メニュー

2019.09.28

前編 山内英子先生に伺いました 「乳がんは遺伝するのでしょうか? 遺伝性乳がん・卵巣がん症候群とは?」

ワコールピンクリボン

「がん家系ではないから、がんにはならない...」と自分とは無関係と思っている方がいる一方で、「うちはがん家系だから...」「血縁の家族が乳がんになっているから心配...」と、がんと遺伝について漠然とした不安を持っている方が多いのを感じます。がん家系である、なしにかかわらず、ぜひ知ってほしい情報です。
米国の女優、アンジェリーナ・ジョリーさんが乳がんなどの血縁者がいるため、まだがんになっていない両方の胸を予防のために、切除したことが話題になりました。
今、がんの遺伝について、さまざまなことがわかってきています。不確かな情報に惑わされず、正しい情報を知って自分の体のこと、家族の体のことを考えるきっかけにしてください。遺伝性の乳がんに詳しい山内英子先生にお話を伺いました。

山内 英子先生

やまうち ひでこ
聖路加国際病院副院長、乳腺外科部長・ブレストセンター長

【ご略歴】

1987年
順天堂大学医学部卒業
1987年~
聖路加国際病院外科レジデント、外科医員
1994年~
ハーバード大学ダナファーバー癌研究所研究助手
1996年~
ジョージタウン大学ロンバーディ癌センター研究フェロー/助手
2001年~
ハワイ大学外科レジデント、チーフレジデント、外科集中治療学臨床フェロー
2007年~
南フロリダ大学モフィット癌研究所 臨床フェロー
2009年~
聖路加国際病院乳腺外科
専門は、乳がんの手術治療、炎症性乳がん、遺伝性乳がん。手術をはじめ、あらゆる角度から患者に最適な乳がんの治療法を提案する乳がん治療のスペシャリスト。米国一般外科専門医、米国外科集中治療専門医。日本乳癌学会理事、日本HBOCコンソーシアム理事。
著書に『乳がんって遺伝するの? 遺伝性乳がん・卵巣がんのすべて』(共著・主婦の友社)、『実践! 遺伝性乳がん・卵巣がん診療ハンドブック』(編集・メディア出版)

【聖路加国際病院 ブレストセンター】
http://hospital.luke.ac.jp/guide/24_breast_surgery/index.html

前編 ~乳がんは遺伝する?

転載です
https://www.wacoal.jp/pink_ribbon/article/doctor/11.html

転載です https://www.wacoal.jp/pink_ribbon/article/doctor/11.html

乳がんと遺伝の関係について、詳しく説明いたします。まず、祖母、母、姉妹など血縁に乳がんの方が複数いらっしゃる場合、これを家族歴と言って、家族歴のある乳がんを、"家族性乳がん"と呼びます。
家族性乳がんは、乳がん全体の10~15%と言われています。*1

さらに最近の研究で、乳がんになりやすい遺伝子があり、これを生まれつき親から子に受け継いでいるケースがあることがわかってきました。
これを"遺伝性乳がん"と言います。

今、はっきりとわかっている遺伝性の乳がんの代表は、"遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)"です。これは、BRCA1と、BRCA2という二つの遺伝子の病的変異がある乳がんです。米国女優のアンジェリーナ・ジョリーさんは、HBOCということを自ら告白されています。

日本では、乳がん患者さん全体の約3~5%がこのHBOCと言われています。*2

これら"家族性乳がん"と"遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)"を合わせても、乳がん全体の約20%以下です。
それ以外の多くの乳がんは、家族性や遺伝性とは関係なく発症している乳がんということになります。

家族性、遺伝性ではない乳がんの原因のひとつには、女性ホルモンのエストロゲンの影響があげられています。
具体的には、初経が早くなる、出産回数が減るなどで、生理の回数が昔の女性の約9倍以上のため、エストロゲンの影響を受ける期間が長くなっているからです。ほかに、飲酒や肥満なども、乳がん発症の可能性を高めます。

【日本人の乳がんのうち家族性や遺伝性が占める割合】

図:日本人の乳がんの内訳
参考文献/*1『実践! 遺伝性乳がん・卵巣がん診療ハンドブック』(編集・メディア出版)より作図
*2 国立がんセンターがん情報サービス がん登録・統計 2016

