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2018.12.31

「35歳からガムを噛め」と医師が勧める理由|認知症予防と歯周病の意外に深い関係

東洋経済オンライン

本気で脳の老化を防ぎたいなら、「8020」で満足せずに、もっと高いレベルを目指す必要があります(写真:Alexthq/iStock)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/256209?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

本気で脳の老化を防ぎたいなら、「8020」で満足せずに、もっと高いレベルを目指す必要があります(写真:Alexthq/iStock)

「80歳になっても、自分の歯を20本残そう」という「8020運動」も世間に浸透し、歯の健康が体の健康につながるということは広く認知されています。歯を失うことでリスクが高まる病気には「認知症」も含まれるということをご存じですか? そして、歯を失う原因の1位は、むし歯ではなく歯周病だということも。つまり歯周病を予防することが認知症予防にもつながるのです。脳の老化を止める歯のケアについて、認知症専門医の長谷川嘉哉氏が解説します。

歯周病で「脳のゴミ」が増える

歯周病がアルツハイマー型認知症を引き起こす――この事実は、さまざまな研究により判明し、近年では広く知られるようになってきました。

歯周病菌が出す毒素によって歯肉に炎症が起き、炎症物質「サイトカイン」が血液に運ばれて脳に流れ込むと、脳の中で「アミロイドβ」という"脳のゴミ"が増える。それがアルツハイマー型認知症の大きな原因だと言われています。

さらに、「脳のゴミ」がたまること以外にも、歯周病が脳に悪影響をもたらす理由がもう1つあります。それは、歯を失ってしまうということ。大人が歯を失う原因の第1位は、むし歯ではなく歯周病なのです。

認知症を予防するための、35歳からの歯のケア・ポイントを3つ説明すると

① 1日1回は、歯をみがく時間を15分にする
② 歯ブラシの毛先を歯と歯茎の境目に対して、斜め45度の角度で当てる
③ みがき残しを減らすため、途中で歯ブラシの持ち手を変えて両手でみがく

となります。毎日の歯みがきでできることなので、ぜひ意識してみてください。

「歯がない人はボケやすい」とは昔から言われていることですが、これは事実で、"口の中に残っている歯の数"と"認知症発症率"には関連があることがわかっています。

東北大大学院の研究グループが、70歳以上の高齢者を対象に行った調査によると、「脳が健康な人」の歯は平均14.9本でしたが、「認知症疑いあり」と診断された人はたったの9.4本でした。つまり、残っている歯が少ない人ほど、認知症になりやすいことが明らかになったのです。

また、名古屋大学大学院医学系研究科の上田実教授が行った調査によると、アルツハイマー型認知症の高齢者は、健康な高齢者に比べて、残っている歯の本数が平均して3分の1しかなかったと言います。また、歯がないにもかかわらず入れ歯などの補助的な歯を使用していない率が高く、健康な高齢者の半分ほどしかいなかったのです。

さらに、アルツハイマー型認知症の高齢者は、健康な高齢者より、20年も早く歯を失っていたことも明らかになりました。上田教授は、歯が早く失われ、しかも治療もせずに放置しておくと、アルツハイマー型認知症の発症リスクが健康な人の3倍になると結論づけています。

加えて、この研究では、すでにアルツハイマー型認知症を発症している高齢者に関して、失った歯の本数が多い人ほど脳の萎縮度が高いという画像診断結果が出ました。つまり、歯がないとアルツハイマー型認知症を発症しやすいだけでなく、進行しやすいことも明らかになったのです。

事実、私が運営する認知症クリニックの患者さんを見ても、25%は歯が1本もない総入れ歯です。そして、そうした方の多くが、50~60代という早い時期にすべての歯を失っていました。

ひとかみで3.5㎖の血流が脳に送り込まれる

ではなぜ、歯がないことが認知症につながるのでしょうか。

実は、歯でものをかむと、ひとかみごとに脳に大量の血液が送り込まれます。歯の下には「歯根膜(しこんまく)」というクッションのような器官があって、歯はそこにめり込むようにして立っています。かむときは、歯がこのクッションに約30ミクロン沈み込みます。そのほんのわずかな圧力で、歯根膜にある血管が圧縮されて、ポンプのように血液を脳に送り込むのです。その量は、ひとかみで3.5㎖。

市販のお弁当についている、魚の形のしょうゆ入れ、あの小さい容器がだいたい3~3.5㎖サイズなので、かむということは、そのたびに、あの容器一杯の血液をピュッと脳に送り込んでいることになります。ひとかみでこの量ですから、よくかむ人の脳にはひっきりなしに血液が送り込まれて、その間、脳に刺激を受け続けていることになります。つまり、かめばかむほど脳が活性化されて元気になり、どんどん若返るのです。

ところが、歯の本数が少なくなればなるほど、歯根膜のクッションにかかる圧力が減って、脳に送り込まれる血液の量が少なくなります。脳への刺激が減って、脳機能の低下につながるわけです。脳機能の低下は、ヤル気の喪失や、もの忘れを引き起こし、やがては認知症へとつながっていきます。

多くの方は「8020運動」という言葉をご存じでしょう。これは、「80歳になっても、自分の歯を20本残そう」と、厚生労働省と日本歯科医師会が、1989年から始めた運動です。

認知症専門医である私から見ても、この運動は成果も出ており、すばらしいと思います。ただ、個人的な感想を言わせていただくと、これでもまだ足りないという印象です。

大人の歯は、親知らずを除いて全部で28本が基本ですから、20本ということは、すでに8本の歯が失われているわけです。

たとえば、あなたの上の前歯が4本、下の前歯が4本なくなっているところをイメージしてみてください。これって「うわぁ、かなりごっそり抜けてるなぁ」という感じではないでしょうか。こんな状態で食事をしても、ものをかんでも、脳にちっとも血流が回らなそうな気がしませんか?

