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2019.10.09

カギはコミュニケーションにあり!認知症の予防と治療

kencom公式ライター:松本まや

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家族や自分がいつか発症するかもしれない認知症。いざその時が来たら、どのように向き合えばいいのでしょうか。治療の進め方や家族の心構え、そして認知症予防に役立つ生活習慣について、引き続き順天堂大学医学部付属順天堂医院の本井ゆみ子先生に解説していただきました。

■認知症とはそもそもどんなもの?基本のキを学ぶ

認知症とはどう向き合い、どう治すのか

若年性の認知症も存在する

前回、認知症の種類についてご紹介しましたが、若くして認知症を発症した場合、「若年性認知症」と診断されます。診断基準は、アルツハイマー病の場合、65歳未満。通常の認知症との最大の違いは発症する年齢で、物忘れなどの症状自体に大きな違いはありません。ただし若年性認知症の場合は、遺伝性のものがやや多いと言われています。

若年性認知症の最大の問題は、社会生活への影響が出やすいことにあります。まだ40~50代で発症してしまった場合、会社では責任あるポジションを任されていたり、子供が小さかったりする年代。認知症であることへのショックは大きく、経済的な不安を感じるなど本人も家族も受け入れられるまでに時間を要することがあります。

しかし、認知症を発症したからといって、すぐに仕事ができなくなるわけではありません。以前と同じように仕事ができなくなっていくことへのストレスを強く感じてしまう人もいるので一概には言えませんが、無理のない範囲で続けていくことができ、かえってリハビリ効果が期待できる場合もあります。病気とうまく付き合って、定年まで勤め上げる方も多くいらっしゃいます。

また、若年性認知症の方や家族を支援するサービスも増えています。例えば東京都では「若年性認知症総合支援センター」で、社会保障や治療のアドバイス、コーディネートをしているだけでなく、就労支援も行っています。

その他、認知症患者が集う「認知症カフェ」も各地で開催されています。本人だけでなく家族も参加して、普段は吐き出しづらい悩みを共有したり、情報交換をしたりすることで、心理的な負担を和らげることができます。

認知症の治療はどう進む?

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アルツハイマー病やレビー小体型認知症を「治らない認知症」と称したように、残念ながら認知症を根治させる妙薬はありません。「症状の進行をいかにゆるやかにするか」という観点で、進行やそれぞれの症状を抑える薬を処方する「薬物治療」と、認知症の人が可能な限りストレスなく生活できるよう環境を整備する「環境調整」の2軸で治療を行っていきます。

薬物治療では、「アリセプト」や「レミニール」といった抗認知症薬が使用されます。人によって効き目にばらつきはありますが、脳を活性化し、意欲ややる気を回復させる効果があります。その他では、例えば幻視がひどい人には幻覚を抑える薬が処方されるなど、その時の症状にあった薬が処方されます。

そして、むしろ効果が大きいと言われているのが環境調整です。精神症状や異常行動は、周囲の人の対応の仕方で改善されることがあります。家族とのコミュニケーションや他の人とのゲームなども頭を活性化させる刺激となります。

できる限り大らかに、サポートする家族の心構えとは

家族が認知症になってしまったら。サポートする立場として、どのようなことに気を付ければよいのでしょうか。

①頭から否定しないこと

特に初期段階では、物忘れがあると何を忘れているのか、家族が論理的に言って聞かせようとしてしまうことがありますが、これは逆効果です。物忘れを起こしているとき、患者はすっかり忘れていてどうしても思い出すことができない状態。患者のためを思った説明でも、細かく指摘されると困惑し、孤立感を覚えてしまいます。

心理的なしこりは長く残ってしまうこともあるので、物忘れや何かの失敗をしてしまってもあまり気にしないように心がけましょう。
患者本人は、病気であることを感じ取って不安な気持ちになっています。一方でプライドもあるので、その気持ちを尊重することが大切です。

