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2018.01.11

がんを診断するのは医師でも難しい。肺がんにおける精密検査の重要性とは?【肺がんの専門医・奥村先生インタビュー#2】

KenCoM公式ライター:桶谷仁志

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がん検診で肺がんが疑われると、呼吸器科のある専門病院での精密検査となる。『どのような流れで行われるのか?』という、問いに答えてくれたのはがん研有明病院の奥村栄先生(呼吸器センター長・呼吸器外科部長)。
今回は、肺がんの検診で、精密検査の後の流れについてお聞きした。

精密検査になったらどうする?

最新鋭のCT検査でも判断に迷う症例がある

――肺がん検診で、「疑いあり」となったらどのように動けばいいのでしょうか?

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がん治療の専門病院か、呼吸器系の専門病院で精密検査を受けるべきです。

通常であれば、胸部X線検査(レントゲン)で疑いがあったらCT検査による精密検査を行います。現在はCT検査も進化しています。普通のスクリーニング検査のCTでも5mm間隔の再構成画像がつくれます。当院で採用するCT機器は、10秒間の息止めの間に、最大で1.25mm間隔で全肺の撮影が可能です。このように撮影した画像データをもとにしてコンピュータで3D画像を含む再構成画像を作成し、様々な角度から極めて詳細に肺や病変を検討することができます。

CT検診の普及により、胸部単純X線検査では到底指摘できない早期の肺癌が発見されるようになりました。CT検査が進歩してより詳細な画像が検討できるようになっても、肺がんかどうか迷う陰影があります。

――肺がんが疑われる場合に行われる検査にはどのようなものがあるのでしょうか?

3つの目的をもった検査が同時に行われることが多いですね。
1つ目はがんであることを確認するための「確定診断」。2つ目は、がんの疑いが強い場合に、手術などの治療方針を決めるための「病期診断」。3つ目は手術が必要になった場合に備えて、患者さんの身体が手術に耐えられるかどうかを判断する「全身機能検査」です。

これらは、時間のロスを減らすために同時並行で実施されています。どれも治療に欠かせないのですが、特に重要なのは「確定診断」です。

『この影は100%がんである』という判断は、典型的な陰影を除いては医師であっても非常に難しいものです。

肺がんの「確定診断」とは?

まずは気管支鏡検査。しかし、切除が必要な場合もある

――「確定診断」の検査はどのようなことを行うのですか?

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まずは、胃の内視鏡と同様な『気管支鏡』を使った検査で診断できるかトライします。肺がんが疑われる陰影にこの気管支鏡から器具(色々な鉗子類)を用いて到達してサンプルを採取して病理診断を行います。悪性細胞癌が確認できれば肺がんと診断することが可能となります。

早期病変の発見により気管支鏡検査では診断困難な病変が増えてきました。そのような陰影には、「CTガイド下針生検」や「診断的切除」を行うケースもあります。ただ、「CTガイド下針生検」は、CTを見ながら直接肺に針を刺す検査で、色々な合併症の懸念から最近ではあまり実施されなくなりました。

となると、「診断的切除」になりますが実施には患者さんとご家族の判断が必要になります。

――患者側の判断とは?

「診断的切除」とは、診断を目的としているものの処置自体は外科手術と同じです。症例によって病変の部位や大きさが異なるため、疑われる部位を小さく切除できる場合もあれば、肺の深部に病変があるなら肺葉切除(肺がんと同じ術式)を要する症例もあります。そのため「がんであるかを判断するためには、肺がんと同じような手術になりうる」ことを患者さんやご家族にご理解していただき考えていただくことになります。

もし「確定診断がつかなければ手術には踏み切れない」と判断されれば、切除をせずに経過観察をするという選択もあります。

治療方針の決め方とは?

色々な専門医が集まる会で検討する「キャンサーボード」

――どのような選択肢があるのでしょうか?

