、妊産婦が知りたい情報は医療費や妊婦健診の補助といった「費用」のこと、子どものアレルギーや予防接種など「出産後のこと」「準備すべきもの」といったことです。

情報がかみ合っていない

無事に生まれてくることを前提に赤ちゃんが生まれた後の生活を考えなくてはならないので、妊産婦にとっては当然かもしれません。ですが、妊産婦が求める情報と産婦人科医が伝えたい情報はかみ合っておらず、大きなずれが生じていることになります。

③ 相違を正す機会やアプローチの少なさ

これらの情報課題を解消するためには、産婦人科医と妊産婦とのコミュニケーションが必要です。両者が顔を合わせることができるのは妊婦健診時となりますが、一般的な妊婦健診は、約10カ月の妊娠期間のうち全14回程。

1回にかけられる健診時間は短く、産婦人科医達は母体と胎児の状況を確認することで手一杯に。少し余裕が生まれたとしても互いが求める情報内容が食い違っている中で、どちらか一方が伝えたい内容をすべてその場で話すのは困難なのが現状です。

では、妊産婦はどうすればいいのでしょうか。妊産婦の中には、なかなか相談しづらいという方も少なくありません。妊産婦自身が心がけるべきことは、「こんなこと聞いていいのか」「先生忙しそうだし」などと1人で悶々と悩むのではなく、不安や困ったことがある場合は、メモに書き出すなどして整理し、まずは医師や看護師・助産師に相談しましょう。

インターネットの情報を参考にするときは、医療機関や厚生労働省、学会などのホームページから情報を集めるといいでしょう。数多あるメディアの記事に関しても医師の監修があるか、出典は明記されているかなどを意識的に確かめましょう。妊産婦や生まれてくる子どものためにも冒頭に書いたような根拠のない噂やSNSの情報に決して流されてはいけません。

正しい情報を発信

日本産科婦人科学会としても、届けたい情報が満足に伝えられない状況にあったため、私たちも正しい情報の普及に着手。2015年9月より日本産科婦人科学会監修の冊子『Babyプラス お医者さんがつくった妊娠・出産の本』の配布を開始しました。

その後、2018年4月にもっと手軽に情報を手に入れられるようにと、アプリ「Babyプラス」の本格配信をスタートしました。掲載情報は、執筆もしくは監修した産婦人科医の顔写真と署名が付いています。そのほか、妊娠週数別にそのときのからだの状態などを伝える情報も得られます。アプリは平均して1日に5回見られていて、朝起きたらまずアプリを開く、といった妊産婦の声もあります。

最後に、妊産婦と夫・パートナーの意識の差に関しても紹介しましょう。リクルートマーケティングパートナーズの調査によると、妊産婦が夫・パートナーにつけてほしい知識は「パートナーのスタンス・心得」「産後のこころへの影響」「妊娠中のこころへの影響」といった気持ちの理解・心への寄り添いにつながる知識習得を求めていました。

一方、夫・パートナーは、「妊娠中の運動」「妊娠中のサプリメントの服用」「妊娠中の体の手入れ」など、妊娠中に気をつける”行動”に関連する知識を取得しており、無意識のうちにずれが起こってしまっていました。このずれを埋めるために、アプリのIDを共有できる機能や、パートナーとしての心得・出産に関するコンテンツもあります。

妊婦は、日々変化する体や胎児の成長についてさまざまな不安がある一方、自分自身のことより、生まれてくる子どもについて意識を優先させて考える傾向にあります。そんな妊産婦のメンタルヘルス維持のためにも、妊娠・出産に関する適切な知識を身につけ、妊産婦を支えていくことも必要ではないでしょうか。

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阪埜 浩司:日本産科婦人科学会 幹事長

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