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2019.01.09

40代以降に意外と多い「子宮頸がん」とは?【レミ先生の診察日記03】

ILACY

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月1連載「レミ先生の診察日記」。婦人科専門医である浜松町ハマサイトクリニックの医師・吉形玲美先生に女性のお悩みについて語ってもらいます。
第3回のテーマは「40代以降が気をつけたい子宮頸がん」についてです。

女性特有のがんのうち、乳がんに次いで罹患率が高い子宮頸がん(2013年、国立がん研究センター調べ)。最近では20~30代での発症が増えていることから、「比較的若い女性に多いがん」という印象を持っている人が多いのではないでしょうか。

しかし、実際には何歳でもなりうる病気で、40歳以降も好発年齢に含まれます。今回は、40代になってから子宮頸がんのリスクを指摘された人の症例を基に、子宮頸がんの経過や検査方法について、浜松町ハマサイトクリニックの医師・吉形玲美先生に教えていただきました。

【Case3】子宮頸がん――実は40代以降に意外と多い女性特有の病気

K・Nさん(43歳)の場合

【おもな状況ヒアリング】

■子宮頸がん検診にて、LSIL(エルシル:軽度異形成程度の病変※)が認められたために受診

※異形成とは、HPV(ヒトパピローマウイルス:皮膚や粘膜に感染するウイルス)感染によって異常化した子宮頸部の細胞のこと。軽度異形成は、その異常が軽い状態を指す。

■精密検査を希望

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「前がんの入り口」で見つかれば安心

――K・Nさんは検診で「LSIL」という結果が出たため、受診されたのですね。

レミ先生:子宮頸がんは、「異形成」という段階を経てがん化します。K・Nさんの「LSIL」は異形成(前がん状態)の初期にあたり、「細胞をとって診た限りでは、前がん状態の入り口程度の変化がありますよ」ということを意味しています。

通常、細胞診で行う検診では、わずかでも異常が認められれば精密検査の対象になります。「要精密検査」と言われると不安になるかもしれませんが、LSILは「ここで見つかれば安心」という段階です。

――精密検査はどのように行われるのでしょう。

レミ先生:まず初めに、患者さんが何らかの異常を指摘された子宮頸がん検診と同じ細胞診を行います。違う医師の手で検査をすることで、見落としや判断の誤りをなくし、より正確な結果に近付くことができるからです。

次に、「コルポスコープ」と呼ばれる膣拡大鏡で膣頸部を観察し、薬剤をつけて加工します。病変は白く浮き上がり、その部分から組織を切りとって病理検査で詳しく調べます。

コルポスコープで見てもまったく反応がなければ細胞診のみにとどめたり、細胞診に加えて子宮頸がんの原因となるHPVウイルスの有無を調べたりといったバリエーションはありますが、病理検査まで行い、細胞診と組織診のダブルチェックを行うのが基本ですね。

この方は、再検査でも検診時と細胞診の結果が変わらず、病理検査の組織診では炎症しか認められなかったので、3ヵ月後に同様の検査でフォローすることになりました。

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HPV感染とがんが直結するわけではない

――精密検査でもLSILであれば、定期的な経過観察でいいのですね。

レミ先生:K・Nさんのように、細胞診の再検査と病理検査を行っても大きな異常が見られなければ、数年は子宮頸がんにならないと思っていいでしょう。

初期段階の異常が見られるということは、発がん性HPVに感染しているということなのですが、HPVは性交経験がある女性の多くが、一生に一度は感染するものです。

それに、HPVのほとんどは自己免疫力で消失してしまうので、感染したからといって必ずしもがんになるわけではありません。LSILの状態ではおよそ9割程度は自然治癒するため、経過観察はHPVが消失せずがんに進行していく可能性がある、残り1割程度に備えて行うものです。

