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2018.08.01

人は太るとどうして病気になってしまうのか|内臓脂肪の炎症反応と「異所性脂肪」の存在

東洋経済オンライン

「どうしたら痩せられるか」に興味を持つ人も多くいます(写真:fine / PIXTA)

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「どうしたら痩せられるか」に興味を持つ人も多くいます(写真:fine / PIXTA)

「太るのはイヤ」と思っている人は多い。なかなか痩せられないと実感している人も多いでしょう。基礎生物学の研究者である新谷隆史氏の著書『一度太るとなぜ痩せにくい? 食欲と肥満の科学』の中から、一部抜粋の上で肥満で病気になる理由を解説します。

内臓脂肪はより「悪玉」

最近の健康診断では腹部周囲の長さ(ウエスト周囲長)を測るようになったことをご存じの方も多いと思います。

健康診断では、へそのところの腹囲を測定し、男性では85センチメートル以上が、女性では90センチメートル以上が要注意とされています。この腹囲の測定は、「内臓脂肪量」を推定するために行われています。

ここで、なぜ最近になって内臓脂肪量を問題にするようになったかをお話ししましょう。

以前の肥満研究においては、体内の脂肪蓄積量、あるいは体全体の脂肪蓄積率が重視されていました。しかし、研究が進むにしたがって、たとえば相撲取りのように脂肪蓄積量が多くても、糖尿病や高血圧、高脂血症(脂質異常症)を起こさない人がいる一方で、脂肪蓄積量が多くないのにもかかわらず、それらの疾患にかかる人が多くいることが分かってきました。

その結果、脂肪組織には質的な違いがあって、それが単なる脂肪蓄積量よりも重要ではないかと考えられるようになったのです。

この脂肪組織の質の違いを明らかにする上では、1980年頃に普及し始めた「X線CT装置」が大きな役割を果たしました。X線CT装置によって人体の断面像が得られるため、皮下脂肪と内臓脂肪を分けて計測することが可能になったのです。

その結果、肥満には皮下脂肪がたくさんつく「皮下脂肪型肥満」と、内臓脂肪がたくさんつく「内臓脂肪型肥満」の2つのパターンがあることが分かりました。相撲取りは皮下脂肪型肥満の典型例です。

さらに研究が進むにつれ、皮下脂肪型肥満に比べて内臓脂肪型肥満では、糖尿病や高血圧、高脂血症(脂質異常症)などの発症リスクが著しく高くなることが明らかになりました。すなわち、皮下脂肪よりも内臓脂肪は「より悪玉」の脂肪であることが分かったのです。

しかし、X線CT装置を用いた検査はかなり大がかりになるため、通常の健診で使用するのには問題があります。そこで、内臓脂肪量を簡便に知るための調査方法が検討されました。

その結果、腹囲長が内臓脂肪量と相関性が高いことが分かったのです。また、メタボリックシンドロームは、男性で85センチメートル以上、女性で90センチメートル以上の腹囲を持つと起こりやすくなるため、これらを基準値として使用することになりました。

一般的に、尻や太ももに脂肪がつく皮下脂肪型肥満は女性に多く、一方、腹部がはち切れるように脂肪がつく内臓脂肪型肥満は男性に多く見られます。これは、女性ホルモンの働きにより、女性では内臓脂肪よりも皮下脂肪に中性脂肪をためやすいからです。このため、女性の腹囲長の基準値は、皮下脂肪が多い分だけ男性よりも大きくなっています。

1990年代の中ごろになって、脂肪細胞が多数のホルモンを分泌していることが分かってきました。現在では、十種類以上のホルモンが脂肪細胞から分泌されることが分かっています。体の中で脂肪組織が占める容積は大きく、また、多くの種類のホルモンを分泌することから、脂肪組織は体内で最大のホルモン分泌器官と考えられています。

専門的には、脂肪細胞が分泌するホルモンを「アディポカイン」、もしくは「アディポサイトカイン」と総称しています。血流に乗って運ばれたアディポカインは、体の中のさまざまな組織や器官に働いて、体全体の代謝や食欲などを調節する役割を果たしています。

ところで、皮下脂肪と異なり、内臓脂肪は増えやすく減りやすいことが知られています。つまり、内臓脂肪は運動や減量などでエネルギーが不足すると速やかに減少するものの、摂取エネルギーが過剰になると増加しやすいのです。内臓脂肪は中性脂肪を合成する能力と分解する能力の両方が高いことが分かっており、これが内臓脂肪の増えやすさと減りやすさに関係していると考えられています。

