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2018.10.13

介護とは、実家とわが家の「外交問題」である|「うまくやってよ」ではなく戦略を考えよ

東洋経済オンライン

「うまくやってよ」の「うまくの限度」は、お嫁さんが抱えるいちばんの問題です(撮影:風間仁一郎)

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「うまくやってよ」の「うまくの限度」は、お嫁さんが抱えるいちばんの問題です(撮影:風間仁一郎)

義父の介護体験に基づいた小説『私が誰かわかりますか』を発表した作家・谷川直子さん。小説では、地方の村社会に面食らう桃子、義理の両親に家政婦同然に扱われる静子、仕事と育児と介護の三重苦の瞳など、介護に翻弄される「長男の嫁」を緩やかな関係性でつなげながらショーケース的に紹介した。

今回は、前回記事(あなたの妻が対峙する「世間体」の意外な正体)で出てきた「介護は1日を組織化する作業で、高度なマネジメント」という著者の発言に着目し、「実家ではない家の介護をマネジメント」する方法を考える。

介護はされる側の人生の集大成

――小説では、介護にそれぞれ違ったかかわり方をする「長男の嫁」がたくさん出てきました。どの家をとっても、同じ介護は1つとてありません。自分の実家ではない家の介護をするにあたって、いちばん初めに考えなくてはいけないことを教えてください。

介護は、お世話をされる人間の生き様や考え方に大きく影響されます。私の義理の父は事故で片足を切断しているのですが、義足で人並みの仕事をしていました。義父が頑張り屋であることを皆は知っているので、最期まできちんと見届けようという気持ちは1つだったんですね。もし義父が人をあごで使うような人だったら、面倒を見る気になったかどうか。介護される段階で、その人の集約された人生があらわになります。

介護をする際、取るべき選択肢は3つあります。介護のプロに任せるのが1つ。2つ目は、旦那さんがお嫁さんに任せる。3つ目は、旦那さんが自分でする。でもケアをされる親がいちばん何を望んでいたかがわかるのは、結局のところ、実の子なんですよ。これは嫁の立場ではわからない。

娘さんがバリバリ働くことを誇りに思っているお母さんなら、娘が仕事をやめて介護をするのは、お母さんにとってストレスですよね。「お母さん、来られるときしか来られないけど、一生懸命働いているから安心して」と娘さんが言ってあげることが、もしかすると介護に匹敵することかもしれない。「いざとなったらウチの子がいるから」と思うお父さんなら、やっぱり息子に看てもらいたいかもしれない。そこは他人ではわからない。介護は人と人とが向き合う作業なので、実子が親について深く考えることが介護における第一歩なのかなと思いますね。

谷川直子(たにがわ なおこ)/1960年兵庫県生まれ。2012年『おしかくさま』で第49回文藝賞を受賞。ほかに小説『断貧サロン』『四月は少しつめたくて』『世界一ありふれた答え』、高橋直子名義で、エッセイ『競馬の国のアリス』『お洋服はうれしい』などがある。本作は著者が小説で初めて三人称で描いた作品である(撮影:風間仁一郎)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/240946?page=2

谷川直子(たにがわ なおこ)/1960年兵庫県生まれ。2012年『おしかくさま』で第49回文藝賞を受賞。ほかに小説『断貧サロン』『四月は少しつめたくて』『世界一ありふれた答え』、高橋直子名義で、エッセイ『競馬の国のアリス』『お洋服はうれしい』などがある。本作は著者が小説で初めて三人称で描いた作品である(撮影:風間仁一郎)

――最近は「終活」をテーマにしたテレビ番組も多いです。実の子が親について深く考える前に、身内の誰かが「そういえばお父さん、最期はこんなふうに死にたいって言っていたわ」と言い出したら、どうしますか?

