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2019.01.09

「住宅税制」はなぜこうも複雑・難解なのか|増税に向け抜本的見直しを求める動きもある

東洋経済オンライン

住宅税制はとても複雑です(写真:筆者撮影)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/257680?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

住宅税制はとても複雑です(写真:筆者撮影)

住宅取得は庶民の暮らしの中で「最も高価な買い物」と言われる。だから、消費増税を前にした今のような時期には、「今が住宅の買い時か?」といった議論がにわかに盛り上がる。

だが、そんなタイミングであっても、「住宅税制はどうなっているのか」「それは本当に適正な制度なのか」などという、根本的な事項に疑問を持つ人は少ないように思う。結論から言うと、住宅税制はかなり複雑で、難解だ。消費税率10%時代(2019年10月~)を迎えるにあたり、抜本的な改革が必要だとする議論もある。

住宅税制の複雑さ・難解さを象徴的に表す事例が、最近の国税庁による発表の中に見られる。「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除等の適用誤りに関するお知らせ」(2018年12月11日)がそれだ。住宅借入金等特別控除とは住宅ローン減税のことである。

税金を控除しすぎていた

報道によると、2013~2016年の4年分の住宅ローン減税などで、税金を控除しすぎていた人が最大約1万4500人にのぼり、追加納税が必要になる可能性があるという。住宅ローン減税と贈与税の関連で申告ミスが多く、税務署も確認できていなかったそうだ。

贈与税にはさまざまな条件があり、その複雑さが今回の事態を招いたようだ。なお、この件については、振り込め詐欺などに悪用される可能性があり、国税庁では注意喚起をしている。

住宅を建築・購入した人なら経験があるだろうが、確定申告の際に書類を作成するためには、さまざまな要件を考慮する必要があり混乱しがちだ。だから、申告の時期(特に締め切りギリギリ)には申告会場や説明会場には疲弊気味の人たちであふれかえる。

全体像を理解するのには、高度な専門知識を有する会計士などの専門家でないと無理だろう。というか、プロ中のプロである、税務署関係者だって誤りを見落とすというレベルである。

さて、ここで住宅に係る税金の種類や負担軽減策としてどんなものがあるのか、簡単に確認しておこう。住宅を取得する際に係る代表的な税金としては消費税のほか印紙税、登録免許税、不動産取得税がある。住宅を保有し続ける中では固定資産税、都市計画税も課税される。

ちなみに、「今の月額家賃と同額のローン支払いで家を買えますよ」などという不動産広告があるが、これらの税金を計算に入れていないケースもあるので注意が必要だ。

住宅を売却する際にも、譲渡所得税などの税金がある。住宅については、取得から保有、売却に至るまでさまざまな課税が行われることを頭に入れておいていただきたい。

一方で、住宅取得の負担を軽減する制度は、2018年度では冒頭にあげた住宅ローン減税、贈与税の非課税措置のほか、「すまい給付金」「フラット35S」、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)など省エネ住宅への補助が用意されていた。この他にも、自治体による補助もある。

長期間住み続けられる質の高い住宅取得を中心に至れり尽くせりといった状況であるが、このことが住宅税制を複雑にしており、住宅取得者たる国民を混乱させている側面があるということを理解すべきだ。

ちなみに、近年は省エネ改修や長期優良リフォーム、若者の中古住宅購入時のエコリフォームなどへの補助金、「フラット35リノベ」の金利優遇制度など、リフォーム関連の優遇策も充実している。むしろ、新築よりリフォームのほうが手厚いくらいだ。

住宅ローン減税は13年に延長

今後はどうなるのだろうか。住宅に係る消費増税について改めて整理すると、従来の増税時に行われてきたことをベースにすれば、注文住宅の場合は「2019年3月末までの契約」、分譲住宅の場合は「2019年9月末までの引き渡し」であれば消費税は8%に据え置かれることになる。

注文住宅の場合、2019年3月末とされているのは契約から引き渡しまでに通常6カ月ほどかかるので、その分の時間を前倒ししているわけだ。分譲住宅の場合は、建物が完成していることが原則のため、同年9月末が期限となる。

政府は12月21日に「平成31(2019)年度税制改正大綱」を閣議決定した。その基本的な考え方の中で「自動車と住宅に対する税制上の支援策を講ずる」とし、負担軽減策を打ち出している。

住宅については2020年末までに契約し入居したものについては、住宅ローン減税の適用期間を13年(現行は10年)に延長。延長期間は建物価格の2%分を3等分した額と、借入金残高の1%分の金額を比べて少ない方の額が控除される。

