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2018.07.18

ペットの病気、「安楽死」というタブーの真実|言葉自体タブーかもしれないが選択肢はある

東洋経済オンライン

峰動物病院の院長、沖山峯保さん(筆者撮影)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/227783?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

峰動物病院の院長、沖山峯保さん(筆者撮影)

空前のペットブームと言われて久しい。

1人あたりがペットにかけるおカネは年々高額になってきている。ただし日本全国で飼われているペットの匹数は、猫は横ばい、犬は減少傾向にある。つまり1匹あたりにかけるおカネが上がっているのだ。ペットを家族の一員として扱い、十分におカネをかけて育てるようになったと言える。

ペットフード、ペットケア製品では高額商品も登場しているが、ただそれらの商品は値段的にはたかがしれている。

ペットを飼ううえで最もおカネがかかるのが、医療費だ。人間と違って健康保険がないため、どうしても高額になりがちだ。

知人の20代女性の飼い猫が体調を崩したので病院に連れて行くと、ただちに入院することになった。

「後から30万円を請求されて、『え?』ってなりました。正直2万~3万円だと思っていました。もちろん猫の健康は大事ですけど、30万円はちょっと……。文句も言えないので、親に借金をして払いました」

と語った。

このような問題は全国で後を絶たないという。ペットの治療はどこまでおカネをかけるべきなのか? これは、とても難しい問題だ。

『やさしい猫の看取りかた』(角川春樹事務所)の著作がある、峰動物病院の院長、沖山峯保さんに話を聞いた。

100万円以上かかる手術も

「治療費に関しては、もちろんおカネに余裕がある人は、いくらおカネをかけてもいいと思います。100万円以上かかる手術もあります」

犬の心臓(僧帽弁)の手術では代金が100万円を超えることも少なくない。しかも手術をしたとしても、その後元気になる可能性は半分程度だという。それでも手術をする人はいる。飼い主に支払い能力があり、かつ払っていいと思っているならば問題はない。ただ誰もがそのような環境にはいない。

「やはり最初におカネの話はしたほうがいいです。おカネは大事ですからね。ペットは自由診療ですから、同じ治療をしても病院によって値段が大きく変わることがあります。A病院では5万円だったのに、B病院では50万円かかった、なんて場合もありますよ」

自由診療は飼い主と医療機関との間で個別に契約を行い、その契約に基づいて行われる診療だ。その場合おカネの話をするのは必須だと思えるが、来院する飼い主の多くは、自ら治療費の話は切り出さない。また飼い主に対し、積極的におカネの話をしない獣医も多い。

「『おカネはいくらかかってもいいから、この子の命を助けてください!!』と言われる人がたくさんいらっしゃいます。

気持ちはわかります。ただ、結果的に払い切れなくなって困る人もいらっしゃいます」

治療費はケース・バイ・ケース

ただし「治療にいくらかかるか?」と聞かれても症状はケース・バイ・ケースなので正確には答えられないという。

峰動物病院(筆者撮影)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/227783?page=2

峰動物病院(筆者撮影)

その場合、沖山さんはこれまでの経験からの大体の概算を教えるようにしている。

以下、一例を挙げると、

初診料2000円、診察料1000円を払って診察してもらう。単純な下痢などの症状ならば、治療費3000~4000円で終わる。

よりきちんとした検査が必要だとわかると、エコー検査3000円、レントゲン4000円、血液検査7000円、と合計1万4000円がかかる。

そしてそのまま入院になると、まず入院費がかかり、点滴代などが必要。さらに呼吸器系・循環器系の病気などで酸素室に入る必要がある場合は酸素代など上限なく値段がかかっていく。酸素室を使う状態では一日で5000円ほどかかり、もし1カ月連続で使えば15万円にもなる。

「われわれとしては飼い主の皆さんに、ペット保険に入っておいていただけると嬉しいですね。遠慮なく治療ができますから。でも保険に加入している飼い主さんは、全体の5分の1くらいですね」

