メニュー

2018.07.06

日本人が積極的に「サバ缶」を食べだしたワケ|みそ汁からパスタ、炊き込みご飯まで

東洋経済オンライン

サバ缶を利用したみそ汁も人気だ(写真:RUNA/PIXTA)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/227989?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

サバ缶を利用したみそ汁も人気だ(写真:RUNA/PIXTA)

今、サバ缶の人気が急上昇中で、インターネット上やメディアでも話題になっている。いったいなぜ、サバ缶が急に注目を集めるようになったのだろうか。探ってみると、そこから現代の食卓事情が浮かび上がる。

まずその人気ぶりを確かめるため、水産加工食品メーカー大手のマルハニチロに問い合わせた。すると、2017年10月から半年間の売り上げが、前年の同じ時期と比べて4割も増加しているという。特に伸び率が高いのは、国産の大型サバを使う高級ブランドの「月花」シリーズで、5.7割も増加している。

「サバ水煮缶のみそ汁」が話題に

もしかすると、サバ缶人気に火を点けたのは、テレビ番組かもしれない。というのは、2017年9月14日に放送された人気番組「秘密のケンミンSHOW」(日本テレビ系)で、長野県民が熱愛する食品として、サバ缶が紹介されたからだ。マルハニチロの売り上げ急上昇の時期ともタイミングが合う。

その際、長野県では、サバ缶をそのまま食べるのではなく、水煮缶をみそ汁の具としてご当地食材の根曲がり竹とともに入れる料理法が紹介されていた。サバ缶を使えば出しもいらない。手早く一品が作れてしまうのだ。そしてサバの定番料理と言えばみそ煮。みそ汁に合わないわけがないのである。

サバ缶の人気ぶりは、ネットを中心にあちこちで話題になっている。今年4月27日には、サバ缶みそ汁などを実際に作って感想をリポートしたサイト「メシ通」の記事「長野県民の好物『サバ水煮缶の味噌汁』は全国に広めたいうまさだった【フカボリ】」がアップされ、バズった。

2カ月後の6月27日現在でシェア3736件、ツイート件数は9990にも上る。NHKの「あさイチ」でも繰り返しサバ缶レシピが紹介されている。やはり、そのまま食べるのではなく、料理の素材としてのサバ缶が注目されているらしい。

それなら、とクックパッドにも問い合わせてみた。するとサバ缶レシピの検索頻度は、水煮缶・みそ煮缶ともにすでに2012年から上昇を始めていることがわかった。人気が出始めていたのが、テレビの紹介でヒートアップしたということのようだ。2018年5月、6月の検索頻度は、前年の5月、6月と比べてそれぞれ2倍以上もある。

2018年の同社サイトのサバ缶を使った料理の人気トップ3は、「パスタ」「炊き込みご飯」「カレー」の順で、4位がサラダ、5位がご飯、みそ汁は6位。2017年までのみそ汁の順位は9位または10位なので、テレビ効果により人気が上昇したとみられる。それを除けば、上位は、つねにパスタやご飯ものなので、1品で簡単に済ませる食事の材料として使われているのではないかと考えられる。

「サバ缶」人気レシピは?

その傾向は、人気のレシピからもわかる。パスタの1位がトマト缶とニンニクを使う「鯖缶で!門外不出のトマトパスタ」、炊き込みご飯の1位が乾燥ひじきと白だしを加える「さば缶&ひじきde炊き込みご飯」、カレーの1位はトマト缶、タマネギ、ニンジン、ニンニクを使った「絶品!さば缶のトマトドライカレー」で、いずれもサバ缶をメイン食材として使い、あまり包丁を使わない簡単な料理ばかり。検索目的で多いキーワードも「アレンジ」「おつまみ」「丼」で、ササッと作ってすぐ食べたいときに、サバ缶レシピが検索されていることがわかる。

クックパッドで人気のともんちっちさんの「サバ缶で!門外不出のトマトパスタ」(クックパッド提供)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/227989?page=2

クックパッドで人気のともんちっちさんの「サバ缶で!門外不出のトマトパスタ」(クックパッド提供)

それにしてもなぜ、サバ缶料理が急に人気になったのだろうか。考えられる理由は4つある。

1つは、クックパッドのレシピ検索の傾向からも読み取れる、時短ニーズだ。サバ缶は、ワタを取るなど魚につきものの下処理が必要ない。魚の出しがあるので、出しやスープの素などを使わなくても、うま味のある料理ができる。クックパッドの1位の料理のように、トマトと組み合わせればうま味は数倍にもなる。

