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2018.10.01

久山町研究とは〜人生100年時代に大切な健康管理の常識を創るコホート研究

KenCoM編集部

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9月から新たに実装された『ひさやま元気予報』、もうお使いになりましたか?
自分の将来の健康状態がしっかりと予測されるのに驚いた方も多いかもしれません。なぜ『ひさやま元気予報』で身体の未来予測ができるのでしょうか。
そこには、久山町を調査対象とした長年のコホート研究の成果が活かされているのです。その内容を日本でのコホート研究の権威である九州大学・二宮教授率いる久山町研究室の先生方に伺ってきました。

コホート研究って何?久山町研究でなぜ未来がわかるの?と思った方はぜひ、ここを読み進めてみてください。

コホート研究とは大きな集団を長期間にわたって研究する手法

そもそもコホート研究とは

コホート研究とは医学の一分野である疫学の研究手法の1つで、ある調査対象の方々を長期間追跡する方法です。調査は、その当時に病気のない健康な方々に協力してもらうところから始まります。その方々に健診や質問を受けてもらい、その時の身体の状況をしっかり把握した上で、その方々が将来病気になるかどうかを追っていくのです。
この研究では、健康な方の身体の違いや生活習慣の違いが、将来の病気の起こりやすさにどう繋がっているかを、エビデンス(この方法がよいといえる証拠)として出せるようになります。また、調査した病気の原因の特定や、予防につながる要因も割り出すことができるのです。

今回の『ひさやま元気予報』の基となる久山町研究は、なんと1961年から50年以上続いています。久山町では住民健診の結果をもとに、どのような病気にかかったか、どうして亡くなられたのかといった情報を精緻に追い続け、病気や健康に関するエビデンスを作成しています。
その結果をもとに、久山町で何が起きているのかを明らかにし、ひいては日本で起きていることを説明しています。

期間や人数は調べる疾患によって異なる

久山町研究の場合、久山町C&Cセンターで健康診断を行い、そのデータを研究に活用する。

久山町研究の場合、久山町C&Cセンターで健康診断を行い、そのデータを研究に活用する。

コホート研究を行う場合はどれくらいの人数を集めて、どれくらいの期間行えばいいのでしょうか?
これは疾患によって異なるため一概には言えません。病気の発生率が低いものであれば、たくさんの人数を長期間追跡しないと実際に病気の人が出ない可能性もあります。逆に、肥満や糖尿病といった生活習慣病であれば日本人の3-4人に1人がかかっているため、ある程度の規模でも成立します。

久山町研究では、1961年から主に脳卒中や認知症をターゲットに調査を開始しています。約2000〜3000人を対象に10年以上追跡するデザインでエビデンスを出しています。

何を明らかにしたいのかで調査対象を選ぶ

久山町の生活習慣病を調査することで、日本全体の生活習慣病の発症リスクや要因を解明する。

久山町の生活習慣病を調査することで、日本全体の生活習慣病の発症リスクや要因を解明する。

調査を始める際に、注意しなければいけない点があります。それはどのような方を対象として調査するかです。調査で何を明らかにしたいのかによって、その対象は変わります。また、調査対象者を可能な限り偏りなく調査することも大切です。例えば、健診に率先してきてくださる方は、日頃からご自身の健康に気を付けており、健康意識が高い方が多いと思われます。もし地域の健診対象者のうち、実際に健診を受診してくれる人の割合が20〜30%と低い場合、その健診データは健康意識の高い方に偏ったものとなるため、地域の実際の健康状態より見かけ上良い結果となる傾向があります。

つまり、地域の実態を反映したものではないことになります。それはTVなどの世論調査や選挙における投票率に似ているかもしれません。 一方、久山町では健診対象者の70〜80%の方が健診を受診していますので、久山町研究の健診データは偏りが少なく、より正確に地域の実態を反映していると考えられます。

久山町研究は自治体、地域住民との信頼形成・維持で成り立っている

コホート研究は信頼関係の形成と維持が大事

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コホート研究を維持するには、地域の自治体や会社の協力が不可欠です。例えば町ならば、住民の健康管理・疾患予防の推進に関して、リーダーである町長に強い思いがあり、その思いに共感する保健師や保健福祉課、役場の人たちがいます。
さらにそこに協力しようという住民の皆さんや、医師会、開業医の先生方の力添えがあってこそ、長年多くの人を調査することが可能となります。大学の研究者だけでは、決して成立しません。

久山町には、町長、役場職員、開業医、住民の皆様にそのような思いがあったからこそ研究が続いているのだと思います。

久山町が選ばれたのは町長の強い思いから

久山町の健康の象徴である久山町C&Cセンター。

久山町の健康の象徴である久山町C&Cセンター。

久山町は高度成長期に日本中が湧いていた1960年代から、現在に近い考えを持った進歩的な町でした。
それは「自然が豊かではないと人のコミュニティは生まれない、コミュニティが生まれないと人々は健康になれない」という考えです。
この、土地の健康が社会の健康を作り、社会の健康が人の健康を作るという考えの下、住民と信頼関係を深めることができました。

信頼関係は現在でもしっかりと維持されており、住民にコンタクトを取る際は久山町に協力してもらいながら、丁寧にアプローチを行なっているそう。
その結果、健康診断の受診率は約70%、追跡の精度である追跡率は99%以上という驚きの高さを維持。成果としては
・脳卒中や心筋梗塞などの心血管病の危険因子と予防対策への貢献
・高血圧・糖尿病といった生活習慣病の実態を明らかにし、その予防方法に関しても貢献
・認知症の実態解明と危険因子の探索に寄与中
・日本で初めてゲノム疫学研究にも寄与
など、日本人における新たな健康管理の常識を打ち立て続けています。

大学も町づくりに参画

最近では町の健康増進活動を、大学側と協力して行う体制も作られてきているそうです。 例えば、町の健康行政を決める際には「久山健康づくり委員会」を発足し、町や研究室のメンバーが久山町研究で得たデータを基に話し合いが行われています。

また、久山町研究室の糖尿病内科医協力のもとで「糖尿病予防教室」という場を開いています。常時血糖値を計測できる機器を使用して、実際の血糖値の変動を見せながら健康指導を行なっており、住民からも好評だそうです。

『ひさやま元気予報』は久山町との信頼関係から生まれた

『ひさやま元気予報』の基となる久山町研究がどんなものか、お分りいただけましたか。

久山町研究室を率いる二宮先生はインタビューの中で
「コホート研究では、調査に参加してくれた方々と長くお付き合いしていくので、信頼関係が大事になります。私は調査が始まってから5代目の研究主任になりますが、その中で、町長や住民の方の尊い思いも変わらず、お互いに信用を失わずに長く続けられていることを誇りに思います」
と語ってくださいました。

研究と聞くと冷たく堅いものを想像してしまいがちです。しかし、コホート研究では地域とのつながりや信頼関係を作りながら続けられています。
その思いを知って『ひさやま元気予報』を触ってみると、いつもより楽しく触れられるかもしれませんよ。

九州大学・久山町研究室 二宮利治先生・吉田大悟先生

二宮利治(にのみや としはる)衛生・公衆衛生学分野 教授
吉田大悟(よしだ だいご)  衛生・公衆衛生学分野 助教

(取材・文/KenCoM編集部)

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