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2017.11.10

『記録』は健康行動のはじめの一歩!暮らしを見直すきっかけにしよう【KenCoM監修医コラム】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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健康になるために自分の身体のデータを活用するのが定石です。
今までその役割を担ってきたのが健康診断の結果ですが、最近ではスマートフォンを使った「ライフログ」を活用する人も増えてきました。

では、そのライフログ、どう記録し、どう活用するのがいいのでしょうか。
KenCoM監修医である石原先生に、そのコツをまとめてもらいました。

生活を見つめ直すことが、健康には最も大事

健康診断でメタボと言われたり、血圧や血糖値、コレステロールなどが高めという結果が出ると、その数値が薬を飲むほどでなければ、生活を改善して下さい、という話になります。
メタボ健診の後には保健指導というものがあって、保健師さんや栄養士さんなどと面談したり、食生活や運動の習慣などを記録して、その何ヵ月後かにその達成度を評価する、というような仕組みもあります。

それでは、実際にどの程度の効果が、生活改善にはあるのでしょうか?

2016年のブリティッシュ・メディカル・ジャーナルという医学誌に掲載された論文によると、『食事・運動・喫煙・飲酒』の4つの生活習慣を改善することにより、がんや心臓病、脳卒中などのリスクが、6割以上低下したという結果が報告されています(文献①)。2015年のランセットという医学誌に掲載された論文では、糖尿病になる危険性の高い人に、食事と運動などの生活改善の指導を3年間行うと、糖尿病になるリスクがやはり6割近く低下した、という結果が報告されています(文献②)。

薬による治療は予防的には、生活改善の半分くらいの効果しかありませんでした。このように生活習慣の改善は生活習慣病の予防や健康寿命の延長に欠かせないことですが、良い生活習慣を継続するということは、それほど簡単なことではありません。

宣伝されているような減量法も、確かに短期間なら劇的な効果がありますが、長期的にはリバウンドしてしまうことが多いのは、皆さんご存知の通りです。
それではどうすれば良いのでしょうか?

その解決法として最近注目されているのが、スマートフォンなどの携帯機器を利用した、生活の記録『ライフログ』という考え方です。

最近よく聞く「ライフログ」って何だろう?

KenCoMのカラダタブ

KenCoMのカラダタブ

ライフログというのは、自分の生活における経験や行為など、記録出来るものをデジタルデータで保存するということです。

たとえば「食べログ」というのは、毎日の食事の内容を、画像などで記録するというのがそもそもの発想です。同じように読んだ本を記録する「読書ログ」のようなものもあります。
こうしたことをするには、スマートフォンのような携帯機器が、今では最も便利で機能的です。
このライフログのデータの1つとして、毎日の健康情報を記録するという発想があり、そのためのアプリケーションも沢山販売されています。

具体的に今個人で数値化して記録出来るものとしては、血圧、脈拍、カロリー消費量、体重、歩行数などがあります。自動的に測定出来る数値もあれば、別個に測定してそれを入力するようなものもあります。
最近では睡眠の状態が健康的であるかどうかを、自動的に判定してくれるようなソフトも販売されています。これは体の寝ている間の動きを感知しているのですが、興味深い反面まだその正確性などは、それほどしっかり検証されていない、という点には注意が必要です。
自動的に測定と記録はされる方が、やることは少ないので便利ではあるのですが、一方で全て機械任せにしてしまうと実際の生活にフィードバックがされにくいという欠点もあります。

それではこうした健康情報の記録は、皆さんの健康にどのような影響があるのでしょうか?

健康情報を記録すると何が起こる?

一番シンプルな減量法は、毎日体重を測って記録することだ、という事実は昔から知られています。
暴飲暴食をした翌日などは、「しまった、食べ過ぎた」と密かに反省はしているので、測定した体重が増えていれば、「ああやっぱり」と納得し、その日の食事の改善に繋がるのです。
これは認知行動療法という心理療法の一種なのですが、ライフログには同じような効果が期待出来ます。

毎日の血圧や運動量、食事の内容や体重などを記録することにより、適切な知識があれば、それを修正しようという心理が働くので、特別な指導をしなくても、自然と改善に向かうのです。
それでも、より効果を上げるには、何らかのフィードバックが必要です。

目標となる体重などを設定して、それに達しなければ指導を行い、具体的な方法を決めたり、目標を達成出来れば何らかのご褒美が出るなどの介入です。
人間というのは現金なもので、こうした目標とそれに伴うご褒美や罰則があると、よりやる気が出るものなのです。
それは小さなものでも変わりません。

2011年の肥満の専門誌に掲載された論文によると、紙の記録のみの場合と、コンピューターのソフトを使用したデジタル記録、そしてデジタル記憶に併せてフィードバックのメッセージのある場合とを比較して、肥満の方の減量の効果をみたところ、フィードバックのメッセージのある場合が一番効果が高かった、という結果になっていました(文献③)。
このようにスマートフォンなどを使用して、フィードバックのシステムを活用したセルフ・モニタリングは、通常のデータの記録よりも生活改善に結び付く有用性は高いと考えられます。

ただ、これはあくまで医師や専門家の指示のもとに行った場合のデータです。
現状個人でライフログとして健康情報を収集することは、医師や専門家に相談をしなくても特に問題はありませんが、実際にご病気を持っていたり医師に治療を勧められているような場合、またフィードバックを行なう場合などは、医師や専門家の指導の元に行うことが、現状では安全だと思います。

今後の医療と健康管理データの活用

昔、星新一の著書『ショートショート』に、自動的に健康状態を全てモニターして、異常があれば病気になる前に薬などを使用して治してしまう、という未来社会の話がありました。
それが良い未来であるかどうかはともかくとして、時代がそれに近づきつつあることは確かです。

その一方の柱が今回ご紹介したスマートフォンなどを使用したライフログによる健康情報の収集ということになり、もう一方の柱は、これもスマートフォンなどを利用した遠隔診療です。
今でもスマートフォンなどで血圧などの情報を医師と共有し、それを元にして処方箋を発行して患者さんに郵送する、というような遠隔診療は認められていますが、今後はそうした診療や健康管理が、より広い範囲で行われ、糖尿病や肥満などの生活習慣病の管理は、医療機関に出向いて行う診療よりも、そうした方法の方が一般的になるかも知れません。

ただ、現状はまだこうした目的のライフログの活用は、その精度管理を含めて科学的に検証されたものは少なく、その有効性も肥満など、ごく一部の病気で確認されているに過ぎない、という点には注意が必要です。
皆さんもその限界を知った上で、出来れば医師や専門家に相談する機会は持ちながら、デジタルデータを健康管理に役立ててみて下さい。

※PCの方はApp Storeで『KenCoM』と検索して、ダウンロードをお願いします!

参考文献

① Veronese N ,Li Y, Manson JE, et al. Combined associations of body weight and lifestyle factors with all cause and cause specific mortality in men and women: prospective cohort study. BMJ. 2016 Nov 24; 355: i5855.
② Diabetes Prevention Program Research Group. Long-term effects of lifestyle intervention or metformin on diabetes development and microvascular complications over 15-year follow-up: the Diabetes Prevention Program Outcomes Study. Lancet Diabetes Endocrinol. 2015 Nov;3(11):866-75.
③ Burke LE, Conrov MB, Sereika SM,et al. The effect of electronic self-monitoring on weight loss and dietary intake: a randomized behavioral weight loss trial. Obesity(Silver Spring). 2011 Feb;19(2):338-44.

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36

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