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2017.10.24

大腸ポリープ手術なら約6万円。検診が効果を発揮する大腸がんの知識【大腸がんの専門家・上野先生インタビュー#2】

kencom公式ライター:桶谷仁志

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前回のお話から、大腸がんの早期発見には「大腸内視鏡検査」が欠かせないことが見えてきた。今回は治療編として、どのように完治まで進んでいくのかを、がん研有明病院の上野雅資先生(消化器センター消化器外科大腸外科部長)に聞いた。

大腸がんはどこまで治る?

結腸と直腸によって治療方針が異なる

――大腸がんと診断されたら治療はどうなるのでしょうか?

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まず、大腸がんはポリープの状態が非常に長いことを覚えておいてください。大きくなるとがん化するリスクがあり、大腸がん全体の8割がこのルートで発症するといわれています。
ポリープ切除であれば、日帰り手術となり約6万円ほど、保険適用では3割負担で受けられます。

大腸がんとなった場合を簡潔にお話しすると、大腸は肛門から見てすぐ近くの直腸と、さらに奥の結腸に分かれており、どこにがんができるかと進行具合(病期)によっても治療方針が異なります。

大腸がんの手術では、がんの患部とその周辺のリンパ節を含む腸間膜を切除し、残った腸をつなぎ合わせるのが一般的です。結腸のがんでステージⅠ、Ⅱならば、術後の化学療法もほぼ必要なく、手術から退院まで2週間ほどの入院になります。退院後は、1~2週間ほど自宅療養してから、仕事に復帰される患者さんが多いですね。そのため、休職期間は3~4週間程度です。

結腸がんに関しては、手術後に後遺症もないですし、食事制限などもありません。昔は術後の腸閉塞の心配もありましたが、手術が腹腔鏡の時代になって、その心配もほぼなくなりました。

――治療が終わったら通院が必要でしょうか?

ステージⅢでは、再発を予防するため手術後に「補助化学療法」を実施します。これは3ヵ月から半年間くらいの間、通院で再発予防のための抗がん剤治療で、再発率が5%程度低下すると言われています。

大腸がんのステージⅣとは?

抗がん剤の開発が進み、ステージⅣでも治る可能性が出てきた

――ステージⅣの場、何か手立てはあるのでしょうか?

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ステージⅣの場合は、患者さんの状態によって治療の方針も予後の経過も様々です。

大腸がんは、転移の面から見てもおとなしく、「紳士的」な振る舞いをするがんです。腸がんが原発巣となった場合は、限られた臓器に順番に転移することが多く、肝臓70%、肺20%、その他10%となります。ターゲットが分かりやすい上に、転移先で発症する個数もそこまで多くなく、なんとか治療のコントロールができます。そのため、ステージⅣであってもまだ治療する方法があるのです。

例えば、肝臓への転移が1個しかないステージⅣならば完治に向かいやすい。反対に多くの転移があると、手術ではなく化学療法、放射線療法を試みて経過を診ていきます。

――症状に合わせて治療ができるのですね。

イメージです

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2004年以降に、オキサリプラチン、イリノテカンという抗がん剤が使えるようになりました。その後、アバスチンとセツキシマブという分子標的薬が保険適用になり、この4剤が主力として使えるようになってから、化学療法の成績が大きく向上しました。

以前であれば、緩和ケアの段階まで進行した大腸がんの患者さんが、化学療法のおかげでがんが縮小し、手術の適応になって完治するというケースもあります。当院でも、何年か化学療法を受けながら、がんが小さくなって手術適応になる機会を待っている患者さんもいらっしゃいます。

直腸の場合は治療が大きく変わる

人工肛門を使うケースもある

――直腸にがんができた場合は、どのように治療するのでしょうか?

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直腸は大腸の最後の約10cmの肛門に近い部位です。結腸とは性質が少し異なり、「肛門括約筋」があることと、「局所再発」があることです。

排便をコントロールする肛門括約筋は患者さんのQOLを大きく左右するため、近年では極力温存するのが主流となっています。しかし、どうしても頼る場面が出てくるのが人工肛門です。
人工肛門は一時的なものと、永続的に使う場合があります。一時的なものは、肛門括約筋のすぐ上でがんを切除し、大腸をつないだ場合です。この際、普通に便を通してしまうと、強い圧力がかかってしまい、最悪の場合は接合部が破けるという危険があるため、回復するまでの間、下腹部あたりに人工肛門をつける場合があるのです。永続的に使わざるを得ないのは、がんが肛門括約筋まで及んでいる症例です。

そして、「局所再発」は、治療後に近い部位で再発することです。これが起きやすいのは、膀胱や前立腺など周りにいろんな臓器があるためです。

――どう対応するのでしょうか?

「局所再発」を避けるために、手術前に「術前治療」を取り入れています。抗がん剤治療と放射線治療を順番に行い、先にがん細胞を叩いてしまい再発を防ぐという手法です。

――治療の合わせ技ですね。

当院ではこうした治療を20年前から行っていますが、5年前から取り組んでいる最新の治療では、手術で切除した腫瘍の37%にがんが残っていなかったのです。手術後の経過をよくするための治療でしたが、化学療法と放射線療法だけで、がんが治る可能性が出てきました。こうした手法は、ノンサージカルトリートメントという手術をしない手法で、欧米では標準治療になりつつあるというニュースもあります。日本でも研究が進んでいけば、直腸のがんは手術ナシで治る時代がくるかもしれません。

ポリープなら日帰り。検診を有効活用したい

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大腸がんについては、手術だけでなく、新しい治療法が研究され、仮に進行したとしても改善する方法が出てきているようだ。

最後に上野先生のひとこと。「高額医療費は国の負担となり、昨今の積み重なる医療費問題を考えたら、次の世代のためにも健康であるに越したことはありません。もし、がんが進行してしまうとトータルで1000万円以上の費用がかかるケースもあります。大腸がんの場合は、ポリープの切除が非常に有効です。ぜひ検診を有効活用してください」。

上野雅資(うえの・まさし)先生

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がん研有明病院・消化器外科・大腸外科部長

【プロフィール】
専門は消化器癌とくに大腸癌の外科治療。消化器癌手術は約3000例、うち腹腔鏡大腸癌手術は約1500例を施行。
1983年 金沢大学医学部卒業、1987年 金沢大学がん研究所・外科にて学位取得。1987年 癌研究会附属病院(現・がん研有明病院)に奉職。2011年より現職。

資格:日本外科学会指導医・日本消化器外科学会指導医・日本大腸肛門病学会指導医

取材協力

<著者プロフィール>

■桶谷 仁志(おけたに・ひとし)
1956年北海道生まれ。早稲田大学卒。20代半ばからトラベルライターとして国内のほぼ全県と海外30数カ国に取材し、雑誌、新聞等に寄稿。2000年には副編集長として食のトレンド雑誌「ARIgATT」を企画、創刊。03年から雑誌「日経マスターズ」(日経BP社)で最新医療を紹介する「医療最前線」を約3年間、連載。日経BPネット「21世紀医療フォーラム」編集長も務める。現在は食、IT、医療関連の取材を幅広く手がける。著書に『MMガイド台湾』(昭文社)『パパ・サヴァイバル』(風雅書房)『街物語 パリ』(JTB)『乾杯! クラフトビール』(メディアパル)など。

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