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2018.11.07

肺炎球菌の感染経路と手洗いの重要性について【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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乳児や高齢者が感染すると重症化する可能性のある肺炎球菌。定期接種の対象者ならぜひワクチンを接種しておきたいですが、手洗いに気をつけるだけでも予防効果が高まるのだそうです。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

本日ご紹介するのは、2018年のEur Respir J誌に掲載された、肺炎球菌という細菌の感染経路を検証した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

肺炎球菌は重い感染症の原因にもなる細菌

肺炎球菌は、急性中耳炎や副鼻腔炎、肺炎や髄膜炎などの原因となる細菌で、特に小さなお子さんや高齢者では、そうした感染症が重症化して命に関わることは稀ではありません。
そのために感染やその重症化を予防するためのワクチンが、小さなお子さんや高齢者の感染予防のために使用されています。

この肺炎球菌は鼻腔に感染して、そこでまず増殖し、それが身体の免疫状態の低下やウイルス感染などに伴って、肺炎や髄膜炎などより重症の感染症の原因となります。
5歳未満の年齢では40から90%に鼻腔の感染が存在し、大人でも10%程度では鼻腔に、肺炎球菌が検出されると報告されています。

それでは、肺炎球菌はどのようにして、鼻腔に侵入して感染するのでしょうか?

肺炎球菌はどのように感染するかを検証

濡れた手では感染が広がるが、乾いた手では感染しない結果に

今回の研究では健常なボランティア63名を対象として、肺炎球菌の集団(コロニー)を、濡れた手に接触させ、その手の臭いを嗅いだ場合と、その手で鼻をほじったりした場合、更に1、2分経って手が乾燥してから、同様の行為をした場合の4種類で、その後9日間経過した時点での、鼻腔の肺炎球菌のコロニー形成の有無を比較検証しています。

鼻腔への肺炎球菌の保菌の有無は事前に確認し、保菌していない対象者に限って実験を行っています。

勿論毒性の強い菌は使用されていませんが、あまり進んでやる気は起こらない、日本ではほぼ不可能なタイプの実験です。

その結果、濡れた指で鼻をほじった場合には、40%という高率で感染が成立し、濡れた手の臭いを嗅んだ場合にも、30%で感染が成立しましたが、手を乾燥させた場合には、感染は殆ど起こりませんでした。

手洗いの後は、しっかり手を乾燥させることが大切

このように、濡れた状態の手が汚染されると、それが鼻に近づくだけでも高率に感染が起こることが、人間の実験で確認されています。
不潔な手は良く洗ってすぐに乾燥させることで、肺炎球菌の感染は多くの場合に予防が可能であるようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36