このほか、「住宅エコポイント制度」の復活、「すまい給付金」の拡充などによる負担軽減策の導入が有力視されている。それらを含めると、消費増税後に住宅を取得する場合、つまり10%となっても8%適用時よりも住宅取得の負担が軽減される可能性が出てくる。

政府が消費増税時に住宅と自動車に負担軽減措置を導入するのは、雇用などの波及効果を含め、国内経済、内需への影響が大きいからだ。住宅業界の場合は、消費増税前の駆け込み需要と、その後の反動減で過去に大変な苦労をしてきた。それは新設住宅着工の推移を見ればわかる。

住宅業界の最上位団体である一社・住宅生産団体連合会(以下、住団連)では、2019年度の重点要望事項として、税制では住宅ローン減税の拡充(延長)、補助としてすまい給付金制度の拡充、住宅エコ・耐震ポイント制度の創設、フラット35Sの拡充 (金利引き下げ期間の延長)をなど要望していた。

自動車に係る税金と比較

2019年度の住宅税制の大枠はほぼこれらが通ったかたちだ。ただ、税制の複雑さ・難解さが解消されたとはいえず、物足りなさは残っているだろう。というのも、要望にあたり「国民から見てわかりやすい対策であること」を求めていたからだ。

同時に「対策が十分な期間、切れ目なく実施されること」も要望していた。住宅ローン減税の延長も、その適用期間が終了すれば住宅需要の減退はもちろんのこと、景気低迷につながりかねないとの懸念があるためだ。

一方、自動車については「自動車の保有に係る税負担を恒久的に引き下げる」とし、2019年10月以後に新車として新規登録を受ける自家用乗用車に対して適用する。引き下げは小型車ほど優遇される。エコカー減税についても適用期限が2年延長される。

なお、自動車(新車)に係る税金は自動車取得税、自動車重量税、自動車税があり、住宅と比べて比較的、単純な税体系だ。負担軽減策も同様でわかりやすい。

このような観点からすれば、同じく内需の柱と目されながらも、住宅より自動車のほうがやや抜本的な景気対策がなされたというイメージがあり、明暗が分かれたとするのはうがった見方だろうか。

住宅業界の本音は、欧米先進国で行われている住宅取得に係る消費税の非課税、あるいは軽減税率の適用の恒久的な形での実現にある。

軽減税率・非課税のいずれにしても、住宅に適用されれば今よりシンプルでわかりやすい税体系となり、消費者は安心して住宅取得ができ、結果的に内需の下支えができるという考えだ。軽減税率・非課税は、住宅業界関係者にとって「長年の悲願」だ。

それには切実な理由がある。「消費税が10%を超える場合、業界・企業として対応が難しい」(阿部俊則・住団連会長=積水ハウス会長)からだ。ご存じのように、住宅は数千万円単位の買い物。消費税がさらに増額されると、特に住宅のメイン需要層である20~40歳代の消費者が購入しづらくなるとの懸念からだ。

住宅に消費税一括課税は適さない

また、取得時に消費税を一括で課税されるのは30年以上の長期耐久消費財である住宅には適さないという指摘もある。前述したように、住宅は取得時から売却時まで課税されるものでもある。だから、「住宅税制の改革を」というわけだ。

ところで、このような話題について、「住宅を購入する計画がないから関心がない」などという方もいるだろう。しかし、住宅取得の機会、あるいは検討を始める契機というものは、ある日突然生まれるものである。

結婚や出産はもとより、親との同居や介護の必要性から、新築や建て替え、リフォーム、住み替えなど、住まいについて考えなくてはならない場面が唐突に訪れる。多くの場合、そのときに急かされるように検討をし、結果的に満足度の低い住宅を手にしてしまうことが往々にしてある。

住宅税制と負担軽減策が難しいのは、住宅を取得する一部の人たち、あるいはその機会がある恵まれた人のためのものと考えられがちなこと。「ぜいたくなものには課税すべき」という風潮さえないわけではない。あるいは「業界エゴ」との批判もあるかもしれない。

このような理由から、普段は多くの国民にとって疎遠になりがちな住宅と税の話題。しかし、住宅、中でも質の高い住宅が増えることは、災害への備えなどの面で貢献し、国土の強靱化につながる。

個人財である一方、社会財としての側面もあるのが住宅なのだ。消費税が10%に高まるという節目である2019年は、住宅税制のあり方について改めて議論するには少なくともいいタイミングではないか。

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田中 直輝:住生活ジャーナリスト

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