ペット保険は1万5000~3万円くらいの商品が多い。もちろん額が高いほうがより多くの治療がカバーされる。ただもちろん治療にかかるすべてのおカネが払われるわけではない。30万円かかった場合は15万まで、高額の手術をやった場合は10万円まで、など上限が決まっている。すべてが自由診療なので、保険会社側が上限を決めるのは当たり前だ。

「結果的に治療費が払えなくなり、月賦で払っている飼い主さんもいらっしゃいます。子どもの進学などおカネがかかる時期にペットが病気になり、非常におカネに困ったという飼い主さんもいらっしゃいました。

中には初診で来て『おカネないんです』って言う飼い主さんもいました。そういう場合は踏み倒されることが多いのですが、見捨てるわけにもいきません。病院としては非常に困ったことですが、踏み倒されたら踏み倒されたで仕方がないなと諦めて治療しています」

愛するペットのためどこまでもおカネをかけてあげたいと思うのは飼い主なら当たり前の気持ちだ。だが、おカネは有限だ。自分の懐具合と相談するのは決して悪いことではない。むしろおカネの相談をするのは当たり前だ。だがその当たり前がなかなか難しい。

沖山先生の印象では、治療においておカネのことを切り出すのが苦手なのは日本人特有な性質らしい。これは飼い主にも獣医にも言える。

「たとえば欧米人は、最初にちゃんとおカネの話をしますね。いくらまでなら治療する、それ以上なら治療しない、獣医と意見が合わなければ病院を替える、と非常にはっきりしている。

日本人もおカネのことは絶対に聞くべきだと思います。それは恥ずかしいことじゃないですから。2000~3000円で済む話じゃないですからね。大変な額のおカネがかかる場合も多いです。おカネのことを聞かずに治療をはじめて『いったいいくらかかるのだろう?』と考えること自体、すごいストレスですよ」

ペットが危篤な状態になっても、おカネを積めばある程度生かし続けることはできるという。もちろんかなり高額な治療費がかかる。

安楽死という選択肢

もう元気になる望みがない状態である場合、飼い主には『ペットを安楽死させる』という選択肢がある。

『やさしい猫の看取りかた』(角川春樹事務所)(筆者撮影)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/227783?page=3

『やさしい猫の看取りかた』(角川春樹事務所)(筆者撮影)

安楽死についても、日本人は切り出すのが苦手だという。この問題も、飼い主側も獣医側も苦手だ。

「日本では安楽死させる人は圧倒的に少ないですね。逆に欧米では飼っている時は家族のように大事にしますが、重篤な病気にかかった場合は、最期は安楽死を選ぶ人が多いです。ある意味、割り切っているんでしょうね」

オーストラリアで10年看護師をした人が峰動物病院で働いているが、いちばんの印象が「日本人はペットの安楽死を選ばない」のだという。

オーストラリアでは、手術にまとまったおカネがかかるとわかると「では、安楽死してあげてください」と迷わず言う人が多かったという。

手術の後にかかるペット自身の負担(痛みなど)や治療費を考えれば、スッと楽にしてあげたほうがお互いに良いと判断する。

日本ではそもそも安楽死という手段があることすら認識していない人が多い。安楽死という言葉自体がタブーで、言ってはいけないと思っているふしもある。

獣医の中にも、「安楽死をしてあげてほしい」とお願いする飼い主に対して「なんて冷たい飼い主だ」と考える人は少なくないという。

そして、飼い主が頼んでも絶対に安楽死という選択肢をとらない獣医もたくさんいる。

「飼った以上は最後の最後まで一緒に頑張りましょう」

という主義だ。これはこれで正義ではあるが、飼い主に強制することではないと思う。どうしてもかかりつけの獣医と話が合わないときは、病院を替えるという手もある。

「もちろん安楽死を選択したことを後悔する飼い主さんはいます。飼い主さんの意志で寿命を決めたのは事実ですから。ただ、ペットの死に際の苦痛にみちた状態を見てトラウマになる人もたくさんいます。どちらがいいのかはわかりません」