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肺がんの治療は、大きく分けると3本柱になります。局所治療である外科療法・放射線療法と全身治療となる化学療法に大きく分けられます。検討会に参加する医師は、診断に関わる画像診断医・病理診断医に治療に携わる呼吸器外科医・呼吸器内科医・放射線治療医などです。

個々の患者さんについて、診断や治療について検討されます。その結果を外来の医師が、検討会の結果として説明して最終判断をしていただいています。

――非常に難しい決断ですね。

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そうですね。納得のいく選択をしていただくためには、あらゆる角度から症例を検証することが不可欠です。そこで有効なのが、「キャンサーボード」と呼ばれる関連の診療科を横断した検討会です。これはがん診療連携拠点病院であれば、設置されているシステムです。

当院の呼吸器センターでは、内科や外科、放射線治療部、病理関係や細胞診の医師など、治療に関わるすべての診療科の医師が集まり、様々な知見から総合的に検証します。「がんか否か」「転移はあるか?」「早期であれば経過観察がよいか?」「最適な治療方針とは」など、十分に議論を重ねた上でよりベターな選択肢を患者さんに提示できればと思っています。

また、この検討会で検討される症例は、診断のために気管支鏡検査を受けられた症例と外来の患者さんで治療方針に悩む症例や再発治療の検討を要する患者さんなど多岐にわたる症例が対象となります。毎週20例ほどの患者さんのことを約2時間かけて検討しています。

――心強いですね。最後に近年の傾向やアドバイスについて教えてください。

CT検査の普及により、早期の肺がんが見つかることが増えました。それに伴って治療成績も上がってきています。肺がんで手術を受けられる場合には、約1週間の術後の入院期間と約1ヶ月程度の自宅療養を要しますが、基本的には術前と同じような生活に戻っていただいています。手術の前には、喫煙は術後合併症のリスクを高めますので、4週間以上の禁煙をお願いしています。

グラフのように切除対象となる肺がんの腫瘍径はどんどん小さくなってきています。これは、CT検診の普及による結果と思います。その結果として年代別にみた手術成績も年代ごとに良くなってきています。肺がんは、禁煙以外に明らかにリスクを下げられるものはありません。禁煙の方にもなりうる肺腺癌が増えている現状では、早期発見・早期治療がとても大切と考えています。

資料提供:がん研有明病院

資料提供:がん研有明病院

資料提供:がん研有明病院

資料提供:がん研有明病院

※上は年代別に見た肺がん切除例、下はがん治療のひとつの目安となる5年生存率の推移。どちらもがん研有明病院のものではあるが参考になる。

早期発見には検診が不可欠

「確定診断」「キャンサーボード」と、聞きなれない言葉もあったかと思うが、非常に緻密なフローの先に、がん治療の選択肢が枝分かれしていることが見えてきたのではないだろうか。生活習慣の中で予防することが難しいからこそ、検診は重要性を増すということをぜひ覚えておいていただきたい。

奥村 栄(おくむら・さかえ)先生

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がん研有明病院呼吸器センター長 呼吸器外科部長

【プロフィール】
1958年千葉県生まれ。筑波大学医学専門学群を卒業。初期の4年間を三井記念病院で外科研修を行い、平成元年から癌研究会附属病院に勤務。1994年から呼吸器外科専門となり、2005年に呼吸器外科副部長、2008年に部長となり、2012年から呼吸器センター長を兼任。専門は、肺がん、転移性肺腫瘍、縦隔腫瘍を中心とした外科療法。趣味は写真。

取材協力

<著者プロフィール>

■桶谷 仁志(おけたに・ひとし)
1956年北海道生まれ。早稲田大学卒。20代半ばからトラベルライターとして国内のほぼ全県と海外30数カ国に取材し、雑誌、新聞等に寄稿。2000年には副編集長として食のトレンド雑誌「ARIgATT」を企画、創刊。03年から雑誌「日経マスターズ」(日経BP社)で最新医療を紹介する「医療最前線」を約3年間、連載。日経BPネット「21世紀医療フォーラム」編集長も務める。現在は食、IT、医療関連の取材を幅広く手がける。著書に『MMガイド台湾』(昭文社)『パパ・サヴァイバル』(風雅書房)『街物語 パリ』(JTB)『乾杯! クラフトビール』(メディアパル)など。

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