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2019.07.24

胃のキリキリ、もたれ「体質だから」と諦めないで! 胃炎の放置は胃がんのリスクを高めます【胃炎・前編】

KenCoM公式ライター:森下千佳

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胃がキリキリ痛む、食べるとすぐに胃がもたれるなどの胃の不調を感じていても、「胃炎は体質」だからと市販の胃腸薬などで対処していませんか?
胃の不調に慣れて放置してしまうと、胃がん、胃潰瘍など大きな病気を招きかねません。
胃炎のリスクを知り、健康な胃を取り戻す生活習慣を胃腸の専門医近藤慎太郎先生に伺いました。

近藤慎太郎(こんどう・しんたろう)先生

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東京大学医学部医学系大学院卒業。日赤医療センター、東京大学医学部付属病院を経て山王メディカルセンター内視鏡室長、クリントエグゼクリニック院長などを歴任。消化器専門医として多くのがん患者を診療し、年間2000件以上の内視鏡検査・治療を手がける。著書に『胃がん・大腸がんを治す、防ぐ!』(さくら舎)など。今年東京・渋谷に近藤しんたろうクリニックを開院。

意外に多い「胃炎」ってこんな病気

胃炎=胃に発生する炎症

胃炎とは胃に発生する炎症のこと。
なんらかの原因によって胃の粘膜に炎症が起きることで、出血をしたり、粘膜がえぐれたり、むくんだりという症状が現れることを総称して胃炎と言います。
急性に起こる急性胃炎と、慢性的に持続して起こる慢性胃炎があり、それぞれ原因が違います。

急性胃炎

食べ過ぎ、飲み過ぎ、仕事や試験などのストレスによるものもあれば、痛み止めなどの薬により胃の粘膜が荒れてしまうこともあります。また、アニサキスという寄生虫による食中毒や、ピロリ菌の感染により起こることもあります。多くの場合は、2〜3日で治り元の状態に戻ります。

慢性胃炎

原因の多くの部分がピロリ菌によるものです。胃の粘膜が弱まり、炎症が繰り返されて治りにくくなっている状態です。多くは、胃もたれや胃痛、胸焼け、吐き気、膨満感などの症状が慢性的に繰り返され、胃がんや胃潰瘍に進行することもあります。ピロリ菌の感染は発がんのリスクにつながりますので、除菌が必要です。
今回は、こちらの話を中心に解説していきます。

胃の中で何が起こっている?

通常、消化に必要な「胃酸」と胃の粘膜を守る「胃粘液」の分泌量はバランスよく保たれていて、胃酸によって胃の粘膜が荒れることはありません。
しかし、様々な原因で胃酸が過剰分泌をしたり、胃粘液の分泌量が減ったりすると、胃粘膜が胃酸を防御できず、胃を痛めて胃炎を起こしてしまいます。

胃炎の治療では、このバランスを取るために粘膜を保護する薬を飲むか、胃酸の分泌を抑える薬を飲むか、両方を飲むかを患者さんの症状に合わせて行っていきます。

※2020.06.19修正 上記文章内の「胃粘液」の表記が一部「胃粘膜」となっていました。ご迷惑をおかけして失礼いたしました。

慢性的な胃の痛みがある場合はピロリ菌が原因かも

ピロリ菌とはどんな菌?

慢性胃炎の原因の多くはピロリ菌(正式名:ヘリコバクター・ピロリ菌)によるものです。
ピロリ菌は、胃の粘膜に住み着く細菌で、細い髭のようなのような鞭毛を動かして胃の中を移動しています。胃の中は胃酸によって強い酸性になっていますが、ピロリ菌はアルカリ性のアンモニアを生成し、胃酸から身を守って自分が生きられる環境を作っているのです。さらにピロリ菌は毒素を出すので、長く住み着いていると、粘膜が壊されてしまい炎症が起こります。

ピロリ菌は胃がん、萎縮性胃炎のリスクを高める

ピロリ菌は毒素を出すので、長く住み着いていると胃の粘膜に慢性的な炎症を起こし、焼け野原のような状態にしてしまいます。粘膜は本来、丈のあるものなんですが、炎症が進むと粘膜が萎縮して擦り切れたような状態になってしまう萎縮性胃炎を引き起こします。

こうした胃の粘膜が荒廃した状態がさらに進むと、細胞が死んで再生してという細胞分裂を短期間にくり返すことになり、遺伝子のコピーミスが起きやすく発がんしてしまいます。
ピロリ菌は胃がんの最大の危険因子で、胃がんの患者さんのほとんどが、ピロリ菌に感染していることがわかっています。
現在、日本では毎年13万人近くが胃がんになり、年間5万人近くの人が亡くなっています。

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ピロリ菌の感染経路は?

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はっきりとした感染経路は分かっていませんが、大部分は飲み水や食べ物を通じて、人の口から体内に入ると考えられています。ピロリ菌は井戸水などで見られる細菌で、衛生状況の悪い一昔前の日本にはどこにでもいました。生活環境が整備された現代の日本では、生水を飲んで感染することはありません。

ピロリ菌は5歳以下の幼児期に感染すると言われています。幼児期の胃の中は免疫が弱く、ピロリ菌が生き延びやすいためです。そのため最近では母から子へなどの家庭内感染が疑われていますので、ピロリ菌に感染し ている大人から小さい子どもへの食べ物の口移しなどには注意が必要です。
夫婦間や恋人間でのキス、またコップの回し飲みなどの日常生活ではピロリ菌は感染しないと考えられています。

こんな人は、ピロリ菌に要注意!

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胃が痛む、自分は胃が弱いと感じている人、また胃の検査で胃炎があると言われた方は、一度ピロリ菌の検査を受けることをおすすめします。また、家族(特に両親)に胃がんの人がいる場合など、血縁者に胃がんになった人が多ければ、胃がんになりやすい家系であることが考えられますので是非検査をしてください。

また、ピロリ菌に感染している人と同じ環境で育ったことにより感染している可能性が考えられます。

20歳を超えたら一度ピロリ菌の検査を!

ピロリ菌は、感染している期間が長いほど胃がんになるリスクが高まります。幼児期に感染していると、食べると胃が痛くなる、食が細い、などの胃の不調を「普通の状態」のように捉えて見過ごしがちです。
自覚症状がない場合でも20歳を超えたらピロリ菌検査を一度受けてみるといいでしょう。

次回の記事では、ピロリ菌の検査と治療方法、また健康な胃を手に入れるための生活習慣などを、詳しく解説していきます!

■胃炎・ピロリ菌はこう対処しよう!治療法もわかる後編はこちら

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
お茶の水女子大学理学部卒。2000年に東海テレビ放送に入社し、主に報道記者として事件、事故を取材制作。女性ならではの目線で取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。2009年に家族の転勤で、ニューヨークに渡り4年間移住。当時日本ではなかなか手に入らなかったオーガニックのベビー商品、コスメなどを日本に届けるベンチャー起業を立ち上げに関わる。2013年帰国し翌年に女児を出産。2016年より子宮頸がん検診の啓発活動と健康教育を手掛ける一般社団法人の理事を務める。2019年よりフリーのエディターとして、主に女性と子供の健康、子育てに関する取材、発信している。