2019.09.25
痒みは我慢しない!『じんましん』の予防・治療最前線
じんましんは様々なことが関与している可能性もありながら、ほとんどのケースで原因不明というのですから、非常につかみどころがなく厄介な病気。
このような病気を、どのように治療していくのか? また、そもそもじんましんにならない身体作りはできるのか?
引き続き、日本の炎症疾患の第一人者・五十嵐先生に伺いました。
■じんましんの発症プロセスや原因はこちらの記事をチェック!
じんましんの診断と検査方法
じんましんの検査は問診が中心
じんましんの治療は、まずは原因を探し出すことが最優先です。その7割以上は原因不明とはいえ、明確な原因のあるものについてはそれを取り除かない限り、治るものも治らないからです。
じんましんがどういう時に出るのか、どのような症状がどのくらい現れたかなど問診でじっくりと話を聞き、食べ物や薬剤など原因として考えられるものをチェックし、見当がついたら検査を行って原因究明をします。
原因を調べるための代表的な検査はアレルギーの原因を見つける検査で、血液検査や皮膚テストなどによって比較的簡単に判定することができます。
ただし、結果が陽性であったとしても、それらがすべてじんましんの原因とは限らないので、最終的には臨床症状やそれまでの経過などを併せて判断します。
「飲み薬で治す」が基本治療
じんましんの治療の基本は、第一にできるだけ原因因子を探し取り除くこと。第二に薬による治療です。
薬にはかゆみ神経を刺激するヒスタミンの分泌を抑える抗ヒスタミン薬、または抗ヒスタミン作用のある抗アレルギー薬と言われる飲み薬が使われます。
原因が明らかにできないじんましんの場合は、内服薬を飲み続けることにより症状が治ることが多く、一定期間の内服を続けた後、徐々に薬の量を減らしていきます。
じんましんは塗り薬で治すものだと思う人も多いようですが、実際には塗り薬はあまり効果がありません。なぜなら、じんましんは皮膚の表面でなく、実際にはもう少し奥の方に異変が起きることで生じる病気だからです。
仮に症状がすでにかなり進行していて、かゆみや痛みが我慢できないほどであれば、補助的にステロイド系の外用薬を使う場合もあります。
それでも治らない場合は対処療法を行う
じんましんには個人差があるので、万人に効く薬はありません。
抗ヒスタミン薬も種類がたくさんあるので、薬を変えたり、複数使用したり、増量したりして、患者さんに最適な薬を探っていきます。
それでも効かない場合は、ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)という胃薬や、喘息の薬を処方して様子をみます。
それでも治らない場合は、ステロイドを内服するか、アレルギーの炎症反応を抑える注射(オマリズマブ)をするなどのステップに進みます。
じんましんは生活の質を落とす辛い病気です。
次のステップはたくさんあるので、諦めずに、医師としっかり相談することが大切です。
早く治すには「早めの診断」が有効!
出展:石黒直子、山田美奈、川島眞(2009),『臨床研究 慢性蕁麻疹の予後に関する臨床的検討』,皮膚科の臨床51;885-889を改編
急性じんましんの場合は、症状が激烈なのですぐに受診しようと思ってもらえますし、原因がはっきりしているのであまり長期化しません。
一方、慢性じんましんは出たり引っ込んだりをだらだらと繰り返すことが多いので、病院を受診する頃には、発症してから時間が経っている方が多く見られます。
実は、これが慢性じんましんを長引かせている一因になっています。
原因がわかりやすいタイプのじんましんであれば当然、原因を特定し取り除けば辛い症状から早く解放されます。原因が不明な場合でも、早めに治療を開始することで、薬が効果的に作用することがわかっています。
慢性じんましんを放置すると、恒常的に体内のバランスが崩れてしまい、薬が効きにくくなり、治りにくくなってしまうためです。
我慢してもいいことがないのが、じんましんという病気です。異常を感じたらなるべく早いうちに治療を受けることが大切です。
食事は?スキンケアは? じんましんにならない身体作り
じんましんの症状を少しでも抑えるために、また治った後に再発しないために、家でできるセルフケアのポイントをお教えしましょう。
食事では刺激物を避ける
・アルコール・刺激物を避ける
辛いものやアルコールを摂取すると、血液が増し、症状が悪化することがあります。ただ、これらがじんましんの直接の引き金になることはありません。
しかし、疲労やストレスなどの他の原因でじんましんの出やすい状態にある人がお酒を飲むことで、発症してしまうことがあります。
じんましんが出やすい人は、疲れている時などはアルコールや刺激物を避けることが賢明です。
・鮮度の落ちた魚は食べない
さば、まぐろ、かつおなどの魚には、ヒスチジンというアミノ酸が多く含まれていて、鮮度が落ちると、それからヒスタミンが作られてしまいます。
鮮度が落ちた魚を食べると、このヒスタミンを多量に摂取することになるので、じんましんの誘発原因になることがあります。
普段から新鮮な食材を選ぶことを心がけましょう!