内臓脂肪が放出するアディポカインの種類や量は、脂肪の蓄積量に応じて大きく変化します。比較的脂肪の量が少ない時には、主に「善玉」のアディポカインが分泌されています。これらの善玉ホルモンは、さまざまな臓器の働きを良好に保つ上でとても大切な役割を果たしていると考えられています。

一方、肥満状態では内臓脂肪細胞の性質が変化して、健康な時に分泌していた善玉ホルモンとは異なる「悪玉」のアディポカインをたくさん分泌するようになります。そして、これらの悪玉ホルモンが体のさまざまな細胞に悪影響を及ぼすことが、糖尿病や高血圧、高脂血症(脂質異常症)の原因となるのです。

内臓脂肪の炎症反応

内臓脂肪を悪玉化させているのが「炎症反応」です。つまり、中性脂肪をたっぷりと蓄積した内臓脂肪では炎症反応が起こり、これが脂肪細胞を悪玉化させているのです。

一部の免疫細胞は体内に侵入した細菌などを見つけると活発化し、それらを排除します。これが炎症反応です。これらの免疫細胞は細菌の表面の脂質成分を感知して活発化します。

一方、肥満状態では内臓脂肪がたくさんの中性脂肪をたくわえているので、脂肪酸が細胞の外に漏れ出しやすくなっています。免疫細胞は、この漏れ出した脂肪酸(特に飽和脂肪酸)を細菌と間違えてしまうことで活発化するのではないかと考えられています。

この結果、内臓脂肪で炎症反応が起こるのです。

炎症反応が起こると脂肪細胞の性質が変わり、脂肪細胞自身も炎症反応を促進するアディポカインを分泌するようになります。

その結果、炎症反応がどんどんと進んでしまう悪循環が生じて炎症反応は慢性化してしまうのです。つまり、肥満状態というのは、内臓脂肪において慢性的な炎症反応が続いている状態といえます。そして、この炎症反応によって脂肪細胞は悪玉のアディポカインを分泌し続けます。

異所性脂肪の存在に注目が集まっている

皮下脂肪と内臓脂肪に次ぐ第三の脂肪として、現在、「異所性脂肪」が注目されています。炎症反応に加えて、この異所性脂肪が、内臓脂肪型肥満でさまざまな病気が起こりやすくなっている原因の1つになっています。

内臓脂肪型肥満で脂肪細胞が限界まで大きくなると、脂肪細胞はそれ以上中性脂肪をためておくことができなくなります。そうなると、脂肪細胞は取り込んだ脂肪酸とグリセリンを血中に放出し始めます。前述したように、免疫細胞はこの放出された飽和脂肪酸に反応して炎症反応を起こします。


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一方、血流に乗って全身に運ばれた脂肪酸は、肝臓や筋肉、心臓、膵臓などの細胞に取り込まれます。エネルギーが不足している状態では、これらの脂肪酸はエネルギー源として利用されますが、肥満状態ではエネルギーが足りているため、「中性脂肪」として細胞内に蓄積されます。これが異所性脂肪です。

つまり異所性脂肪とは、「脂肪組織とは異なる場所(異所)に蓄積される中性脂肪」のことです。

日本人ではBMIが25未満で肥満の基準を満たさない場合でも、内臓脂肪が多い状態では異所性脂肪が沈着しやすくなっていることが分かっています。異所性脂肪は細胞にとっては「毒」のように働きます。

このため、異所性脂肪がたまると、肝臓や筋肉、心臓、膵臓の機能が低下してしまうのです。

以上のように、肥満状態では、炎症反応にともなって内臓脂肪から分泌される悪玉のアディポカインと異所性脂肪によって体のあちこちで異常が生じます。

その結果、糖尿病、高血圧、高脂血症(脂質異常症)など、さまざまな疾患が起こると考えられています。すなわち、肥満状態で体質が大きく変化することが、さまざまな疾患の原因なのです。

参考文献

・Berrington de Gonzalez A et al. (2010) Body-mass index and mortality among 1.46 million white adults. New England Journal of Medicine, 363, 2211-2219.

・小川佳宏(編)『異所性脂肪(第2版)』(日本医事新報社、2014)

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新谷 隆史:基礎生物学研究所統合神経生物学研究部門准教授

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