――K・Nさんは、どのような経過をたどられたのでしょう。

レミ先生:K・Nさんには、今回の再検査とは別に今後のHPV感染予防のため、子宮頸がんワクチンについて説明し、接種しています。子宮頸がんワクチンは、発がん性HPVの中でも特にリスクが高い型に対して効果があり、接種すると全体のおよそ7割をカバーできるといわれています。

予防の意味では、初めて性交渉をする前に接種するとさらに予防効果が高く、望ましいのですが、すでに感染している人も接種することで再感染しにくくなるので、必ずご説明するようにしています。ただし、現在すでに変化が出ている病変を消滅させるものではないので、ワクチンを接種しても定期検査は必要です。

K・Nさんは、再検査以降、細胞診には変化がなかったのですが、4回目の病理検査の結果が「CIN1(シーアイエヌワン:軽度異形成)」に変わりました。その後、5回目の検査で細胞診が「HSIL(ハイシル:中等度~高度異形成相当)」になり、病理検査でも中等度異形成にあたる「CIN2(中等度異形成)」が出たので、高次医療機関にご紹介しています。

――細胞診、病理、HPV、すべての検査を総合して判断されるわけですね。

レミ先生:細胞診と病理検査、双方の判定に不一致がある場合は、悪い結果をその人の状態として判定します。また、よりリスクの高いHPVに感染している場合は、同じ判定でも慎重に経過をみていきます。K・Nさんのように、CIN2でも病理検査の結果が進行している場合、いずれ子宮頸がんに進行する可能性も否定できないと判断して、高次医療機関への受診をおすすめしています。

治療対象はCIN3(高度異形成)からとなり、その治療法としては、レーザーで焼くか、病巣を円錐形に切除する円錐切除が多いでしょう。

<ベセスダシステムに基づく細胞診の分類>一部抜粋

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初期は自覚症状がない子宮頸がん。検診は欠かさず受けて

――検診で精密検査を促されても、未受診の人もいるそうですね。

レミ先生:検査をしてLSILが出て、経過観察で構わないとご説明しても、「がんではないか」という不安がぬぐえない方もいれば、LSILより強い病変が出ても「毎回同じような結果が出ているし、大丈夫だろう」という方もいます。

同じ子宮にできるがんでも、子宮内部に生じる子宮体がんは初期でも出血が見られるのに対し、子宮頸がんの初期は何のサインもありません。自覚症状がないので、検診で異常が見つかっても「まあいいか」と思ってしまうのかもしれませんね。

ただ、子宮頸がんは、ずっと持っていたHPVが少しずつ進行してがん化していくわけですが、一度がん化すると進行がとても早いという特徴があります。前がん状態から0期(初期がん)くらいまではゆっくりですから、そのあいだに見つけることが非常に大切なんですよ。

――やはり重要なのは定期的な検診でしょうか。

レミ先生:そうですね。特に40代の場合、それまでずっと未受診で、妊娠や結婚を機に受診したときにはかなり進行していた、というケースもあります。子宮頸がんは子宮の入り口にできるので、検査さえきちんとしていれば非常に見つけやすいがんです。内診で子宮や卵巣に異常が見つかることもありますから、少なくとも自治体の検診は必ず受けていただきたいですね。

また、発がん性HPV感染の有無を知っておくことも有効です。HPVが陽性だとわかっていれば、細胞診が偽陰性(本当は陽性にもかかわらず、何かの原因で陰性と診断されてしまうこと)と判定されても、異常を見逃す確率が低くなるからです。

アメリカでは、発がん性HPVの感染がなければ数年は検診を受けなくてもいいといわれているくらいなんですよ。日本は子宮頸がん検診の際、HPV検査が必須ではないので、健康診断のオプションに付けたり、婦人科で検査を受ける際にリクエストしてもいいでしょう。

この記事を監修した人

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吉形 玲美 (よしかた れみ) 医師
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医 (医学博士)

臨床の現場で婦人科腫瘍手術をはじめ、産婦人科一般診療を手掛ける傍ら、女性医療・更年期医療の様々な臨床研究に携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、2010年より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科専門医として診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。更年期、妊活、生理不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。

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