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2019.07.03

「精神科医の禅僧」が教える続く疲れを減らす策|ランダムなものを見て心を落ち着かせる

東洋経済オンライン

知らず知らずのうちにため込んだストレスが、体の不調につながってしまうケースが近年多く見られます(写真:プラナ/PIXTA)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/288878?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

知らず知らずのうちにため込んだストレスが、体の不調につながってしまうケースが近年多く見られます(写真:プラナ/PIXTA)

風邪を引きやすい、肩こりと頭痛がひどい、朝だるくて起きられない、夜なかなか眠れない……。精神科医の川野泰周氏の勤める心療内科クリニックには、心の悩みだけでなく、慢性的な体の症状を訴える方が多数来院するという。

体調不良が続いたことがきっかけで、上司や同僚にすすめられて、しぶしぶ心療内科に来てみたら、実は心の問題があった、という患者もとても多いそう。悪化する前にストレスを減らす方法はないのか。『会社では教えてもらえない 集中力がある人のストレス管理のキホン』を一部抜粋し再構成のうえお届けします。

やる気が出ないのは、「脳」の問題?

仕事量が多すぎて、やってもやっても仕事が終わらない、できないことを要求される、上司から自分ばかりが叱責されている気がする……。

そんな毎日を過ごすうちに、次第にやる気が起きなくなり、夜も寝つきが悪い。いつも疲れているし、風邪をひきやすく、仕事も集中力が足りないせいかミスを多発する。こんなこと、ありませんか?

私が勤めている精神科のクリニックでも、心の疲れが完全に体に出てしまっている患者さんがよく来院されます。頑張りすぎて、体調を崩す……。どんなに仕事がデキる人でも一度は経験したことがあるのではないでしょうか。誰だって初めて取り組む仕事には緊張し、失敗もします。覚えなくてはいけないことが多くあれば、ストレスがたまって当然です。

しかし、ストレスを放置すると、「自分は周りの人からどう見られているのか」「同期よりも全然できていない」など、雑念で頭がいっぱいになって、仕事のスピードもグッと落ちていきます。集中していれば10分で終わることも、2時間、3時間もかかってしまうことも。

ストレスがたまりきっている状況だと、目の前の仕事に集中できなくて、生産性が下がります。これは脳の前頭葉の機能が低下するからです。脳内で集中力を担っているドーパミンやノルアドレナリン、アドレナリンなどの神経伝達物質、いわゆる「脳内ホルモン」が機能不全を起こしているといわれています。

ここまでくると、本人の気力や気合いの問題ではなく、「脳内の問題」となります。自分では立ち上がれない状態に陥らないためにも、ストレスと上手に付き合うことが必須なのです。では、体調を整え、ストレスをためないためにはどうしたらいいでしょうか。

タダでできる簡単な方法があります。それが良質な睡眠をとることです。睡眠は長さ、つまり量だけではなく、質も考えることが大切です。量が十分でも質が悪い場合があるからです。

シンプルに言うと、カーテンを開けたまま寝て、朝、自然光で目覚めるのが理想です。朝日とともに目覚め、日没とともに眠る。忙しい現代人のライフスタイルでは、なかなか難しいかもしれません。

朝の光が効果的なワケ

朝の光が効果的な理由は、睡眠ホルモン・メラトニンと関係があります。夜に増加するメラトニンは、網膜から入った朝の太陽光によって減少し、そして15時間後に再び分泌されますが、そのサイクルで生活するのが最善なのです。

朝の光を浴びていないと夜になってもなかなかメラトニンが分泌されず、眠くならないので、夜更かしをすることになります。そうすると朝起きるのが遅くなって、朝日を浴びられません。朝、光を浴びておかないと、その日の夜の眠りが悪くなります。その繰り返しが悪循環を招き、体調を崩す可能性があります。

さらに気をつけなければいけないのは、睡眠不足の蓄積、「睡眠負債」です。早起きしなくてもいい週末に、7~8時間で目が覚める人の睡眠負債はそれほど蓄積しないと思われます。一方、目覚まし時計がなければ十何時間も眠ってしまう人は、睡眠負債がかなり大きいといえます。

