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2019.07.21

7年ごとに来る「夫婦危機」脳科学から見た必然|定年前後の最大難関は乗り越えられるか

東洋経済オンライン

夫婦の道のりは、けっして安泰じゃない。人生100年時代の熟年離婚を避けるために、今から私たちができることは何か。人工知能研究から生まれた男女脳論が答えをくれた(写真:Bulat Silvia/iStock)

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夫婦の道のりは、けっして安泰じゃない。人生100年時代の熟年離婚を避けるために、今から私たちができることは何か。人工知能研究から生まれた男女脳論が答えをくれた(写真:Bulat Silvia/iStock)

結婚後、20年以上たってからの離婚を熟年離婚とするならば、2016年は年間3万7604組が熟年離婚していることになる。これは離婚した夫婦の実に17%に相当する。

人生100年時代の到来は、結婚70年時代の到来でもある。つまり夫婦は定年後、永遠の愛を誓って涙を流し、我が子に出会い、泣いたり笑ったりして共に歩いてきた道のりより、はるかに長い時間を夫婦として生きていくことになる。

では、熟年離婚を避けるために、私たちができることは何か。この問題について先ほど『定年夫婦のトリセツ』を執筆した脳科学・AI研究者、黒川伊保子氏に話を聞いた。

脳は7年ごとに飽きる

夫婦の道のりは、けっして安泰じゃない。脳の7年周期に従って、7年ごとに危機がやってくる。

結婚7年目、男女のときめきが消えて、本当の夫婦道はここから始まる。ここで諦める夫婦もいて、「7年目の離婚」はほかの年回りの離婚に比べて、明らかに多い。2018年に離婚した及川光博と檀れいの二人も結婚7年目だった。

結婚したその日から、夫婦の時計は止まらない。「男と女」の7年、「戦友」の7年ののち、「関心と無関心の揺らぎ」の7年を経て、「腐れ縁」の域へ入ってくる。7年ごとに相手に飽きて(あきれ果てて)、「この人でよかったのかしら」と逡巡しつつ。

しかし結婚28年目、夫婦は「安寧」の扉を開く。ただこの頃が、実は最も危ない。腐れ縁にあきれ果てるときだからだ。夫婦の道のりは、パンドラの箱に似ている。人生の苦悩のすべてが噴出した後に、希望がふわりと飛び立つあの箱だ。

結婚28年目から35年目の7年間は、「阿吽の呼吸」か「絶望(夫源病、妻源病)」かの分かれ目になる。ゲームで言えば、最後のボスキャラ登場のクライマックス! いくつもの難関を乗り越えてきた夫婦に訪れる、最大の難関と呼んでいいかもしれない。このタイミングで多くの人は定年を迎える。 

ここでは派手な銃撃戦がない代わりに、繊細さが要求される。冒険物語の最後に、真実への道を開く呪文を解き明かす、あのシーンを思い出してほしい。正しい呪文を唱えたら光に包まれた老後が手に入るが、一歩間違えたら死。最も緊張するそんな局面に立たされるのである。

夫婦は、なぜムカつき合うのか。この永遠の命題に、人工知能研究から生まれた男女脳論が答えをくれた。

結論から言うと、男と女は、あらゆるシーンで正反対の答えを出す、真逆の装置になっている。

そうである以上、男女は譲り合っていては危ない。互いにムカつき合い、けんかをすることで、「その場の正解を最速で出す」システムになっているのだから。つまり男女は、ムカつき合うことが大前提の、ペアの装置なのである。

腹立たしい癖は諦めよう

男女は、生物多様性の論理にのっとって、正反対の感性の持ち主にほれる。遺伝子の免疫抗体の型を決めるHLA遺伝子が一致しない相手に発情するのだ。

暑さに強い個体と、寒さに強い個体が子孫を残せば、地球が温暖化しても寒冷化しても子孫の誰かが適合できる。ウイルスに弱い人はウイルスに強い個体を、飢餓に弱い個体は飢餓に強い個体を求め、「より強い遺伝子セット」を作ろうとする。

