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2019.08.01

あなたの仕事を阻む『時間泥棒』の正体と対策【習慣の心理学#26】

kencom公式:心理学ジャーナリスト・佐々木正悟

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仕事中に差し込みで現れるSNSのお知らせやアプリからの通知に気をとられることはないでしょうか?これらはあなたの仕事を中断せざるを得なくする原因のひとつです。
そんな意図せずあなたの時間を奪っていく『時間泥棒』はどうして生まれ、どう対策したらいいのでしょうか。
今回はその辺りのお話をしようと思います。

忙しくなる理由は、知らないうちに身についた習慣にあった!?

忙しい人は「最強のiPhone」を求める?

最近『時間術大全――人生が本当に変わる「87の時間ワザ」』(ジェイク・ナップ、ジョン・ゼラツキー著、櫻井祐子訳、ダイヤモンド社)という本を読みました。

「同書はたちまちのうちに話題となり、世界16ヵ国で刊行」という話題の本です。
一読してみて、なるほどこういう考え方もたしかにあるなと思わされますが、大全なのに私自身が実践中の「タスクシュート時間術」は一行どころか一語たりとも出てこない、という不満が残りました。当たり前と言われれば返す言葉もありませんが。

冗談はさておき、本書を読むと真っ先に登場する「最強のiPhoneの作り方」は、一般的に非常に有効な時間術とみなされると思う一方、私にはいささか違和感があります。
それは、SNSやメールに振り回されるな、という方法。『時間術大全』では特にラディカルで、「それらのアプリを全部アンインストール!そうすれば最強のiPhoneができる!」というのです。

この方法がある意味では「強力な時間術」であり、有効な人も多くいるというのはよくわかります。
「最強のiPhone」はつまり、コミュニケーションツールではないというわけです。大元は電話であったiPhoneには他にも強力なツールはたくさんあって、コミュニケーションの時間をもっと減らせば、それだけ「時間を作る」ことができるというわけです。

いつの間にかSNSチェックが習慣に

彼らがこうした方法を実践して効果が上がったというのはわかります。でも私には、『時間術大全』を書いた著者たちがあれほどあからさまに忙しいのに、どうして「SNS中毒」から逃れられなかったか、違和感があったのです。
その理由として、彼らは自分の忙しさが可視化できていなかったに違いありません。予定は予定表にあったはずですし、忙しいことも重々承知していたはずです。しかし、SNSやメールチェックがぜんぜん忙しさへの対策にならないということを、なかなか自覚できずにいたのです。

どうしてそうなってしまうかというと、「まずSNSをチェックする」という習慣があったからです。これは本書を読むとすぐわかります。著者は不思議といえば不思議なことに、常に仕事をしていても追いつかないほどなのに、「まずSNSをチェックする」ところから一日をはじめ、気がつくと「まずSNSをチェックする」という習慣が根付いていたのです。
どれほど忙しい人であっても、行為と行為の間には切れ目があります。トイレから出るのと「同時に」食事する人なんていないでしょうし、トイレで食事をするという人もいないでしょう。どんなに時間がなくても「分けずにいられないこと」はたくさんあるのです。

その切れ目において「まずはSNSをしてしまう」人はたくさんいます。実際、トイレから戻ってくるとまずSNSをチェックするという人はカフェなどではひんぱんに見かけます。こういう人は、なにかしら行動をはじめる「直前に」「必ず」SNSをチェックすることから始めるのです。

忙しさを可視化しよう

こういうことは、忙しさを可視化することで、本当は回避できることです。SNSチェックを「先にやる」(行動の直前ですから)ことで、ただでさえ希少な「仕事時間」が削り取られているということに無自覚なのです。
実際私は行動ログを取っているので、行動の前にことごとく「SNSチェック」したらどういうログになるかよく知っています。「メールチェック」がそこかしこに出現し、至る所が「Twitter」になってしまうのです。

そして、メールチェック、Twitter、Facebookチェックが午前に目白押しになり、午後も目白押しになり、仕事はことごとく夕方から夜以後に回っていきます。それなのに夕方も夜もSNSチェックは怠らない!
この様子を「見た」ら、それも「毎日見た」ら、いずれ「逆にしよう」と考えるようになるものなのです。iPhoneにアプリが残っていたとしてもです。

実際私はそうしました。メールチェックは午後にします。SNSの時間も仕事の後に回っています。「意思力の強い人はそれができても」とみんな言うのですが、そうではありません。「忙しさの可視化」によってこれはできます。

忙しさの可視化=詳細なログ(記録)をとること

「忙しさの可視化」というのは「これからやることの多さを可視化すること」ではありません。それはそれで大事ですが、「これまでやってきたことの多さ」を可視化すること、つまりタスクのログを綿密に残すことです。そこに嘘を交えないことです。

Twitterばっかり朝から晩までやっていたら、それもきちんとタスクのログとして残すことです。見るのは自分だけでもかまいません。「こんなに私はTwitterで忙しいのか!」と絶対に思います。本当にきちんと残してたら思うはずです。

「少しでも忙しさから脱却できないものか?」と思う人は思うでしょう。もっと忙しさを減らすことはできます。
Twitterの時間を、「後に回す」ことにすればいいのです。まずTwitterに使い、それから他のことをするのではなく、まず仕事とか運動をして、その後でTwitterをすればいいのです。

時間泥棒対策はまとまった時間をとること

忙しさの可視化とその対策は、iPhoneにTwitterとメールとFacebookのアプリが残っていてもできます。
実際私は、全部iPhoneに残していて、午後になってから、あるいは電車の移動時間にそれらを読むようにしてます。
こうすることで、少なくともSNSなど途中で差し込まれる時間泥棒を回避することができるのです。

参考文献

ジェイク・ナップ、ジョン・ゼラツキー著, 櫻井 祐子翻訳(2019.06),『時間術大全――人生が本当に変わる「87の時間ワザ」』,ダイヤモンド社刊

著者プロフィール

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■佐々木正悟(ささき・しょうご)
心理学ジャーナリスト。「ライフハック」の第一人者。専門は認知心理学。1997年獨協大学を卒業後、ドコモサービスに入社。2001年米アヴィラ大学心理学科に留学。04年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。05年帰国以来、「効率化」と「心理学」を掛け合わせた「ライフハック心理学」を探求し続けている。
著書にベストセラーとなった『ビジネスハックス』『スピードハックス』などのハックシリーズ(日本実業出版)のほか、『先送りせずにすぐやる人に変わる方法』(中経出版)、『やめられなくなる、小さな習慣』(ソーテック社)などがある。

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