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2018.04.25

40代以降の運動習慣が心不全の予防に繋がる?【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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毎日の仕事が忙しい中年世代、運動不足気味の方も多いのではないでしょうか。
でも定期的に運動を続けると、心不全を予防してくれる効果もあるのだそうです。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2018年のCirculation誌に掲載された、中年以降の運動習慣が、その後の心機能に与える影響を検証した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

中年期の運動不足が心機能低下につながる?

運動が足りないと、主に左室の拡張能が低下

40から50代の時期において、事務仕事などで殆ど運動をしないことが、その後の心機能の低下に結び付き、心不全のリスクとなることは、多くの疫学データからほぼ明らかな事実です。

この場合に生じやすい心臓機能の変化は、左室の拡張能の低下です。

左室というのは、心臓のポンプ機能の中心として、全身に血液を送り出す働きを持っていますが、その機能は大きく、縮む力(収縮機能)と広がる力(拡張機能)とに分けられます。

心臓の働きが低下する心不全は、進行すればその2つの機能のいずれもが低下しますが、その初期の段階においては、収縮機能のみがもっぱら低下する場合と、拡張機能のみがもっぱら低下する場合とに分けられます。

拡張能の低下は収縮能の低下よりも、簡単に測定することが難しいのですが、加齢や糖尿病などで発生する心不全は、その多くが拡張能の低下から始まると考えられています。

僕自身も大学の医局時代に、心エコーの拡張能の指標を測定して、糖尿病の状態やコントロールとの関連を、調べるような臨床試験をしていたことがあります。

中年期以降でも運動で心機能低下を予防できるか?

定期的に運動する群としない群を比較検証

さて、運動には、心機能の低下を予防するような、効果があることが知られています。
それは、中年以降からの運動でも、有効なものなのでしょうか?

今回の研究はその点にフォーカスを絞ったもので、運動習慣のない45から64歳の健康成人61名を対象として、クジ引きで2つの群に分けると、一方は運動プログラムを定期的に行ない、もう一方はそのままの生活を継続して、2年間の効果を比較検証しています。

運動はその時期により時間は強度は異なりますが、最大心拍数の95%に達するインターバルトレーニングを含み、週に5、6時間は運動する結構ハードな内容です。

その結果、運動群ではコントロール群と比較して、最大酸素摂取量が増加すると共に、心臓の拡張機能の改善が認められました。勿論コントロール群ではそうした改善は認められませんでした。

40代以降でも運動の効能は得られる

このように、40代以降からの運動が、心機能の改善に繋がり心不全を予防する、という知見は非常に興味深く、勿論身体に無理を掛けないように慎重な対応は必要ですが、運動の効能は今後より大きく注目されることになりそうです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36