②ゆっくり丁寧に対応すること

認知機能が低下していても、「何も分からなくなっている」わけではありません。
自分でできることも多くあるので、丁寧にゆっくりと話をすることを心がけましょう。

③あまり環境が変化しないように工夫すること

認知症の患者は環境の変化に敏感です。
例えば引っ越しをする際は、使い慣れたものを持っていくなど、少しでも慣れ親しんだ環境を残す工夫をしましょう。

④介護する側も頑張りすぎないこと

認知症は長く付き合わなければいけない病気です。毎日介護している家族は疲れがたまり、いつも我慢強くはいられません。
絶対に一人で抱え込みすぎず、社会的な支援や介護サービスを最大限に利用したり、たまには一人で旅行に行ってリフレッシュしたりと、適度な息抜きをしましょう。

自分の時間をきちんと確保することが大切です。

食事や運動の制限は不要、むしろマイナスになることも

認知症を発症してしまっても、基本的には食事制限などは不要です。それよりもしっかりと食事をとりましょう。

運動する習慣をつけることも有効です。おすすめは、1日40分の歩行を週3回以上行うこと。人とコミュニケーションを取る球技などのスポーツはとても有効ですが、何よりも続けることが大切なので、無理のない習慣づけを行っていきましょう。

そして、認知症患者にとって何よりも大切なのが、引きこもってしまわないことです。

コミュニケーションがリハビリのカギ

認知症患者にとっては、人との交流を絶たないことがとても大切です。

認知症患者には一人暮らしの方も多くいらっしゃいますが、その場合、引きこもりのリスクは高くなります。家族は、可能な限り訪ねたり、小まめに電話をして様子を聞いたりするなどなるべく交流の機会を持つことを意識してください。

最近はアニマルセラピーや音楽療法なども登場しています。治療効果についてはまだ科学的に裏付けられていませんが、患者のリラックス効果が期待できます。

痩せすぎはリスク?認知症予防のためにできること

認知症予防の観点でも発症してからの生活においても、気にするべき点は同じです。

食事面では、「地中海式」の食生活がおすすめです。魚を中心としたバランスのよい食生活は、特に生活習慣病と密接に関係する脳血管性認知症の予防に有効です。
飲酒は1日ワイン1杯程度まで。抗酸化物質が良いとされているので、緑黄色野菜を多く摂ることを意識してください。

そして「よく食べること」も大切です。実は、痩せ型の人は太っている人よりも認知症の進行が早いと言われています。

その他では、筋肉量を維持できるよう運動の習慣を持つことが効果的。「握力が強い人や歩行速度が速い人は、認知症になりにくい」などと聞いたことはあるでしょうか?最近では、筋肉が脳に良い影響を与えるとされ、運動の効果が非常に注目を集めています。

継続できることが大前提なので、続けられる範囲で、歩くことから始める人が多いです。治療の観点では、有酸素運動は海馬の萎縮を遅くすることが分かっているので、「1日40分の歩行を週3回」を目安としてみましょう。
また人との交流を持つことも有効なので、卓球やテニスなど相手がいるスポーツも良いですね。

認知症とは上手に付き合っていこう

ここまで説明してきたように、認知症は根治できないものの、工夫次第で進行を抑えたり、うまく付き合っていったりすることができる病気です。
また、患者本人も介護する家族も様々な支援を受けることができます。

長く付き合っていかなければいけない病気なので、負担を少しでも軽減できる方法を探していくことが大切です。

本井ゆみ子(もとい・ゆみこ)先生

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順天堂大学医学部付属 順天堂医院 認知症疾患医療センター センター長、特任教授(認知症診断・予防・治療学講座)
札幌医科大学医学部卒業。アルツハイマー病の神経病理学的研究で医学博士号を取得。2012年より現職。日本神経病理学会評議員、日本認知症学会評議員・専門医・指導医、日本神経学会認定医。

参考文献

著者プロフィール

■松本まや(まつもと・まや)
フリージャーナリスト。2016年から共同通信社で記者として活躍。社会記事を中心に、地方の政治や経済を取材。2018年よりフリーに転身し、医療記事などを執筆中。

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