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2018.01.10

たばこだけじゃない!近年増加する『肺がん』とはどんな病気?【肺がんの専門医・奥村先生インタビュー#1】

KenCoM公式ライター:桶谷仁志

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日本では近年、肺がんが急速に増加し、男性のがん部位別の死亡数において1位となっている(女性は2位)。肺がんの大きな要因の1つは喫煙といわれているが、ほかにも要因があるのだろうか?

肺がんの知識を深めるべく、がん研有明病院の奥村栄先生(呼吸器センター長・呼吸器外科部長)にインタビュー。第1回は肺がんの要因と検診を中心に、お話を伺った。

肺がんはどんな病気?非喫煙者は無関係??

非喫煙者も発症する肺がん(腺がん)が増加中

――肺がんと聞くと、たばこが連想されます。非喫煙者は肺がんにならないのでしょうか?

確かに、肺がんとたばこは因果関係があるとことが分かっています。だからといって、非喫煙者が肺がんにならないというわけではありません。以前、芸能レポーターの梨本勝さんが肺がんになったときに、インタビュアーから『たばこを吸わない梨本さんが、なぜ肺がんになったのか?』という質問を受けました。

その際に一番強調したのは、『自分はタバコを吸っていないから、肺がんにはならないというのは極めて間違った認識である』ということです。

肺がんは、肺全体にできるがんの総称で、発生部位によって分類が分けられます。最近の実情としては、高齢者の肺がんに加えて、たばこを吸わない人にできる肺がん(腺がん)が増えているのです。

――どのように分類されるのですか?

肺がんの分類についての表。がん研有明病院呼吸器センター「肺がん手術を受ける方へ」より

肺がんの分類についての表。がん研有明病院呼吸器センター「肺がん手術を受ける方へ」より

たばこと関連が深いとされるのが、肺の入り口にあたる気管支側にできる「肺門型」の肺がんです。そして、より肺の内側にできるものを「肺野型」と呼んでいます。

近年増加傾向にあるのが、後に述べた「肺野型」の肺がんで、発症するリスク要因が分かっていません。さらに、「肺野型」は、それなりの大きな肺腫瘤になっても咳や痰などの症状が出にくいのです。

――他にも肺がんの特徴はありますか?

他の臓器に転移しやすいことです。肺は体内に酸素を送り込み、二酸化炭素を外に出す臓器です。そのため、肺の中には多くの血管があり、がん細胞が移動しやすいのではないかと考えられます。転移しやすい部位としては、脳や肺、肝臓、骨、副腎などにがあげられます。過去には「なぜか骨が痛い」といって来られた患者さんが、実は肺がんの骨転移と診断されたこともありました。

肺がん検診は何を見ている?

レントゲン検査とCT検査は一長一短

――肺がん検診はレントゲン検査だけでは足りないのでしょうか?

胸部X線検査(レントゲン)とCT検査で、どちらが良い検査であるかとは言えません。自分で検査項目を選ぶ場合は、各検査のメリット、デメリットを理解した上で判断する必要があります。
まずレントゲン検査は、CT検査より放射線の被曝量が少ないのがメリットです。しかし、早期の小さな肺がんは見つけにくいというデメリットがあります。

一方、CT検査は小さな肺がんを見つけやすいメリットがあるものの、レントゲン検査よりも被爆量が多いというデメリットがあります。さらに、レントゲンでは見えないレベルの小さな影が写り、精密検査の受診を勧められることもあるのです。ほとんどの場合、その後の経過観察で「問題なし」となるため、受診者さんに金銭面・精神面で不要な負担がかかります。事前にどの検査を受けるかをしっかり吟味する必要があります。

――検診の目安はどのように考えるべきでしょうか?

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40歳を過ぎたら1年に1回受診すればいいでしょう。50歳以上で「重喫煙者」に分類される方は、レントゲンやCTとは別に喀痰(かくたん)検査も受診しましょう。この検査は、採取した痰の中に、がん細胞があるかどうかをチェックします。

重喫煙者の判断基準は、1日の喫煙本数×喫煙年数で計算する『喫煙指数』です。この計算式で600以上になる方は、非喫煙者と比べると肺がん発症リスクが4~5倍高いといわれています。若年から喫煙を始めた人や女性は、同じ喫煙指数でも肺がんの発症リスクがより高くなるため注意が必要です。

肺がん検診のポイント

CT検診は「比較読影」と「ダブルチェック」が望ましい

――自費検診でCT検査を受ける場合に抑えておくポイントはありますか?

自費検査の場合、どの施設で受けるか迷ったら「比較読影」と「ダブルチェック」のシステムがあるかを問い合わせるのも一手です。「比較読影」は、自身のCT検査の結果が保存・蓄積され、次年度の受診時にCT画像を見比べて評価します。そして「ダブルチェック」は、撮影したCT画像を2人以上の医師が読影することです。より高い精度で検診が行われているため、ひとつの判断基準になるでしょう。

――そこで「がんの疑いあり」となったら治療に進むのでしょうか?

まずは、本当にがんであるかどうかの精密検査を行います。確かにCT検査の普及に加えて精度も高くなり、早期の肺野型の肺がんが増えてきました。
しかし、全ての症例がすぐに「肺がんか否か」の診断をするのは非常に難しいのです。場合によっては診断の段階で、手術に似た検査をすることもあります。

肺がんを診断することの難しさとは?この続きは以下の記事にてご確認を!

奥村 栄(おくむら・さかえ)先生

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がん研有明病院呼吸器センター長 呼吸器外科部長

【プロフィール】
1958年千葉県生まれ。筑波大学医学専門学群を卒業。初期の4年間を三井記念病院で外科研修を行い、平成元年から癌研究会附属病院に勤務。1994年から呼吸器外科専門となり、2005年に呼吸器外科副部長、2008年に部長となり、2012年から呼吸器センター長を兼任。専門は、肺がん、転移性肺腫瘍、縦隔腫瘍を中心とした外科療法。趣味は写真。

取材協力

<著者プロフィール>

■桶谷 仁志(おけたに・ひとし)
1956年北海道生まれ。早稲田大学卒。20代半ばからトラベルライターとして国内のほぼ全県と海外30数カ国に取材し、雑誌、新聞等に寄稿。2000年には副編集長として食のトレンド雑誌「ARIgATT」を企画、創刊。03年から雑誌「日経マスターズ」(日経BP社)で最新医療を紹介する「医療最前線」を約3年間、連載。日経BPネット「21世紀医療フォーラム」編集長も務める。現在は食、IT、医療関連の取材を幅広く手がける。著書に『MMガイド台湾』(昭文社)『パパ・サヴァイバル』(風雅書房)『街物語 パリ』(JTB)『乾杯! クラフトビール』(メディアパル)など。

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