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2018.02.07

”くしゃみ”は我慢すると危ないかもしれない?【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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今年はインフルエンザ大流行ですね。職場や通勤電車の中などで、あちらこちらから咳やくしゃみの音が聞こえてきます。
周りの視線が気になり、思わず公共の場ではこらえてしまいがちな咳やくしゃみですが、実は我慢するにはリスクを伴うのだとか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「石原藤樹のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2018年のBMJ Case Rep誌に掲載された症例報告で、鼻と口を押えて、無理矢理くしゃみをこらえることで、咽喉(咽頭)に穴が開いたという、ビックリするような事例です。

▼石原先生のブログはこちら

くしゃみを我慢すること、ありますか?

くしゃみをこらえると、体の中の圧力が高まる

くしゃみや咳は体の中にある異物を、外に押し出すような一種の反射ですが、大きな音を立てて、周りにも不快な印象を与える行為でもあるため、状況によっては、出かかったくしゃみや咳を、口や鼻を閉じて無理矢理に出ないようにこらえる、という行為もしばしば行われることがあります。

僕自身もくしゃみや咳が連発するのは嫌なので、時々そうしたこらえ方をしています。
ただ、無理矢理にこらえると、身体の中の圧力が、一時的にはかなり高まっているのを自覚します。

こうした無理をして、何か身体に弊害は生じないのかどうか、ちょっと不安に感じることも確かです。

くしゃみを我慢したら、咽頭が割けたケースも

34歳の男性。鼻と口を塞いでくしゃみを我慢

今回報告されたケースは、それ自体は極めて稀なものですが、34歳の男性が鼻と口を塞いでくしゃみを我慢したところ、その後で首や背中が膨らんだような違和感があり、声の変化と物を飲み込む時の痛みがあったため、救急外来を受診した、というものです。

こちらをご覧ください。

患者さんの救急受診時のレントゲン画像ですが、黒い矢印の部分は後咽頭と呼ばれる咽喉の後ろ側に、本来はない気腫が出来ている所見で、白い矢印は咽喉の前方の皮下組織に、矢張り気腫が出来ている所見です。

これはつまり、くしゃみを無理にこらえたことにより、咽喉の一部が裂けて破れ、そこから空気が漏れ出した、ということを示しています。

後咽頭の梨状窩という、弱い部分に穴が

次にこちらをご覧ください。

同時に撮影されたCTの画像ですが、レントゲンよりクリアに、気腫となった部位が同定されています。
激しい嘔吐などに伴って、食道に穴が開くというケースがあることが報告されていますが、食道には特に問題はないようです。

気腫の範囲から、後咽頭の梨状窩と呼ばれる部分に、穴が開いた可能性が高いと考えられました。

患者さんは抗生物質の使用と、経口摂取は中止して経鼻のチューブからの栄養補給を行い、保存的な治療で経過を見ました。1週間後には気腫は吸収され、2か月後のフォローでも再発や合併症を認めませんでした。

くしゃみや咳は我慢しないほうが安全

これは極めて稀な事例として報告されていますから、くしゃみや咳をこらえること自体が、害があるとは言えないのですが、鼻と口を塞いでくしゃみをこらえることは、咽頭の圧力を不必要に高め、元々筋肉の裏打ちがなく弱い部位である梨状窩に、穴が開くような危険を高めることは事実なので、なるべく行わないことが安全とは言えるようです。

くしゃみや咳は、無理にこらえずに出してしまう方が間違いがないようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36