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2018.03.01

もはや"最後の手段"ではない!インスリン治療の今【糖尿病1000万人時代の予防・対策#4】

KenCoM公式:ライター・緒方りえ

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糖尿病治療に対する以前までのイメージでは、インスリン注射を使うのは最後の手段と認識している方が多くいました。しかし現在は、インスリン治療を取り巻く環境や考え方も変わり「とにかく膵臓を保護してあげる」という観点から、治療の初期段階からインスリン注射を使って膵臓を休ませてあげようという考え方に変わってきています。

4回目は『インスリン注射と注意点』について説明いたします。今回もお話していただくのは、東京都済生会中央病院の糖尿病・内分泌内科部長 河合俊英先生です。

河合俊英(かわい・としひで)先生

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1993年慶應義塾大学医学部卒業。内科全般の研修後、糖尿病領域を専門とする。米国シカゴ大学での留学を経て、慶應義塾大学病院にて主に糖尿病に関する運動療法の診療・研究に従事。2016年より現職。

インスリン治療はより手軽で簡単になってきている

全ての患者がインスリン治療の適応対象ではない

糖尿病=インスリン治療と考える方も多いかもしれませんが、絶対的な適応として治療の範囲に入る人は広くありません。
具体的には次の通りになります。

①絶対的な適応
1型糖尿病、ケトアシドーシス、重度の腎臓障害、重度の肝臓障害、重症な感染症、妊婦、静脈から栄養点滴をしている
②相対的な適応
内服薬だけでは血糖を良好に保てない、やせ型で栄養状態が低下している、ステロイド治療中、など

この2つの適応の中に当てはまる場合、インスリン治療が適用されます。

インスリン治療の基本は皮下注射

インスリンはホルモンであり、本来は膵臓のβ細胞から血管内に分泌されて作用するものです。そのため、インスリン治療では『皮下注射』という方法をとっています。これは、皮膚と筋肉の間にある皮下組織という部位に注射をする方法。注射されたインスリンは皮下組織にある毛細血管からゆっくりと吸収されます。

現在は様々な会社で、インスリン治療を注射以外の方法(飲み薬や貼り薬など)に替えられないかと研究がされています。しかし「血管ではなく口から摂取すると、インスリンは分解されてしまう」という問題をなかなかクリアできません。アメリカの最新研究では吸入型のインスリンが開発されましたが、単位の調整が難しいことやコスト面の問題もあり実用化が難しいとされています。

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注射を正しく打とう

実際にペンのように見える形の注射器。左側の小さいものが注射針で、1回ごとに交換して使用する。

実際にペンのように見える形の注射器。左側の小さいものが注射針で、1回ごとに交換して使用する。

実際にインスリン注射を使用する時の、流れと注意点を簡単にご説明します。
①インスリン注射の名前が正しいか確認。
②現在のインスリン注射のほとんどはペン型となっているので、接続部を消毒綿で拭いてから専用の注射針をまっすぐに装着する。
③濁っているタイプのインスリンは毎回振って、中身をよく混ぜる。
④2単位ほど空打ちしてから、医師に指示された単位の数字にメモリを合わせる。
⑤皮膚を消毒綿で拭いてから、皮下注射する。

皮下注射の部位としては腹部がおすすめです。自分で見える場所なので打ちやすく、身体の中心なのでインスリンの吸収速度も安定しやすいと言えます。ただし、同じ場所に打ち続けると皮膚が硬くなったりアザになってしまうので、毎回2〜3センチづつ場所をずらしながら打つようにしましょう。

腹部の皮を反対側の手で少し張るようにしながら刺すのが一般的です。

腹部の皮を反対側の手で少し張るようにしながら刺すのが一般的です。

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注射針の処理方法も決められている

個人用とはいえ、注射器の針を連続して使うことは衛生上などの理由により厳禁です。
しかも、使用後の針は「医療廃棄物」として病院で破棄する必要があるのです。

インスリン治療を行なっている患者さんはペットボトルなどの容器に針をためておき、受診時に病院へ提出しています。

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治療中でもルールを守れば旅行なども楽しめる

たとえ糖尿病にかかっていても、旅行などは楽しみたいもの。旅行で飛行機に乗る場合に大切なことは、インスリン注射と針を必ず手荷物として機内に持ち込むことです。ロストバゲージや破損、預け荷物室の気温変化でインスリンが凍ってしまう等という事態を起こさないようにしましょう。

また、事前に旅行会社に問い合わせて相談しておくことで、食事のタイミングなどを協力してもらえることがあります。
旅行中(特に海外旅行)は、食べられる食事の量や時間が読めないことが予想されます。その場合は、食べた後からインスリン注射を打つように指導しています。もちろん、急な低血糖に備えて飴などの糖分を備えておくことも大切です。

糖尿病データカード

糖尿病データカード

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『シックデイ』でも注射の使用はやめないこと

インスリン治療中の患者さんが感冒(例えばインフルエンザ)や胃腸炎などで体調不良になり、食欲がなくなってしまう状態を『シックデイ』と言います。

インスリン療法の原則は、基礎分泌も含めインスリン注射を中止してはいけないということ。なぜなら、体調不良の時こそ血糖を上げるホルモンがたくさん分泌されてしまうからです。普段通りに食べられないからといってインスリンを中止してしまうと高血糖になり、場合によってはケトアシドーシスになってしまうこともあります。

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治療中は自分で血糖値を測ることも重要

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血糖測定器を使うと、今の自分の血糖値をモニタリングすることができます。これは、針で指先に小さな穴をあけて血液を出し、器械に吸わせて測定するものです。
例えばインスリン治療中に低血糖を疑った時、実際の数値を知ることによりスムーズに応急処置(糖分を摂る)を行うことができます。

上の写真のように小型なので持ち運びしやすく、日常的に使いやすいのが特徴です。

インスリン治療を不必要に怖がらないようにしましょう

インスリン治療と聞くと、拒絶される方も居るかと思います。しかしインスリン注射を適切に使用することで、飲み薬を使わずに済む方がいるのも事実です。また結果的に、全ての内服薬とインスリンをやめられる人もいるのです。これは糖尿病治療の励みになるでしょう。

【糖尿病1000万人時代の予防・対策】バックナンバー

著者プロフィール

■緒方りえ(おがた・りえ)
1984年群馬県生まれ。20代から看護師として活動をする傍ら、学会への論文寄稿や記事の作成なども行う。2015年独立しフリーの編集者として活動。2017年より合同会社ワリトを設立し代表社員に就任。医療系を中心に、旅行、雑貨など幅広いジャンルでフリーライター、フリー編集者として活動中。