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2019.03.06

脳の老化を抑えるなら?脳トレVS速歩【ドクターズチョイス#3】

東京大学附属病院:稲島司先生

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人生100年時代が到来している昨今、身体の健康だけでなく、脳の働きの衰えに注目している人も多いかと思います。
ではどうやって脳の機能を維持したり、鍛えたりすればいいのでしょうか?
脳の鍛え方について、科学的根拠を元に健康的な生活を提案している東京大学附属病院の稲島司先生に聞きました。
意外な鍛え方に驚くかも!?

Q:脳を鍛えるならやっぱり脳トレ?

A:脳トレは意味がありません

一時期、脳の衰えを回復する方法として『脳トレ』が流行りましたが、実は2010年に科学誌『Nature』上で否定されています。
脳トレは解けば解くほど、脳トレを解くこと自体は上手くなっていくのですが、こと脳機能の維持や回復といった面で見ると、あまり効果がないと言わざるを得ません。
この実験では、脳トレとして、4項目のテストを行っています。ですが、いずれも脳トレ後には改善が見られなかったのです。

Reasoningとは、丸と四角が書いてあるイラストに対して、どっちがどちらかより大きいなどを判断するテスト。「丸は四角より大きくない」という文章とイラストを一致させる。

Reasoningとは、丸と四角が書いてあるイラストに対して、どっちがどちらかより大きいなどを判断するテスト。「丸は四角より大きくない」という文章とイラストを一致させる。

ちなみに作業記憶や視覚記憶といった記憶力はワーキングメモリと言われ、目的を果たすまでの間だけ覚えておかなければいけない一時的な記憶の働きのことです。このワーキングメモリは、高齢者において急速に低下することが知られており、これが脳機能の低下や認知症と関連するのではないかと言われています。

認知症に限れば『握力』『歩く速度』が鍵になる

一方、認知症の予測に役立つと言われているのは、『握力』と『歩く速度』です。それぞれ解説していきましょう。

まず握力ですが、2016年に国立長寿医療研究センターの研究チームらが発表した、認知症の8つの発症リスクの中にも「握力が男性で26kg未満、女性で18kg未満」は危険だとされている通り、認知機能低下の要因としてあげられています。
ちなみに、なぜ握力が下がると認知機能が低下するのかはっきりとした因果関係はわかっていません。ですが、大規模統計のデータとしてそのような結果が出ているということを重視したほうがいいでしょう。おそらく運動量の低下と握力が関わっていると思われますが、今後の研究が待たれます。

歩く速度は早いほどいい

歩く方は、より衝撃的です。
2014年に熊本大学文学部認知心理学教室が行なった研究結果が、ドイツの脳科学雑誌『Experimental Brain Research』のオンラインに発表されました。
これによると、認知症や下半身に運動障害のない健常高齢者を比較した際、速く歩いている人ほどワーキングメモリが優れているという結果になったのです。
しかも、同研究では、歩行スピードとワーキングメモリに強い相関関係が見られています。つまり、速く歩く力を維持し続ければ、認知症に関連するであろう認知機能の低下を抑制できる可能性があるのです。

脳トレするなら早歩きとグーパー運動で!

これら、握力や速歩きを改善したら認知症も改善するのかと言われると、そこまでの研究結果は出ていません。しかし、フィジカルアクティビティが多い人ほど認知症のリスクが下がることはわかっています。
リスクを避ける観点で考えると、脳トレよりも速歩きの継続や握力維持を図った方が効果は期待できるでしょう。

これからさらに詳しい試験などが行われて結果は変わるかもしれませんが、今わかっているいいことをやっておくのは大切ですよ。

■以前の記事はこちらからどうぞ!

参考文献

著者プロフィール

■稲島司(いなじま・つかさ)先生
東京大学医学部附属病院 地域医療連携部助教 医学博士
2003年東京医科大学医学部を卒業。2008年東京大学大学院医学系研究科を修了。循環器内科の専門診療のほか、外来診療を中心に生活習慣病の予防・改善に携わる。東京大学医学部附属病院では地域医療連携部の専任医師として地域医療機関や介護・福祉施設との連携を推進。論文を中心とした医学エビデンスを紹介しながらの説得力のある講演や著作は人気を博している。内科認定医。循環器専門医。認定産業医、認定健康スポーツ医。
著作に『世界の研究者が警鐘を鳴らす 「健康に良い」はウソだらけ 科学的根拠(エビデンス)が解き明かす真実』(新星出版社刊)、『血管を強くする歩き方: パワーハウス筋が健康を決める』(木津 直昭との共著・東洋経済新報社刊)などがある