朝の光を浴びましょう、と言いましたが、朝の光を浴びているのに、睡眠のリズム障害が治らない場合は、夜の光刺激が強すぎるのも原因の1つだと考えられます。

都会都市部になればなるほど、DSPS(睡眠相後退症候群)が多いのは、都会の夜が明るすぎるからです。現在はスマホやコンビニが広く普及したため、地方在住の若い人たちにもDSPSが増えてきました。良質な睡眠をとりたかったら、ベッドでスマホをいじらないことです。

また、お昼ごはんを食べたあと、午後2時、3時くらいになると睡魔に襲われることはありませんか? 昼間に眠気が来たら、本来はムダな抵抗はしないで寝たほうがいいです。15~30分の「ショートナップ」は疲労回復に大きな効果があります。別名「パワーナップ」と言われ、海外の一流ビジネスパーソンが多く活用していることからも、その効果は信頼されています。

しかも夜の睡眠をよくしてくれるのです。会社の休み時間に積極的に仮眠していただくことをおすすめします。大手企業には仮眠室があるところもありますが、横になって眠ることはおすすめできません。本格的に寝ると睡眠深度が深くなりすぎ、起きてからボーッとしてしまうからです。席に座ったままで、うつらうつら程度の居眠りがいいのです。

昼の短い仮眠の有効性は実証されており、給食のあとに短い昼寝の時間を導入している小中学校や高校もあります。久留米大学の研究チームが15分の昼寝をした群としなかった群を1カ月半比べたところ、昼寝をした群のほうの学力が向上したという報告もあります。

机にうつ伏せで寝るわけですが、適度な深さの睡眠が疲労を解消するため、集中力が高まり、午後の勤怠が改善するのです。ちょっと寝ることの効果は、計り知れないということですね。

睡眠不足を行き帰りの電車の居眠りで解消しようとする人もいますが、これはちょっと危険です。朝はいちばん長い睡眠から明けた状態です。その前の睡眠が長ければ長いほど、覚醒するのに時間がかかります。

覚醒に向かっているときに、また眠ってしまうというのは、その日の夜、本来の睡眠の質を落とすことになります。それだけでなく、朝の通勤時に寝てしまうと、会社に行ってからエンジンがかかるまで時間がかかってしまうのです。

そして、行きの電車だけでなく、帰りの電車でも寝ないほうがいいでしょう。午後3時以降のうたた寝は、夜の睡眠の質を悪くする、といわれています。帰りの電車では朝よりも疲れがたまっているため、深く寝てしまいやすく、夜の睡眠の質が悪くなってしまいます。

心身は自然に大きく影響を受ける

心身は自然に大きく影響を受けています。鳥の鳴き声、川のせせらぎ、雨音など、自然界は不規則な形や動き、音であふれています。ランダムなばらつきを有するものは、人間の心を落ち着かせるのです。

例えば、木の枝はランダムに生えていますね。1本1本の枝の長さは微妙にちがいます。自然なそよ風、波音、木漏れ日、心臓の拍動の間隔。ランダムで規則性のない音を「f分の1の揺らぎ」とも言います。物理学者の武者利光さんの研究によると、自然界の揺らぎの音を聴くと、脳内がα波の状態になって、癒やしの効果をもたらすようです。

自然の中は、無音ということはありません。つねに音がある。草が揺れていたり、鳥が鳴いていたり。自然のおだやかな音、動きを見たり聞いたりしているうちに、「本来の状態」になります。「本来の自己」、禅の世界では「自己の本分」と言います。自然の中で心を落ち着けてみると、いろいろな情報や人の意見などに振り回されてバランスを崩していたところから、平常心に戻ることができます。


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私たちは普段、パソコン、スマホ、テレビ、机、鉛筆、機械などの人工物に囲まれています。人工物は無意識のうちに人間の心を疲れさせます。たとえばテーブル。直角の部分や丸みを帯びたラインは計算してつくられています。

人は規則正しく並んでいるものを見ると、心が整理できていいと思われがちですが、実はあまりにも規則的に配置されすぎたものの中で過ごしていると、かえって心が乱れてしまい、疲弊しやすくなると言われています。

心が塞ぎ込みがちな人は、毎日の中に積極的に自然とのふれあいを取り入れてみましょう。空を流れる雲の動きを見る、月の輝きを見てみる、梅や桜など、きれいに咲き誇っている花を眺めてみる。なんてことのないことかもしれませんが、そういうちょっとした「ランダム」なものを生活に取り入れることで、心が癒やされ、満たされていくのです。

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川野 泰周:精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職

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