この問題は必ず出てくると思うんですよ。「身体に管をつけてまでも生き延びたいと思っていないから」と。でもその言葉を、何歳の時にどんな感情で言ったかはわからないじゃないですか。75歳の時に、85歳まであと10年生きたいと思った感情と、50代でテレビを観てボソッと言った思いは違いますよね。

もし義理のお母さんがそのように言っていたとしたら、嫁の立場ならなかなか逆らえないと思います。本当のところはどうなんだという意思確認は、すごく難しい。「自分の死に方を決めたい人は、文章化しておきなさい」とよく言いますが、実際本人の希望は刻々と変わっていくでしょう。なぜかというと、救える病の範囲がどんどん広がっていきますし、認知症でさえも治るかもしれない世の中になっているから。そうなってくると、やはり実の子の判断が重要なのかもしれません。

夫婦で認識を統一し、目標を定めること

――いよいよ介護に夫婦で向き合うことになったとき、旦那さんが実家のほうを向いているのか、妻である自分に向いているのかで態度が大きく変わると思います。お嫁さんは気になりますね。

子どもが親の介護に無償で尽くすのは、両親によくしてもらった恩義があるからですよね。私の嫁いだ家もそうでした。でも人には寿命があるので、介護はいずれ死につながります。そのとき、打算的な話にはなるのですが、自分たちは実家から何を欲しいかという問題が出てくると思います。

義理のお父さんが亡くなった後、旦那さんが実家の土地を欲しいと思っている場合は、妻に「介護の間は我慢してくれ」と言わざるをえない。土地をいただくには礼を尽くさねばならないと夫が思っているのだとしたら、それを嫁がきちんと理解しているかどうかも大事ですね。

――何が欲しいのかを今すぐ話し合ったほうがいいのですね。

介護は始まってしまったら、もう休む暇がありません。ですので、介護に突入する前に、今すぐ夫婦で話し合ってほしいです。結婚した当初は、愛に基づいて生活をしているので、実家の土地をどうするかという問題まで考えていませんよね。

義理の両親の具合が急に悪くなることもあります。すると兄弟同士で、相続の中で介護がどれほどの割合を占めるのかというようなリアルな話もしなくてはいけません。介護を相続の俎上に載せるのなら、夫婦間で意思確認をするべきですよね。お嫁さんが介護をしているのであれば、その心意気を旦那さんに知ってもらいたい。旦那さんも実家の相続の心づもりがあるのなら、奥さんに一言伝えてもらいたいと思います。

――もし、旦那さんが実家から何も欲しくない場合は、どうでしょう?

介護のすべてが相続と直結するわけではないのですが、実家に礼を尽くさないとまずい状態でなければ、妻のほうを向いて「嫌なことはやらなくていいよ」と言えるはずです。

今、女性が介護する例ばかりを挙げてしまいましたが、男性が介護に回ることもあらかじめ想定して話し合ってほしい。旦那さんの取る立場次第で、介護にどう取り組むか、夫婦で出す答えがまったく異なってきますね。

いざ介護が始まってから、夫に問題を押し付けられたら

――基本的に介護は、最初の段階から夫婦でかかわるのが望ましいということがわかりました。しかしお嫁さんが介護を担当していて、何か現場で問題が持ち上がったとします。

それを旦那さんに相談したところ、非協力的な態度で「実家、親戚とうまくやってよ」と言われたとしたら、お嫁さんはどうしたらよいでしょうか。

「うまくやってよ」の「うまくの限度」は、お嫁さんが抱えるいちばんの問題ですよね。昔、さだまさしさんの「関白宣言」の歌詞の中に、「姑小姑かしこくこなせ たやすいはずだ愛すればいい」というのがありました。旦那さんが「自分の親兄弟なんだから好きになってくれ」と思っていたとしたら……私はムリですねえ。


『私が誰かわかりますか』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします) 

――ムリですか(笑)。

女の人は家の台所を守っている同士だと、絶対に仲良くなれません。皆、一国一城の主なんですよ。だから、男性は国と国との外交だと思ってください(笑)。

外交は同盟を結ばなければ成立しませんよね。同盟をどの程度で締結するのか。戦争をしない範囲でとどめるのか、それとも仲良くやり取りするところまで踏み込むのか。介護を一緒にやる範囲まで踏み込むのか。

やっぱり実家や親戚との同盟の条件は男の人が参加して、話し合いで決めてもらわないと。外交って、そういうものじゃないでしょうか(笑)。

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横山 由希路:フリーランスライター・編集者

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