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2018.02.28

糖尿病の理解に欠かせないインスリンとは?【糖尿病1000万人時代の予防・対策#1】

KenCoM公式:ライター・緒方りえ

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健康診断を受けた時に、必ずと言っていいほど話題に上がる生活習慣病といえば『糖尿病』です。糖尿病は生活習慣が大きく関係していて、年々患者数が増える傾向にある「国民病」の1つと言えます。2017年秋には約1000万人が診断され、予備軍も合わせると2000万人にまでのぼっているそう。
なぜ、これほど増えてしまったのでしょうか。その理由の1つが、糖尿病に至る理解や認識があやふやなためとも言われています。

そこで今回は、東京都済生会中央病院の糖尿病・内分泌内科部長 河合俊英先生に4回に渡って、解説いただきました。
1回目のテーマは、糖尿病について最初に理解しておくべき基礎「インスリンと糖代謝」です。

河合 俊英(かわい・としひで)先生

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1993年慶應義塾大学医学部卒業。内科全般の研修後、糖尿病領域を専門とする。米国シカゴ大学での留学を経て、慶應義塾大学病院にて主に糖尿病に関する運動療法の診療・研究に従事。2016年より現職。

糖尿病とインスリンの関係を学ぼう

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まず、『糖尿病』とはなにかを知っておきましょう。
身体の中に酸素や栄養を送る役割をしている血管、その中の糖の量が多くなってしまう病気を『糖尿病』と言います。

この、血液中の糖の量が多くなるのは、『インスリン』という体内ホルモンが関係します。このインスリンを理解できないと、糖尿病がなぜ引き起こされるのかがわからないのです。

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インスリンの働きを理解しよう

インスリンは血管内と細胞間の「糖の橋渡し」をするホルモン

インスリンは、膵臓にある『β細胞』という細胞で作られて分泌される『血糖値(血液中の糖の量)を下げるためのホルモン』です。ホルモンは身体の中で作られて血管内などに分泌される物質で、特定の部位に影響を与えて身体の働きを調整します。

インスリンが以下の2つの働きをすることで、血糖値は下がります。
①血管内にある糖を細胞に取り込ませて、身体を動かすエネルギーとして燃やさせる
②燃やされず余った糖をグリコーゲン(貯蓄型の糖)や脂肪に変えて身体に蓄えさせる

つまり、インスリンが血管内と細胞の間で「糖の橋渡し」を行うことで、糖はエネルギーとして消費されるわけです。
このようなサイクルを『糖代謝』と言います。

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インスリンの分泌は2種類あります

インスリンというホルモンは常に分泌され続けています。これは前述した通り、人間の身体には食べた時以外にも血糖値を上げるための仕組みがたくさん備わっているからです。

β細胞には、食べていない時も少しづつインスリンを分泌し続ける『基礎分泌』と、食事に応じて分泌することで血糖値が急激に上がるのを抑制する『追加分泌』という仕組みがあります。
ちなみに、よく耳にする言葉『インスリン治療』とは、この働きを人工的にマネすることを目的としています。

糖代謝がうまくいかない場合

糖代謝がうまくできないと『ケトアシドーシス』という危険な状態に

そんな、身体の血糖値を下げるインスリンは、不足すると糖の橋渡しがうまくいかなくなります。つまり、血液中にはエネルギーの素となる糖がたくさん余り、それが溜まり続けることで血液は濃くドロドロとした状態になっていくわけです。

また、細胞に十分な糖が入ってこないと、身体にとって必要な(蓄えておくべき)脂肪を仕方なく燃やしてエネルギーに変えるようになります。このエネルギーに変換した燃えカス『ケトン体』は酸性の物質。身体に蓄積されると「アシドーシス(身体が酸性に傾く)」という状態になっていきます。
このケトン体の蓄積によるアシドーシスを『ケトアシドーシス』と言います。

ケトアシドーシスになると、自分の細胞を無理やり壊し続けることでエネルギーを生み出すというサイクルが続き、どんどん身体が酸性に傾くのです。
一般成人のpHは7.35~7.4が基準範囲になりますが、ケトアシドーシスが進んで7.0未満になると、脳にまで影響が出てきます。
つまり、生命を維持することさえもギリギリとなる危険な状態に陥ってしまうのです。

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糖分が多いドリンクを飲みすぎても糖代謝は不安定に

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アシドーシスと関連する病気をもう1つご紹介。
糖尿病患者さんの特徴的な症状として「口渇」「多飲」「多尿」があります。これは、脳にある口渇中枢から「糖によって濃くなった血液を薄めなさい」という命令が出されるからです。

この時に、糖分が多く含まれたドリンクを飲んでしまうと逆効果。余計に血液が濃くなってしまい、飲んでも飲んでも喉が乾いていると感じる悪循環に陥ってしまうのです。するとインスリンの分泌が追いつかず、相対的なインスリン不足になります。

この状態が改善されないと『ソフトドリンクケトーシス』という病気になります。これは、身体の中がアシドーシス(酸性)に傾くには至っていないけれども、ケトン血症(細胞が壊れて血液中にケトン体が増えてしまう)という状態です。

重症化すると、血糖値が高いままとなり、昏睡状態になることもあります。糖尿病の方はもちろん、診断されてない方も予防意識が大切です。

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インスリンの働きを学べば、糖尿病の理解が深まる

糖尿病とインスリンの関係で大切なのは、

①身体が欲しているエネルギーの生産に必要なだけの糖を摂取し
②その糖の量に対して十分な量のインスリンが分泌され
③インスリンが正常に糖の橋渡しを行うことで血糖値が下がって安定する

ということ。これが理想的な『糖代謝』です。
次回は、本題である糖尿病の分類と三大合併症について学んでいきましょう。

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著者プロフィール

■緒方りえ(おがた・りえ)
1984年群馬県生まれ。20代から看護師として活動をする傍ら、学会への論文寄稿や記事の作成なども行う。2015年独立しフリーの編集者として活動。2017年より合同会社ワリトを設立し代表社員に就任。医療系を中心に、旅行、雑貨など幅広いジャンルでフリーライター、フリー編集者として活動中。