というわけで、夫婦のエアコンの快適温度は決して一致しない。どちらかが気持ちよければ、もう片方は寒いか暑い。

寝つきも正反対に分かれるようだ。どちらかが寝つきがよければ、どちらかが悪い。寝つきの悪いほうは、寝つきのいいほうの寝息が腹立たしかったりする。

せっかちはおっとりに、几帳面はずぼらに……胸がきゅんとして、燃え上がってしまう。恋愛結婚の時代に、夫婦の感性は、ほぼ真逆といっていい。

エアコンを勝手に切っちゃうのも、先にすとんと寝ちゃうのも、歯磨き粉のチューブを何度言っても途中からぶちゅっとやるのも、それがイラっとするなら、そこが実は惚れポイントに由来する。そういう遺伝子を求めて、胸がきゅんとしたのである。それでも、時にむかっ腹が立つ。それが夫婦なのである。

夫婦の愛とは「わかり合い、譲り合う」ことではない。ムカつき合うことこそ愛の正体だったのである。

そうとわかれば、覚悟を決めればいい。夫と妻がわかり合えるだなんて、つゆほども思わないことだ。「あのとき 同じ花を見て美しいと言った二人」が「素晴らしい愛」なのだとしたら、その二人は生存可能性の高い夫婦にはなれない。そもそも、同じ花なんか見ちゃいない夫婦が、最もいい夫婦なのだから。

わかりえないと覚悟を決め、二人ができるだけムカつかないように工夫して生きる。その工夫がうまくいった二人は、阿吽の呼吸でけんかを寸止めできる、唯一無二のペアになるに違いない。

二人の間には、「わかる、わかる」系の共感をはるかに超えた、深い理解が生まれるだろう。自分を絶妙に補完する相手であることを知るわけだから。自分が相手を補完していることで、新たに自己価値を見出すこともあるだろう。そこには、見たこともない強い絆が生まれるはずである。

何事も準備が大事

目の前の相手と、定年後は40年、24時間、日がな一緒にいるのなら、互いの達人になってしまう以外に、心の安寧を得る道はない。そこでここでは、定年退職の前に、互いが互いの専門家になるための「妻のための夫学」「夫のための妻学」を1つずつ紹介したい。

長い年月をかけてこじれたものを元通りに直すには、時間がかかることもある。「夫婦関係がこじれているな」と感じているなら、できるだけ早く以下を理解し、行動を変え、ぜひ「阿吽の呼吸」の定年後を迎えてほしい。

まずは夫から。定年して家に入る前、夫には「絶対に」マスターしてもらわなくてはならないことがある。それは会話のたびに「共感」というクラッチを踏むことだ。

マニュアル車は、加速するときも減速するときも、クラッチを踏む。そうしないと動力が駆動部にうまくつながらず、車がスムーズに動かないからだ。

女性の会話はそれに似ている。否定するときも肯定するときも、女性脳はまず共感をほしがる。

例えば「なんだか腰が痛くて」には、まずは心配そうに「腰か、それはつらいなぁ」と応えてほしい。このとき「医者に行ったのか」「早く医者に行け」は、最悪のNGワードになる。問題解決は一生しなくていい。なぜなら女性は問題解決の方法など、すでに心得ているからだ。

問題解決してあげたかったら「片付け物は俺がするから、座ってて」と、家事手伝いを申し出るのが一番いい。「温めてみる?」なんていうのも親身な感じがしてとてもいい。

ある優秀な生産管理の専門家が、妻に逆上された話をしてくれた。妻がやかんに水を入れながら、あれこれ別の用事をするのだけど、水を全開にしておくので、あふれてしまっていた。そこで「あれこれするのなら、その時間をもくろんで、水を細めに出しておけばいいのに」とアドバイスしたら、妻がキレたというのだ。