2つ目は割安なこと。魚は肉に比べて割高なことが多いが、サバ缶なら100円台~200円台で買えるものが多い。

3つ目は不足しがちと言われる魚を食べられること。ここ数年、日本人の魚離れの傾向は新聞などでその深刻さが繰り返し取り上げられるほどで、一般的にも知られるようになってきた。『朝日新聞』は2012年4月4日付の夕刊で、この10年で全世代にわたって魚食から肉食へと移ったことを報じている。

現代において、魚離れが進むのは仕方がない側面もある。魚は肉に比べて、100グラムあたりの価格が高いことが多い。特に比較的安い青魚は丸ごと売られていることも多いので、下処理が必要になる。しかも、取ったワタはすぐに傷んで臭くなりがちで、冷凍しておき、ゴミの日に捨てるなどの手間がかかる。

また、冷凍するなど保存がしやすい肉と違い、生の魚はすぐに食べないと傷むため、買うタイミングを選ぶのが難しい。週末にまとめ買いする共働き世帯の場合、平日に魚を料理するのは難しくなる。

また、塊肉からミンチまで、売っているサイズや部位にバリエーションがあり、炒めものや煮ものなどさまざまな料理に使える肉と異なり、使い勝手も悪い。身をほぐすのは料理のバリエーションは広がるが、一度焼いてから骨を外し、身をほぐすなど手間がかかる。

使い勝手のよさが認知された

そういった魚が持つハンデを克服できるのが、魚缶である。下処理は基本的に必要なく、長期保存が可能だ。すでに火が通っているので、身をほぐすのもたやすい。ツナなどあらかじめほぐした身が入っている缶詰もある。アイデアレシピが広まったことで、魚缶ならではの使い勝手のよさが知られるようになり、ヒットにつながったのではないかと思われる。

さらに4つ目の理由がある。それは健康志向だ。サバなどの青魚は、血液をサラサラにするといった健康効果が宣伝される、必須脂肪酸のDHAやEPAを豊富に含む。魚不足を気にしている人には、魚を取る手段としても手軽だ。マルハニチロの高級商品が売れているのは、割安であることよりもヘルシー志向に応える商品であることが評価されているからかもしれない。ヘルシー志向が強い人は価格より質の高さを評価しやすいからだ。

サバ缶人気の余波なのか、やはりDHAやEPAを豊富に含む青魚のイワシ缶もよく売れている。イワシは安い魚だが、サバと並んでアシが早い。そしてワタ取りからしなければならないことが多い。

実はマルハニチロでは、サバ缶よりイワシ缶の売り上げの伸び率が高い。サバ缶が急伸した時期と同じ2017年10月から半年間の売り上げが、前年同時期と比べて7割もアップしている。

クックパッドでは、イワシ缶レシピの検索数が2015年から上昇し始め、2017年から急激に伸びた。同社の6月の検索頻度は前年同時期と比べて、サバみそ煮缶が約1.67倍、サバ缶が約1.59倍、サバ水煮缶が約1.55倍で、イワシ缶は約1.45倍になっている。サバ缶ほどではないが、イワシ缶レシピの検索数も大きく伸びたと言える。

魚缶に特化したレシピ本も登場

サバ缶料理で、魚缶の使い勝手のよさに気づいた人たちが、同じくヘルシーと言われるイワシ缶料理にも挑戦しているのではないだろうか。

魚缶料理が注目されるなか、4月20日付で魚缶に特化したレシピ本『かんたん!ヘルシー!魚の缶詰レシピ』(キッチンさかな、河出書房新社)も刊行された。サバ缶、オイルサーディン、ツナ缶、サケ缶などのレシピが紹介されている。

日本人の魚離れは必ずしも魚嫌いが増えたからではない。回転ずしなども含め、外食で魚料理が人気なのは、本当は魚を食べたい人が多いからだ。しかし、ライフスタイルが変化し、日常的に食べるのは難しくなった。

やがて幅広いレシピを気軽に調べる習慣が広まった時代になり、魚缶という使い勝手のいい商品が発見された。サバ缶、イワシ缶といった、今まであまり料理の素材として使われていなかった魚缶の料理が人気になっているのは、個人の知恵を気軽にやり取りできるインターネット時代ならではの現象と言える。魚缶が再発見されたことで、今、再び魚料理が家庭で頻繁に食卓に上る日がやってきているのかもしれない。

記事画像

阿古 真理:作家・生活史研究家

【あわせて読みたい】 ※外部サイトに遷移します