衣類は締め付けず、柔らかい素材を選ぼう
衣類の皮膚への刺激でじんましんが出ることがあるので、素材は刺激の少ないできるだけ柔らかいものを選ぶことをお勧めします。
症状がある間は、身体を締め付けるデザインや、デニムなどの硬い素材を避けると症状が緩和することがあります。肌に常に触れる下着も柔らかい綿のものを選ぶと良いでしょう。
スキンケアでも刺激を避ける
・シャンプー&ボディーソープは低刺激を選ぼう
じんましん用の特別なシャンプーやボディーソープなどは特にありません。
ですから、低刺激性のものを選ぶのが無難だと思います。アトピー性皮膚炎用の商品も出ていますので、試してみて症状の変化を見てみることをお勧めします。
・保湿をして肌のコンディションを保とう
保湿することでじんましんを防げるとは言えませんが、スキンコンディションを良い状態に持っていくことはできます。
特に冬場などは、乾燥して皮膚が痒くなりやすく、掻くことによってじんましんになることもあります。
保湿はぜひ習慣化していきましょう。
睡眠はしっかりとって疲労やストレスをためない
肌にとっても体にとっても睡眠は非常に大切です。睡眠不足で疲れが蓄積したり、ストレスがたまると、じんましんの悪化につながりやすいです。
仕事上のストレスなどを完全に取り除くことは困難ですが、できるだけ寝る時間を確保して身体を休めるようにしたり、リフレッシュ方法を考えておくことが大切です。
じんましん予防は初めての身体ケアとしても取り入れやすい
じんましんにならない身体作りは比較的簡単ながら、どの項目も他の疾患予防にも役立つものばかりです。
辛い経験を機に、無理なく続けられる肌と身体に良い習慣を始めてみてはいかがでしょうか?
参考文献
五十嵐敦之 (いがらし・あつゆき)先生
NTT関東病院皮膚科部長
1984年東京大学医学部医学科卒業。同年東京大学医学部皮膚科学教室入局。1993~1994年東京大学医学部付属病院分院皮膚科講師。1994年4月NTT東日本関東病院皮膚科常勤医師。1996年4月NTT東日本関東病院皮膚科医長。 2002年1月より現職。アトピー性皮膚炎など炎症性疾患の国内第一人者。
著者プロフィール
■森下千佳(もりした・ちか)
お茶の水女子大学理学部卒。2000年に東海テレビ放送に入社し、主に報道記者として事件、事故を取材制作。女性ならではの目線で取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。2009年に家族の転勤で、ニューヨークに渡り4年間移住。当時日本ではなかなか手に入らなかったオーガニックのベビー商品、コスメなどを日本に届けるベンチャー起業を立ち上げに関わる。2013年帰国し翌年に女児を出産。2016年より子宮頸がん検診の啓発活動と健康教育を手掛ける一般社団法人の理事を務める。2019年よりフリーのエディターとして、主に女性と子供の健康、子育てに関する取材、発信している。