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2019.04.12

その生理不順、もしかしたら病気かも? PCOSの症状や治療法とは【レミ先生の診察日記06】

ILACY

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月1連載「レミ先生の診察日記」。
第6回のテーマは「生理不順がきっかけで気づく病気」についてです。

「今月は生理が遅れているな...」と思ったときに、「仕事が忙しかったから」「ストレスが溜まっているのかも」なんて、自己判断をしていませんか?実はそれ、卵胞が十分に育たないことで排卵しにくくなっている「多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)」かもしれません。

今回は、生理不順がきっかけで多嚢胞性卵巣症候群(PCOS:polycystic ovarian syndrome)と診断された患者さんの症例をもとに、PCOSの症状やリスク、治療法について、浜松町ハマサイトクリニックの医師・吉形玲美先生に教えていただきました。

【Case6】多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)――それでも妊娠できる?

K・Kさん(31歳)の場合

【おもな状況ヒアリング】

■多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の治療でピルを服用中。でも、そろそろ妊娠したい

27歳のときに生理不順で受診。原因はPCOSによるものと診断されました。そのときは妊娠の予定がなかったため、ピルで定期的な月経が起こるよう調整することに。その後、子供を持つことを考えるようになったのを機に、改めて治療法を相談しました。

■妊娠できる治療法を知りたい

PCOSでも妊娠する方法を知りたいと思っています。

実は知らないうちになっていることが多い多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

――K・Kさんが初めて診療を受けにいらしたとき、どのような検査をされましたか?

生理不順とのことだったので、まずはホルモンの状態を調べるための血液検査と、子宮・卵巣の状態を診るための経膣エコー検査を行いました。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)というのは、卵巣の中に卵胞がたくさんできてしまい、排卵が起こりにくくなることをいいます。経膣エコーでPCOSの人の卵巣を見ると、通常は、排卵前であればこれから排卵する卵胞が目視できたり、排卵後であれば卵巣も小さくなって、卵胞がポツポツ見えたりする程度なのが、PCOSの方の場合は両側の卵巣の中に排卵と未排卵の中間くらいの卵胞が多く見られ、少なくとも片側で10個以上存在します。それが連なったように見えることから「ネックレスサイン」と呼ばれています。このほか、ホルモン検査による結果などからPCOSと診断されます。

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――多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)にかかりやすい年代というのはありますか?

比較的若い人に多い症状です。具体的には、初潮を迎えた10代から30代くらいまででしょうか。なぜなら、その世代は卵胞が多いから。加齢するとその数が減ってくるので、通常は自然に治っていきます。

――自覚症状はあるのでしょうか。

第一に挙げられるのは生理不順ですが、それ以外に不正出血がみられることも。痛みを感じることはありません。K・Kさんのように若い方の生理不順の相談で来院され、検査の結果、PCOSだったと判明するケースは非常に多いです。

――多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)によって排卵しにくくなるとのことですが、そのほかにどんなリスクが考えられますか?

日本では少ないのですが、男性ホルモンが過剰になってひげが濃くなる、声が低くなるといった、男性化徴候が見られるほか、糖尿病や高血圧などメタボリック症候群のリスクが高くなるともいわれています。

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妊娠を希望する場合は、ピルから『クロミッド療法』へ切り替えを

――多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断された場合、どういった治療になるのでしょうか。

K・Kさんは初診当時、今すぐの妊娠は考えていないとのことだったので、生理不順の一般的な治療法であるピルを処方しました。

ピルは前回の ピルからHRTによる治療へ でご説明したとおり、排卵を抑える効果があります。排卵はしないものの、定期的に子宮を刺激するので、生理のリズムを整えることができます。このほか、男性ホルモンが優位になった状態を正す効果もあります。

――その後、K・Kさんは妊娠を希望されて再び来院されています。妊娠を希望する場合と希望されない場合の治療法の違いは何でしょうか。

当然のことながら、ピルを飲み続けていると排卵をお休みさせているので妊娠しません。K・Kさんは妊娠を希望されたのを機に「クロミッド療法」に切り替えました。

クロミッド療法とは、排卵を起こして生理周期を整えるためのオーソドックスな方法。いわゆる排卵誘発剤ですが、個人的には「準排卵誘発剤」だと考えています。なぜなら、クロミッドは脳に働きかけるお薬で、そこから先は自分の力で排卵の指令を出すから。一方、体外受精をするときに用いる排卵誘発剤は、卵巣に直接働きかけるため、時に卵胞が過剰に発育してしまい卵巣がこぶしくらいに腫れたりすることもあります。それに比べるとクロミッドは体に優しく、日本では何十年も前から用いられているお薬なんですよ。

――『クロミッド療法』を行うことで妊娠しやすくなるのでしょうか。

そういえます。しかし、マイルドな治療なのでこれだけでは排卵が起きないケースもあり、その場合は、卵巣に直接働きかける排卵誘発剤を使用したり、稀ですが電気メスやレーザーで卵巣表面に穴を開ける外科的治療が行われます。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)による不妊を防ぐには早期の発見と治療がカギ

――多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)になる原因というのは何なのでしょうか。

実は、詳しい原因はまだ解明されていないのですが、生活習慣病でもないですし、ストレスや女性ホルモンの影響で悪化するものではないことはわかっています。

ただ婦人科の領域では、生理不順の原因として考えられるのは、急激なダイエットやストレスなどによるホルモンバランスの乱れかPCOSのどちらかといわれているくらい、若い女性にはよく認められる病態なんですよ。

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――気づかないまま放置してしまった場合に、考えられるリスクはありますか?

一番は不妊です。仮に毎月生理があったとしても、実は排卵しておらず、その原因がPCOSだったということもありえます。また生理不順や無排卵を放置すると子宮体がんのリスクになります。そのため、妊娠を考えている人は、排卵の有無を確認するためにも、ぜひ基礎体温をつけてほしいと思います。

そして、基礎体温の状態など少しでも気になることがあったら婦人科医に相談してください。生理不順をはじめとする婦人科系の症状は、放置していた期間が長ければ長いほど、元に戻るのに時間がかかります。特に、妊娠に影響することもあるので注意が必要です。早めに原因を発見し、治療することで改善するケースは多いので、妊活をはじめるタイミングで婦人科に行くこともおすすめします。

この記事を監修した人

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吉形 玲美 (よしかた れみ) 医師
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医 (医学博士)

臨床の現場で婦人科腫瘍手術をはじめ、産婦人科一般診療を手掛ける傍ら、女性医療・更年期医療の様々な臨床研究に携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、2010年より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科専門医として診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。更年期、妊活、生理不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。

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