ギリギリまで治療で生かした場合、かえって長く苦しませたという罪悪感が残る場合も多く、以後ペットを飼えなくなる人もいる。

そこからペットロス症候群になる人もいる。ペットロス症候群とは、ペットを失ったショックで心身に疾患が起こることをいう。

安楽死を飼い主に勧めれば、「なんて冷たい獣医だ」と患者から思われるリスクはある。だが、それでも沖山さんは、「安楽死という選択肢もあるよ」と提示するようにしている。

「提示すると、ホッとされる飼い主さんは多いですね」

“安楽死をする条件”を提示することも大事だ

ただ単に安楽死を提示するのではなく、同時に“安楽死をする条件”も提示する。これが大事なポイントだ。

沖山さんが思う安楽死の基準は、

「病気にかかった後でも食べられていた物が、食べられなくなってしまう」

「病状が進行して、痙攣・嘔吐がコントロールできなくなる」

の2点だ。

「そういう状態になっても、点滴で栄養を与えたり、痙攣を抑える薬を使ったりすれば、まだ生かし続けることはできます。でも、それ以上がんばらせるのはかわいそうだとも思う人も多いでしょう。飼い主さんが『ここまでがんばってくれたんだから……』という意識が持てるのならば、安楽死を選んでもいいと思います」

安楽死は、手術と同じように麻酔をする。この段階で意識はなくなり、痛みも感じない状態になる。そして点滴で薬剤投与をして心臓や脳の機能を停止させる。

麻酔が効くまでの間にお別れを済ませた後は医師に任せ、最期の死に際は立ち会わない飼い主さんが多いそうだ。

亡くなった後は、涙にくれる飼い主さんもいるし、

「やれることはやったんだから……」

と納得する飼い主さんもいる。結局、これが正しいという答えはない。

ただ現在ペットを飼っている人は、安楽死という選択肢があるということを覚えておいてもいいと思う。

亡くなった後は

最後に、ペットが亡くなってしまった後の問題に触れたい。

亡くなった後は、火葬場で荼毘に付し、お墓を作る人が多い。これも値段はあってないようなものだ。おカネをかけようと思えばいくらでもかけられる。

沖山先生は、飼い主から聞かれた場合は、近所にある信頼の置ける霊園を紹介するようにしている。事前に霊園からもらっている料金表も見せている。

最近では自動車でわが家に来て火葬してくれる、移動式のペット葬儀社もあって便利だ。ただし、ペット葬儀関連では不当請求や、死体の不法投棄などトラブルも多く発生している。

ペットが亡くなってショックではあるが、最後に後悔しないためには、事前によく情報を調べることが大事だ。

個人的な話だが、

「ペットが亡くなったのだが、どこで火葬してもらうのがいいか知らないか?」

と聞かれたことがある。僕は、

「飼っていたペットが死んだ場合は、所轄区域の清掃事務所に電話すれば有料で引き取ってもらえるよ」

と教えた。例えば僕が住む地域では、杉並清掃事務所が遺骸を引き取ってくれて合同葬という形で荼毘に付してもらえる。値段は3100円と安いし、区がやることであるから間違いもないと思った。

しかし、知り合いは清掃事務所に遺骸を渡すというのに強い拒否感を覚えたらしい。

「うちの子はゴミじゃないから!! 考えられない!!」

と怒られてしまった。親切で教えたのだが、裏目に出てしまった。

このようにペットに関しては、飼い主それぞれで考え方が大きく違う。擬人化して家族以上に愛する人もいるし、ある程度距離を置いてかわいがる人もいる。もちろん虐待は絶対にダメだが、治療や葬儀などの細かいルールは飼い主が自分自身で決めることなのだ。

人に任せきりにせず、自分で調べそして考えて結果を出すのが、のちのち後悔しない最善の道だと思う。

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村田 らむ:ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター

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