参照元:https://www.wacoal.jp/pink_ribbon/article/doctor/11.html

図:日本人の乳がんの内訳 参考文献/*1『実践! 遺伝性乳がん・卵巣がん診療ハンドブック』(編集・メディア出版)より作図 *2 国立がんセンターがん情報サービス がん登録・統計 2016

転載です
https://www.wacoal.jp/pink_ribbon/article/doctor/11.html

転載です https://www.wacoal.jp/pink_ribbon/article/doctor/11.html

今、明確にわかっている乳がんに関係する遺伝子の代表は、さきほど説明したように、BRCA1の遺伝子とBRCA2の遺伝子です。

これらの遺伝子に病的な変異があると、乳がん、卵巣がんの発症の可能性が高くなる遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)ということになります。

もしも、ご自身にBRCA1、BRCA2の遺伝子に病的変異があったとしても、それが100%、お子さんに引き継がれるわけではありません。

母親から子どもに引き継がれる確率は50%です。
その理由は、子どもは父親と母親の両方から半分ずつ染色体をもらって生まれるからです。また、BRCA1、BRCA2は性染色体ではなく、常染色体なので、受け継ぐ確率は、女の子だけでなく、男の子でも同じ確率です。

ですから男性が乳がんにかかる可能性があります。乳がんというと女性というイメージがあるかもしれませんが、BRCA1,BRCA2の遺伝子変異は、男性が引き継ぐ場合もあります。
男性乳がんは、女性乳がんの1%にしかすぎませんが、男性にも乳がんがあることを認識しましょう。男性の前立腺がん、すい臓がんとも関連が分かってきています。

けれども、たとえ子どもがBRCA1、BRCA2の遺伝子の病的変異を受け継いだとしても、それが必ず乳がんや卵巣がんを発症するわけではありません。あくまでも発症のリスクが高くなるということです。

転載です
https://www.wacoal.jp/pink_ribbon/article/doctor/11.html

転載です https://www.wacoal.jp/pink_ribbon/article/doctor/11.html

今、日本では、乳がんにかかる人が昔より増えています。
そこに、さらに遺伝的な要因があると、一生のうちに乳がんにかかる可能性がさらに高まります。

下の表にあるように、一般の日本人が乳がんにかかる可能性が9%とすると、BRCA1、BRCA2の遺伝子に病的変異があるHBOCの人の場合、乳がんになる確率は、41~90%で一般の人の6~12倍。卵巣がんになる確率は、8~62%で一般の人の8~60倍と言われています。

【乳がん・卵巣がんにかかる可能性】

参考文献/ NPO法人日本HBOCコンソーシアム広報委員会編『遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)をご理解いただくために』
『実践! 遺伝性乳がん・卵巣がん診療ハンドブック』(編集・メディア出版)

参照元:https://www.wacoal.jp/pink_ribbon/article/doctor/11.html

参考文献/ NPO法人日本HBOCコンソーシアム広報委員会編『遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)をご理解いただくために』 『実践! 遺伝性乳がん・卵巣がん診療ハンドブック』(編集・メディア出版)

HBOCの人が気をつけたいのは、BRCA1、BRCA2遺伝子に病的変異があると、乳がん治療後に、反対側の乳房に乳がんが起こる可能性や、手術で治療して残した乳房(乳房温存)の同じ側に、また新たに乳がんが発症する可能性も高くなることです。

また、HBOCの人は、マンモグラフィなどの放射線によって、乳がんが発症する可能性が高まるという研究結果もあります。
BRCA1、BRCA2遺伝子変異をもつ30歳未満の若い世代が放射線被ばくをすると、乳がん発症率が2倍に高まるという研究もあります。
ですから、若い20代、30代のうちからマンモグラフィ検診をむやみに受けるのは、危険という可能性もあるのです。

転載です
https://www.wacoal.jp/pink_ribbon/article/doctor/11.html

転載です https://www.wacoal.jp/pink_ribbon/article/doctor/11.html

ご自分が遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)かどうかは、遺伝子検査をしてみなければわかりません。けれども、HBOCには、特徴がいくつかあります。

今、日本女性の乳がんの発症年齢は、40代後半から50代前半にかけてピークになります。HBOCの人の場合は、それよりもさらに早く、多くの場合、40歳未満で発症します。

