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2019.03.27

沈黙の臓器に黄信号!肝臓が危ない【知って防ぐ肝疾患・前編】

KenCoM公式ライター:黒田 創

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多くの皆さんがイメージする肝臓の病気と言えば、B型肝炎やC型肝炎などのウイルス性肝炎や、お酒の飲みすぎを原因とするアルコール性肝障害といったあたりではないでしょうか。
しかし最近、従来とは異なる肝臓の病気が増えてきているそう。今回は肝臓専門医・指導医の銀座しまだ内科クリニック院長、島田昌彦先生に詳しく伺いました。

島田昌彦(しまだ・まさひこ)先生

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医学博士。銀座しまだ内科クリニック(東京都中央区)院長。
金沢医科大学卒業後、東京女子医科大学消化器内科にて非アルコール性脂肪肝炎を研究。その後金沢医科大学准講師、東京女子医大八千代医療センター消化器内科などを経て現職。

多くの日本人が何らかの肝機能異常を抱えている時代に

成人男性40%、女性20%が肝機能異常を抱えている

日本人間ドック学会が2016年に発表したデータによると、人間ドックを受診した人の実に33.2%で肝機能異常がみられました。
これは「高コレステロール」(33.4%)に続いて多い数字です。肝機能異常のある人は1980年代以降上昇しており、男性の約4割、女性の約2割にみられるとされています。

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肝臓に何らかの疾患を抱えている方がかなりの人数いるのは明らかですが、なかでも近年問題になっているのが肝臓の中に中性脂肪が過剰に貯まり、脂肪が肝臓全体の30%以上を占めるようになった状態、すなわち脂肪肝です。

脂肪肝には飲酒が関係する「アルコール性脂肪肝」と、お酒を飲みすぎていないのに発症する「非アルコール性脂肪肝」があり、両者を合わせると国内の患者数は約1,000万人と推測されます。つまり脂肪肝は国民病とも言える状況なわけですが、なかでも近年問題になっているのが非アルコール性脂肪肝(NAFL)です。

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非アルコール性脂肪肝炎のリスク

以前はNAFLだけであれば重い病気には進行しないとみられていました。しかし近年、放っておくと肝細胞が膨張して壊れてしまい、肝臓が硬化する非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を引き起こすことがわかってきました。
非アルコール性脂肪肝炎から肝硬変や肝がんといった重い病気に進行するケースもあるのです。

従来、肝疾患の中ではB型肝炎やC型肝炎の方が肝硬変や肝がんにつながる恐れがあるとされていました。これらの肝炎ウイルスは、治療効果の高い薬が出てきたことで重症化する前に投薬で治療できるようになってきています。
代わってNASHのリスクが問題視されるようになったのです。非アルコール性脂肪肝炎患者は国内に約100万人程度いると言われており、決して小さくない数字です。

肝臓はしばしば“沈黙の臓器“と言われるように、何らかの疾患があっても別の病気に進行しない限りは目立った症状が表れません。代謝能力がとても高く、多少のダメージを受けても機能が維持される臓器なのです。これがやっかいな点です。

「アルコール性」と「非アルコール性」の違いは?

非アルコール性脂肪肝炎を引き起こす非アルコール性脂肪肝の診断基準は、非飲酒にもかかわらず脂肪肝を認め、かつウイルス性肝炎など他の肝障害の原因がないことが第一条件となります。
非飲酒といっても一滴もお酒を飲まないというわけではなく、多少の飲酒をしている人もその範疇に加えています。

非飲酒の定義は正確には、1日当たりのエタノール摂取量が男性で30g(ビール大瓶1本分)、女性は20g(ビール中瓶1本分)以下であれば非アルコール性。それ以上のお酒を飲んでいる場合はアルコール性とみなします。結構な量を飲まない限りは非アルコール性にカテゴライズされますが、これはあくまで国際基準によるものです。こうした条件を満たし、かつ血液検査の所見で一定の数値に到達した患者さんには、腹部に生検針を刺して肝臓の組織の一部を採取する肝生検という検査を行い、確定診断を下します。

また当院の場合、肝フィブロスキャンという特殊なエコーを使った検査で肝脂肪量および肝臓は進行すると硬くなる現象があるため肝硬度をチェックする検査も施行しており、診断の補助・治療効果の判定が可能です。

どう非アルコール性脂肪肝炎を防ぐのか

お酒の飲みすぎでなければ、何が脂肪肝炎の原因になるのか。これはメタボリックシンドドロームの原因と同じで、食生活を中心とした生活習慣の乱れやストレス、運動不足などが第一に挙げられます。
言うなれば肝臓が発するメタボのサインが非アルコール性脂肪肝炎というわけです。

こうした原因からおのずと非アルコール性脂肪肝炎の予防策は見えてきますが、それについては次回、治療方法と合わせて説明したいと思います。

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著者プロフィール

■黒田創(くろだ・そう)
フリーライター。2005年から雑誌『ターザン』に執筆。ほか野球系メディアや健康系ムックの執筆などにも携わる。フルマラソン完走5回。ベストタイムは4時間20分。

(取材協力/銀座しまだ内科クリニック 撮影/KenCoM編集部 取材・文/黒田創)