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2019.04.19

「70歳以上」まで働いても年金額は増えない?|複雑な「年金と年齢」の関係をすっきりさせる

東洋経済オンライン

60歳定年、再雇用65歳は当たり前。今や70歳超でサラリーマンをしている人も多い。併せて年金の受給開始年齢や加入期間は、どう変わっているのか?(写真:Fast&Slow/PIXTA)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/277390?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

60歳定年、再雇用65歳は当たり前。今や70歳超でサラリーマンをしている人も多い。併せて年金の受給開始年齢や加入期間は、どう変わっているのか?(写真:Fast&Slow/PIXTA)

「厚生年金加入、70歳以上も」「厚労省が納付義務を検討」――。

4月16日付の日本経済新聞朝刊、こんな見出しのトップ記事を見て驚いた方もいらっしゃると思います。70歳以上も厚生年金に加入できるようにして、保険料の支払いを義務付けることを検討する……という内容です。

でも、これは「年金の支給開始年齢が引き上げられる」という話ではありません。公的年金に関しては、何か記事が出るたびに、マイナスイメージに受け取られることが多いのですが、実際にはさまざまなことがごっちゃになっていて、十分理解されていなかったり、誤解されていたりする部分も少なくありません。ここで、年金をめぐる最近の動きを整理してみたいと思います。

年金の受け取り開始の年齢が「75歳」に延長される?

以前も「公的年金の受け取り開始年齢を75歳まで延長検討」という内容の記事が出たときに、「年金は75歳からしか受け取れないのか!」と驚いた人も多かったでしょう。これも実は誤解です。

現在、年金受け取り開始は原則65歳になっているものの、実際は60歳から70歳までの範囲で好きなときから受け取りを開始できます。受け取りの年齢(時期)を早めるほど月々の受給額が減り、遅らせるほど増えますが、記事は「75歳まで」その選択の幅を広げようと検討を始めた、というだけのことです。

今回の記事で言えば、厚生年金という公的年金制度の中の1つに関するものです。厚生年金は、会社などに勤める給与所得者が加入する制度で、自営業やフリーランスで働く人にはこの制度はありません。

現在、多くの会社は定年が60歳であり、その後は再雇用制度で65歳までは働き続けることができるというのが一般的です。定年までは多くの方が正社員で働いているので、その場合は全員が厚生年金に加入しています。

では、60歳の定年以降も働く場合の厚生年金はどうなるでしょうか。例えば再雇用で働く場合、一般社員の所定労働時間と日数の4分の3以上ある場合か、あるいはそれ未満であっても、いくつかの条件を満たす場合は原則として厚生年金に加入し続けることになります。

これは65歳を超えて70歳まで働く場合も同様です。長い期間、厚生年金に加入すれば、その分、将来もらえる年金額は多くなりますし、保険料の半分は会社が負担してくれます。長く働くのであれば、厚生年金の加入期間が増えるのはいいことです。

「75歳」まで厚生年金に加入したら年金は増える?

ただし、現在、厚生年金の保険料の納付期間(加入期間)は70歳未満となっています。そこで、今回の記事にあるように、厚生年金に加入できる期間をさらに75歳まで延ばすことを検討しようというのです。

背景には、70歳を超えても働く人が増えている、という実態があります。内閣府の『平成30年版高齢社会白書』によれば、70~74歳の就業率は27.2%、75歳以上の就業率は9.0%。70歳を超えてサラリーマンをしている人は、役員を除いても180万人以上いるとみられています。現状では、こうした人たちは会社から給与を得ながら働いていても厚生年金には加入していません。収入を得ることはできても、受け取る年金額の増加にはつながらないのです。

もし、今回の制度改正が実現したら、受け取る年金額はどれだけ増えるか。仮に75歳まで厚生年金に加入できて、かつ年金の受け取り開始を75歳からにした場合、将来どれぐらい年金受取額が増えることになるのでしょうか。今回の記事にある「厚労省の検討」とは、その試算をやってみようということです(もう試算しているかもしれませんが)。

では、なぜ今のタイミングでそういう試算をするかということですが、今年は5年に1度の公的年金の「財政再計算」の年に当たるからです。

財政再計算とは、いわば「年金制度の健康診断」で、その結果に応じて制度の見直しや改正につながる重要な検証作業です。前回は2014年に実施されましたが、5年前のこのときも、ある試算が行われました。

それは、現在の原則60歳まで厚生年金に加入して65歳から受け取るという一般的なモデルに比べて、70歳まで加入し、受け取り開始を70歳という制度に変えたとすれば、どうなるだろうか?という試算です。結果はどうなったか。現役時代の収入の何割を年金でカバーできるかという「所得代替率」は、70歳加入、70歳支給開始とすることで何と86.2%にもなるのです。(第21回社会保障審議会年金部会 資料2-1「国民年金及び厚生年金に係る 財政の現況及び見通しの関連試算」13ページ)

「支給開始年齢」が今すぐに引き上げられることはない

現在の公的年金制度は55歳定年、平均寿命が65歳という昭和30年代頃に設計されました。「人生の晩年の5~10年を賄う」という前提で設計された制度なのです。平均寿命が80歳を超え、「人生100年時代」といわれるようになった今、その制度を維持していくのはかなり無理があります。

もちろん、これまで平均寿命の伸長によって制度の見直しはされてきました。しかし今後、70歳や75歳まで働くという人も増えてくるはずですから、それに合わせて制度を再構築する必要があります。

ただ、年金の支給開始年齢がすぐにでも引き上げられるということにはなりませんから、あわてる必要はありません。今後の自分の仕事や生活のスタイルによって、働き続ける年齢や、年金の受け取り時期・方法をより柔軟にしていこうと考えればいいと思います。新聞報道で出てきた試算は今回の財政再計算に伴って実施されることになると思いますが、6月頃にはその結果が出てくるでしょうから、注目したいと思います。

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大江 英樹:経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表

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