気になる方は、次のチェックリストを行ってみてください。

転載です
https://www.wacoal.jp/pink_ribbon/article/doctor/11.html

転載です https://www.wacoal.jp/pink_ribbon/article/doctor/11.html

上の質問に、ひとつでも当てはまる項目があれば、あなたが遺伝性乳がん・卵巣がん症候群である可能性は、一般よりも高いと考えられます。

*日本HBOCコンソーシアム http://hboc.jp/ 「かんたんチェック」 より

転載です
https://www.wacoal.jp/pink_ribbon/article/doctor/11.html

転載です https://www.wacoal.jp/pink_ribbon/article/doctor/11.html

上記のチェックリストで当てはまる項目があって「私はHBOCなのかもしれない...」と不安を感じる方は、遺伝カウンセリングで相談することができます。
 漠然とした不安を長い間、抱えているより、相談して不安を取り除くことをおすすめします。

遺伝カウンセリングを受けたからといって、必ず遺伝子検査を受けなくてはならない、ということはありません。カウンセリングで相談してから、遺伝子検査を受けるかどうかは、そのあとでじっくり考えて決めることができます。

遺伝カウンセリングでは、患者さんやそのご家族が抱えている遺伝子に関する不安や疑問に対して、詳しい情報を提供しながら、今後どのように過ごしていくかをサポートします。

患者さんの中には、「母が乳がんで亡くなってからずっと、自分も遺伝性の乳がんにかかるのではないか...と恐怖に思って暮らしていた」という方もいらっしゃいました。

その方は、遺伝カウンセリングで相談したあと、「遺伝子検査を受けて、陽性でしたが、悶々と悩んでいた時期より、暗い部屋から一歩踏み出せてよかった。HBOCとはっきりしたことで、具体的なアドバイスを受けられて、さまざまな予防対策を選択することができました」と前向きになっておられました。

遺伝カウンセリングでは、遺伝子検査でわかることは何か、検査の限界はどこにあるのか、検査結果によって得られるメリット、デメリットは何か、検査結果を知った後に予想される心理的、社会的な問題などを事前に情報提供します。

多くの情報を与えて不安を募らせるために行うのではなく、相談後は医療者が寄り添って、今なにができるかを一緒に考えるために行うのです。

遺伝カウンセリングの費用は、自費診療のため病院によって異なりますが、30分5,000円前後が目安です。

遺伝カウンセリングが受けられる全国の病院のリストは、こちらのサイトにあります。
日本HBOCコンソーシアム

転載です
https://www.wacoal.jp/pink_ribbon/article/doctor/11.html

転載です https://www.wacoal.jp/pink_ribbon/article/doctor/11.html

先ほどもお話しましたが、「母が乳がんだから、妹も私もいつかは乳がんになる...」「複数の家族が乳がんだから、うちの家族は遺伝子検査をしたら、みんな陽性だ...」「遺伝子検査でBRCA1、BRCA2に変異があると、100%乳がんになる...」というような間違った情報を信じて、不安を抱え続けている方がいます。

ぜひ、正しい情報を知って一歩前に前進してください。不安を抱えている方は、遺伝カウンセリングを受けましょう。カウンセリング後に、遺伝子検査を選択する人は聖路加国際病院では49%です(2012年調査)。カウンセリングを受けたからといって、遺伝子検査を強くすすめられることはありません。

検査を受けるかどうかを決定するのは、相談者ご自身です。選択できるためのサポートをするのが医療者の役目です。

そして、検査を受けた方には、医療者がしっかりサポートしますので安心してください。

取材を終えて

遺伝性の乳がんや家族性の乳がんは、そんなに多くはなく、乳がん全体で言うと、約20%以下です。過度に、遺伝性、家族性だけを心配するのではなく、40歳を過ぎたら、だれもが乳がんになる可能性があると思って、定期的に乳がん検診を受けることが大切だと思いました。

そして、今回紹介した【遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の特徴チェック】を行ってみて不安になったら、遺伝カウンセリングで相談することで正しい情報がわかり、さまざまなサポートをしてもらえることもわかりました。

遺伝子研究が進む中、自分の健康を守るために、自分の体の情報を詳しく知ることはより一層大切ですね。

増田美加(女性医療ジャーナリスト)

次回は引き続き、山内英子先生に、BRCA1、BRCA2の遺伝子検査について詳しく聞きます。もしも、遺伝子検査の結果が陽性で、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)とわかったときにどうすればいいかご紹介します。

【あわせて読みたい】 ※外部サイトに遷移します