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2019.03.13

更年期世代の女性ホルモンとの付き合い方【レミ先生の診察日記05】

ILACY

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月1連載「レミ先生の診察日記」。
婦人科専門医である浜松町ハマサイトクリニックの医師・吉形玲美先生に女性のお悩みについて語ってもらいます。

第5回のテーマは「更年期世代の女性ホルモンとの付き合い方」。
生理不順や子宮内膜症、月経前症候群(PMS)の治療薬として注目を集めているピル。しかし、40歳を過ぎると処方してもらえない、いつまでピルを飲めばいいのかわからないといった声も多く聞かれます。
今回は、ピルの服用を止めた結果、ホットフラッシュなどの症状に悩まされるようになった患者さんの症例を基に、更年期におけるピルの効果や、ピルからHRT(ホルモン補充療法)への切り替えタイミングについて教えていただきました。

毎年10月18日は、更年期の健康にまつわる情報を世界に提供する日として定められた「世界メノポーズデー」です(メノポーズ=英語で「更年期」「閉経」のこと)。これを機に、今一度更年期や閉経に関する正しい情報を得て、人生の新たなフェーズを前向きに過ごしましょう。

【Case5】ピルからHRTによる治療へ

O・Mさん(49歳)の場合

【おもな状況ヒアリング】

■一般的な閉経時期を迎え、ピルからHRTへの切り替えを検討
40代前半のころに月経不順で診療を受けた際、ピルを処方されました。まもなく50歳を迎えるにあたってHRTへの切り替えを検討していたところ、処方されていたピルが切れてしまい、飲まないでいた時期に初めてホットフラッシュのような症状が出たので相談しました。

■更年期症状の改善に有効な方法を知りたい
ホットフラッシュの症状の改善および、HRTに切り替えるタイミングを知りたいと思っています。

更年期症状に有効なピルの効果

――O・Mさんが月経不順で初めて受診した際は、どのような検査・診断をされたのですか。

レミ先生:最初は月経不順ということだったので、まずはホルモンの状態を見るための血液検査、子宮・卵巣の状態を見るための経膣超音波(経膣エコー)検査を行いました。こういった方の場合は、理想をいえば基礎体温をつけていただいていると、とても助かるんです。特に「プレ更年期」で月経が乱れてきた方は、基礎体温表をつけていると体温の変化によって排卵のタイミングがわかるので、卵巣機能が保たれているか、また、生理がそろそろ来るかなども予測できるようになります。

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そもそもホルモンの分泌量は毎日変わるものなのですが、それは閉経に近付くにつれて変動が激しくなるんです。なので、40代に入って、まだ更年期ではないけど生理が不順になってきたという方は、基礎体温表をつけていただくだけでも状況の把握に役立ちます。O・Mさんの場合はプレ更年期世代でしたが、ホルモン検査から、まだ閉経はまだ先の状態でしたので、初診後ピルを服用していただくことにしました。

――生理不順に対して、ピルはどういった効果があるのでしょうか。

レミ先生:まず、ピルというのは、女性ホルモンの成分であるエストロゲンと黄体ホルモンの両方が含まれている薬で、排卵を抑える効果があります。それが女性の体に与える作用は2つあって、ひとつは卵巣から分泌しているホルモンの量を抑えること。これは、女性ホルモンの作用が強すぎるために生じる不具合、例えば排卵後の体の不調や子宮内膜症など、それらを改善できるという効果があります。

そして、もうひとつの作用は、ホルモン量を安定させることです。更年期障害治療の場合、ピルを使うかHRTにするかの判断が難しいと思いますが、ピルにするひとつの目安となるのが、まだ卵巣機能が正常に保たれており、ご自身の体から女性ホルモンがある程度出ている方。先ほど申し上げたとおり、プレ更年期以降はホルモン分泌量の波が激しいので、その波を穏やかに安定させることで症状が軽減されます。

ピル服用時の注意と自分に合ったピルの見つけ方

――女性特有の症状にピルは有効であることはわかりましたが、最近は40歳以上の方にはピルを処方しないケースも多いと聞きました。それはなぜでしょうか。

レミ先生:一番は、ピルに含まれるエストロゲンによって、血栓症のリスクが高くなるからですね。そのリスクは年齢に比例して増えていくので、40歳以上の方には処方しない医療機関が増えているのはそのためです。