クリティカルパス(最も時間がかかる作業)を見極めて、生産ラインの流量を決めるのは生産管理の基本で、なかなかいいアドバイスであるのだが、妻のキレ方はひどかった。

この話、妻である人たちの多くは「それはひどい。黙って水を止めればいいだけでしょ」と憤慨する。一方、理系の職場に長くいる私自身は、「あーなるほど」と感心して、それからその方式を取っている。以降、わが家では水が盛大にあふれ出ることはない。

それでもそのセリフが、水をあふれさせてショックを受けている瞬間に、夫から出たものだったら、絶対に許さない。一生、水は全開にしてやる、と決心したかもしれない。

だって夫の役割は、その瞬間の妻のショックを和らげることだから。言うべきは「僕が気づいて、止めてあげればよかった」しかない。手練れの専業主婦も、たまの失敗のショックは大きい。なのに夫は、ここぞとばかりに正義を振りかざす(ように見える)。これでは、夫婦が仲良くいられるわけがない。

妻は夫の「ぼうっと」を許そう

さて、今度は妻の番である。

男性は暮らしのそこここで、ぼうっとしている。このぼうっとには意味がある。空間認識の領域を最大限に活性化して、精査しているのである。平たく言えば、ぼうっとしている間に、戦略力・俯瞰力・構造認識力などの能力をアップしている。これはひらめきを引き出す準備運動と言ってもいい。

したがって男性脳を、いつまでもボケさせずにうまく使うには、「ぼうっと時間」を許してあげなければならない。

例えば、休日の午前中、パジャマを着たまま、リビングでぼうっとしている夫。共働きの妻がせっせとたまった家事をこなしていく足元で、ごろごろしている姿に、どれだけ腹が立つかわからない。疲れているなら寝てりゃあいいのに、起きてきたにもかかわらず、私の修羅場を手伝わずにのうのうとしていられる意味が分からん。ボーと生きてんじゃねーよっ(チコちゃん風)……ってな、感じ?

しかしあれは、男性脳の必要不可欠。しなびた白菜みたいにだらけている夫の脳の中では、激しく電気信号が行き交っている。

ちなみに、幼い男の子のぼうっと時間は、のちの理系力の基礎になる。小脳発達臨界の8歳までに、どれだけぼうっとさせたかで、のちの理系の能力が決まる。ぼんやりしがちな男の子は、ぼうっとさせてやらなきゃいけないのだ。

妻が身に付けるべき3秒ルール

さて、ぼうっとしている男性の脳の写真を見て私は驚いた。右脳と左脳の連携信号を潔く断ってしまっているのである。ここが働かないと音声認識がかなわない。

つまり、暮らしのそこここで、男性たちは、音声認識のエンジンを切っている。だからいきなり全開で話しかけられても、聞き取れないのだ。「あなた、あの件、どうなったの?」「あなた、それそれ、それ取って」も、すべて「ほぇほぇほぇほぇ、ほぇっほぇ」と聞こえている。

なので、「はぁ?」と聞き返してくる。この「はぁ?」が、女には腹が立つ。


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私たち女性は、起きてから眠るまで、音声認識のエンジンを切ることはほとんどない。いきなり話しかけられても、言われたことの意味くらいはわかる。だから、この夫の「はぁ?」が「なんで、俺が?」に聞こえるのである。まさか、「聞き取れませんでしたけど、何か?」だなんて、思いもよらない。

このムカつきは男性にとってはまったくの濡れ衣だ。幻想に腹を立てているだけ。日々の暮らしから、この無駄なムカつきをなくそう。

夫に話しかけるときは(息子や孫も同じ)、彼の視界に入るようにして声をかける。そして、声をかけてから3秒待つ。「あなた、(1)(2)(3)、〇〇のことだけど」という感じ。

3秒あれば、男性も音声認識のスイッチが入れられる。夫の「はぁ?」や、いぶかしげな顔を見ないだけでも、暮らしはかなり楽になる。

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黒川 伊保子:人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家

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