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2019.07.04

時間がない方がストレスを劇的に減らせる理由【習慣の心理学#22】

KenCoM公式:心理学ジャーナリスト・佐々木正悟

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早朝に起きてジョギングだとか、昼食時を削っての英会話の練習など、習慣化には「つらくてきついものに慣れることで、スキルや健康を増強する」という一面が強調されがちです。
たしかにそういう一面はありますが、同時に「習慣化そのものが精神を安定させる」という側面もしっかりと把握しておく必要があります。
今回は、習慣化の効果について語っていきましょう。

習慣化は日常を楽にする

イチローの『朝カレー』は気持ちを楽にする習慣

習慣化やルーチンということでは、世界で一二を争うほど有名な元大リーガーのイチローがいます。ただ、彼の習慣の中でも有名な「朝のメニューはカレーのみ」というのはそれほど「素晴らしい習慣」とも思えません。もちろんこのおかげだけでイチローのスキルや健康が増強されているとも思えません。

ただ、これは「いちいち悩まない習慣」とでも言うものです。つまり、朝起きる時間から歯を磨く時間、職場に出る時間などを徹底的に安定させることで、精神を非常に安定させるというメリットを狙ったものになります。
これはアスリートに限った話ではありません。生きていれば色々な浮き沈みがあるものです。だからこそ精神面が常に安定状態にあることのメリットは小さくありません。

私自身の習慣にも、健康に役立つとか、お金が儲かるとか、仕事を効率化できるわけでないような習慣がたくさんあります。
ただ、その習慣そのものがストレスを減らしてくれるため、結果として他の、いささか苦痛になる習慣を継続させやすくしてくれているのです。

日常のほとんどは習慣化しても問題ないものが多い

たとえば私は、『タスクシュート』という日々のタスクを管理するシステムでもって、一日の97%以上を習慣化しています。それだけ習慣化していますから、習慣をこなすだけで一日が終わる日もたくさんあります。
これは、朝起きてから夜寝るまで、常にほとんど同じようなことを、ほとんど同じような順番で、ひとつ、またひとつと進めるだけとも言えます。もちろん何か突発事項が起きることはありますが、それは他の習慣の中で、かなり安定的に「処理」されます。

大半の習慣は簡単です。ゴミ出しや朝食準備などの家事にしても、散歩や軽い体操のような運動にしても、娘や妻との会話などにしても、同じタイミングで何度も何度も繰り返しているものですから、実行が大変だと思うようなことではありません。
ほぼ、同様な対応をすることで簡単に習慣化できるわけです。

しかし、こうした習慣をより確実に繰り返すことができるように、色々なことに気を配ってはいます。
タイミングを外さないことは何よりも大事です。
ゴミ出しは収集車が行ってしまったあとではダメですし、朝食準備も娘の登校に間に合うようにする必要があります。
散歩もなるべく同じ時間帯に、天気にかかわらず毎日できるようにしています。妻との会話も機嫌をうまく取りつつ、ほとんど同じ時間で収まるようにあれこれ気をつけています。

ほとんど同じよりも全く同じにすることで負担は減る

こういう日常的に繰り返される習慣の間に、本の原稿を書いたり、この連載の原稿を書くという習慣を挟み込むわけです。これらの仕事は多少は負担がかかるわけですから、より一層の慎重さが必要になります。
この一層慎重に行わなければいけない習慣に集中するためにも、普段の習慣に関しては「いつもとほとんど同じ」であるよりは「いつもとまったく同じ」く、同じ時間・同じ手順・同じアプリで実行するようにするほどいいと思うわけです。

端から見れば毎日が同じように無風で退屈なものにも思えるでしょうが、本人は常に戦闘態勢に近い危機感にさらされてもいます。同じように習慣化しているから、やっとできているという部分もあるわけです。この習慣が崩れてしまったら、ルーチンのすべてが崩壊して、なにも手がつけられなくなっても決して不思議はないように思えます。

だから毎日同じ時間に起きられると、とてもほっとしますし、雨が降った日も、気持ちが落ち込んだり家でゆっくりしてしまうなどして、散歩できなくなるという事態に陥らないようにしています。
コーヒーがおいしいからと言って飲み過ぎてしまい、夜の眠りが浅くなってしまったりするのも恐ろしいことです。同じ時間に寝床に入ることができ、そのとき猛烈な眠気が襲ってくると、やっぱり非常に安堵します。私は神の存在を信じませんが、こういうときには何かに感謝したい気持ちになります。

日々の生活を習慣化することで、より大きいことができるようになる

つらくてきつい習慣は、他の、より容易ですが安定をもたらす大事なたくさんの習慣によって支えられているのです。そういう意味では、何にしても習慣化にとって大事なカギは、もっと基本となる生活習慣の方にあると言えるでしょう。
基礎となる習慣ができあがって、楽にできるようになると、いささかきついことの習慣化もラクにできるようになるはずです。

著者プロフィール

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■佐々木正悟(ささき・しょうご)
心理学ジャーナリスト。「ライフハック」の第一人者。専門は認知心理学。1997年獨協大学を卒業後、ドコモサービスに入社。2001年米アヴィラ大学心理学科に留学。04年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。05年帰国以来、「効率化」と「心理学」を掛け合わせた「ライフハック心理学」を探求し続けている。
著書にベストセラーとなった『ビジネスハックス』『スピードハックス』などのハックシリーズ(日本実業出版)のほか、『先送りせずにすぐやる人に変わる方法』(中経出版)、『やめられなくなる、小さな習慣』(ソーテック社)などがある。

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