とはいえ、血栓症のリスクが高くなるのは、一般的には飲み始めの数ヵ月なんです。そのため、例えば若いころからピルを飲み続けている人で、状態が安定しているようでしたら、40歳になったからといってすぐにピルをやめなくても大丈夫だと思います。

ただ、飲んだり飲まなかったりというのはおすすめしません。一度やめたけどやっぱり飲もうとなると、そこからまた数ヵ月は血栓症のリスクが高まってしまうんです。したがって、ピルはPMSや月経痛対策が一般的です。飲み始めたら医師と相談の上、継続して飲むのがいいでしょう。

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――ピルを飲んでいる間の診療パターンはどういった感じなのでしょうか。

レミ先生:通常は、初診で各種検査を行い、そこでピルを飲むことになったら、次は1ヵ月後に来院していただきます。そこで、検査結果とピルの服用状況を確認し、問題がなければその後はおよそ3ヵ月ごとに診察しています。3ヵ月ごとの診察では、症状が改善しているか、不正出血など気になる症状がないか、お薬が体に合っているかといったことを確認し、患者さんのお話を伺うのがメインですね。

――ピルを飲んで不正出血があったり、体に合わなかったりすることもあるのですか?

レミ先生:不正出血はホルモン剤の使い始めによく起こることなので、ピルの影響だと思っていいでしょう。ただ、一口にピルといっても、超低用量ピル、低用量ピル、中用量ピルと、さまざまな種類があります。また、含有されるエストロゲンと黄体ホルモンの組み合わせもピルによって異なるので、自分に合う薬を見つけることが大切。そういう意味では、患者さんに寄り添って、じっくり相談にのってくれる先生やクリニックを探すのが重要かもしれません。

自分に合ったピルが見つかると、排卵が抑えられることでPMSなどの体の不調も良くなりますし、ホルモンの波を穏やかにしてくれるので、プレ更年期に入って情緒が安定しないといった症状も抑えられる効果が期待できます。

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ピルからHRTへの切り替えは50歳を目安に

――O・Mさんの場合、50歳を迎えるのを機にHRTへ切り替えることを検討されていましたが、一般的にピルからHRTに切り替えるタイミングはどういった時期なのでしょうか。

レミ先生:閉経の平均年齢は51歳頃といわれていますが、ピルを飲んでいる人はそのあいだに閉経を迎えるケースもあります。そして、ピルを使っていた目的が生理不順やPMSだった場合、閉経に入るとそれらがすべて解決する方もいらっしゃるんです。そのため、長年ピルを飲んでいる方も、50歳頃を目処に一度休薬してもらい、閉経に入っているかを確認します。閉経を迎えていて、ピルを休薬したままでも不具合のない方はHRTを行う必要はありません。

ただ、O・Mさんの場合は、ピルを飲むのをやめたらホットフラッシュのような症状が出たということなので、改めて治療法を見直すことにしたんです。O・Mさんが必要な女性ホルモンの量は、ピルではなくHRT世代に入っていたので、そのタイミングで切り替えることにしました。

――O・MさんのようにHRTへの切り替えを検討しているという場合は、いつごろ相談に行けばいいのでしょうか。

レミ先生:50歳という年齢はひとつの目安になります。閉経を迎え、お薬がなくても更年期症状がなければそのままピルを卒業しておしまいですし、O・Mさんのようにホットフラッシュなどの症状が出る場合はHRTに移行するのが一般的です。HRTはピルに比べて女性ホルモンの含有量がぐっと減りますので、血栓症のリスクも下がりますから。とはいえ、個人差があるものなので、切り替えのタイミングはもちろん、薬の減らし方、やめ方、やめ時というのは、主治医の先生と相談しながら決めるようにしてください。

この記事を監修した人

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吉形 玲美 (よしかた れみ) 医師
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医 (医学博士)

臨床の現場で婦人科腫瘍手術をはじめ、産婦人科一般診療を手掛ける傍ら、女性医療・更年期医療の様々な臨床研究に携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、2010年より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科専門医として診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。更年期、妊活、生理不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。

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