ですから、本気で脳の老化を防ぎたいなら、そして、全身疾患を予防したいなら、「8020」で満足せずに、もっと高いレベルを目指す必要があります。

つまり、「80歳で28本、すべての歯を残す!」という気持ちで、日々の歯のケアを行うべきなのです。

歯周病の発症率が増えていくのは"35歳前後"

そうなると、歯を失わせる原因1位である歯周病の予防が必須となります。歯周病は、日本人の大人のほとんどがかかっている、いわば国民病です。その発症率は35歳前後から上がっていき、40代になる頃には、なんと8割もの人が進行に差はありますが歯周病を発症します。

実は、若い人の口の中にも歯周病菌はたくさんいるのです。それなのに、35歳前後から発症率が増えていくのは、この頃から加齢により免疫力が低下するせいだとする説があります。若い頃は歯周病菌で歯茎に軽い炎症が起こってもたちまち治っていたのに、免疫力が落ちたせいで修復のスピードが追いつかず、歯周病が進行するというわけです。

歯周病は、風邪などと違って自然治癒しませんから、脳の老化を防ぎ、イキイキとした脳の状態を保ちたいなら、35歳からは、それ以前とは意識を変えて、歯のケアをさらに入念にしなければいけません。

今回はいつでもどこでもかむことができる「ガム」をお勧めしたいと思います。

ガムをかむことで、血液を脳に送り込むことができます。これにより、脳を刺激するとともに、冒頭でお話しした‟脳のゴミ“と呼ばれアルツハイマー型認知症の原因となる「アミロイドβ」を押し流すこともできるのです。

よく、スポーツ選手が試合中にガムをかんでいる姿を目にするように、かむことが脳を活性化し集中力を高めることはよく知られています。

また、かむことは、安定した姿勢を保つことにも一役買います。私たちの体は、姿勢のバランスが崩れたときに、無意識に「抗重力筋」と呼ばれる筋肉を働かせてバランスを保ちますが、この「抗重力筋」の1つが、「かむ」ときに使う「咀嚼筋」です。つまり、ふらつかずにいつまでもしっかりと立っているためには、咀嚼筋を鍛えることが欠かせないのです。
ほかにも、「かむ」ことによる効果は、がんや生活習慣病の予防や免疫力アップ、口臭予防、幸せホルモン「セロトニン」の分泌などさまざまなものがあると言われています。


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現代社会では、食事の際に行う咀嚼だけではかむ回数が不十分なので、食事と食事の間にこまめにガムをかむことで、足りない分の咀嚼回数を補っていきましょう。

ガムのかみ方の目安としては、1日3回。1回につき5分以上はかんでください。唾液による歯の再石灰化効果を高めるために、1粒ずつ、毎食後にかむとよいでしょう。あるいは、就寝前にかむのも効果的です。就寝中は唾液の分泌が減ります。唾液パワーで口腔内細菌が減らせるので、このタイミングでかんでおくと、朝の起床時の口臭を減らすことができます。ただし、ガムをかむことでプラーク(歯垢)を落とすことはできないので、ガムだけに頼らず、歯みがきをしっかりすることが重要です。

ガムをかむときは、口の中でかむ位置を変えて、左右交互にかむようにしましょう。

選ぶべきガムと選んではいけないガム

ガムを選ぶ際は、次の成分が含まれているものがお勧めです。これらのガムにはむし歯予防を助ける働きがあります。

① キシリトール

白樺や樫の木などを原料としてつくられる天然素材の甘味料。むし歯予防にはキシリトール含有率が90%以上の歯科医専用のキシリトールガムが効果的です。

② リカルデント(CPP-ACP)

牛乳の蛋白質からつくられています。歯のエナメル質の再石灰化を助けます。

③ ポスカム(POs-Ca/リン酸化オリゴ糖カルシウム)

ジャガイモを原料とするオリゴ糖でつくられています。

④ L.ロイテリ菌

人由来の乳酸菌。むし歯や歯周病の原因菌を減らす効果があるとされています。

一方で、お勧めしないのは、次のようなガムです。

× 糖類を含むもの

糖類ゼロgのものを選びましょう。甘味料としては、キシリトール、ソルビトール、マルチトールなどがお勧めです。

× 酸性物を含むもの

クエン酸や果汁入りなどの、それ自体が酸性のものは避けましょう。酸性度にもよりますが、歯のエナメル質が溶け出す可能性があります。

認知症が進行している方や、ものを飲み込む嚥下機能が低下している方の場合は、ガムをのどに詰まらせてしまう危険性があるのでお勧めができませんが、若いうちからガムをかむことで、将来の認知症の予防が期待できます。

前述したように歯周病の発症率が増えていくのは35歳前後。「まだまだ先の話だから」と油断せず、こまめにガムをかんで認知症リスクから脳をしっかりと守りましょう。

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長谷川 嘉哉:脳神経内科、認知症の専門医

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