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2017.10.14

日本人の発症率2位・胃がんはどんな病気?検診で何が分かる?【胃がんの専門家・比企先生インタビュー#1】

KenCoM公式ライター:桶谷仁志

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近年、がんに関わる医療技術はめざましく進歩している。少し前までは治りにくい病気だったがんは、早期発見・早期治療で十分治せるという認識も一般的になってきた。そこで大切なことになるのが、がん検診だが後回しにされているケースも少なくないという。

がんはどの臓器で発症するかによって特徴が大きく異なるため、知見を広げておくことは検診への理解も深まるのではないだろうか。

今回は「胃がん」の最新事情について、お話を伺ったのはがん研有明病院の比企直樹先生(消化器センター消化器外科胃外科部長/栄養管理部部長)。
1回目は『リスク要因と検診』をテーマに解説していただいた。

日本人はなぜ「胃がん」にかかるのか?

胃がんのリスク要因で注目される「ピロリ菌」

――以前まで、胃がんは国内のがんによる死因1位でした。近年は減少傾向になったものの、診断ベースで見ると発症率は2位です。なぜ日本人に胃がんが多いのでしょうか?

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胃がんの原因のひとつとして上げられるのが「慢性萎縮性胃炎」です。胃がんは遺伝性のものはごくわずかで、胃炎などの炎症ががん化するといわれています。この胃炎を引き起こすものとして関連性があると言われているのがピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)です。

ピロリ菌に感染しやすいのは10歳頃までと言われています。経路は湧き水や井戸水といった整備されていない水、それと経口感染です。経口感染は、菌に感染した親が、幼い子どもにキスをしたり、食べ物を噛んで与えることで起こると考えられます。この菌は胃の粘膜に感染し、長い年月をかけて、健康な胃を胃炎のできやすい状態に変えてしまいます。

ピロリ菌は胃がんへの直接原因ではないものの、関係性が高いのではないかといわれているのが、こうした理由です。
そのため、検査でピロリ菌に感染していることが分かったら、早めに除去した方がいいでしょう。抗生物質と胃の酸を抑える薬を1週間、飲み続ければ除去ができます。

――最近ではピロリ菌の除菌も一般的になってきました。除菌をすればもう胃がんにならないのでしょうか?

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”ならない”とは言うことはできませんが、極めて胃がんに”なりにくい”とはいえるでしょう。

その理由は、前述の通り、ピロリ菌は長い年月をかけて胃粘膜を変えていきます。例えば60歳で除菌をしたからといって、一度荒れてしまった胃が元に戻るかどうかは分かりません。
もちろん健康な状態に戻る人もいますが、元に戻らなければ依然として胃がんのリスクは高いままです。

『ピロリ菌を除菌したからもう大丈夫』と勘違いされる方が多いのですが、定期的にがん検診を受けないでいたら胃がんに罹患していたということは十分にあります。

最近では従来の胃がんから、生活習慣の欧米化に合わせるように欧米型の胃がんが増えてきています。
この違いは、従来の胃がんは胃の出口や中間部、欧米型の胃がんは胃の入口にできると理解すると分かりやすいでしょう。

生活習慣の中に潜むリスクとは?

「塩気がない」と感じる加工食品は塩分が多い

――毎日の食事の中に、胃がんのリスク因子があると言われています。特に意識すべき点はなんでしょうか?

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ピロリ菌以外で、慢性萎縮性胃炎を進行させるリスク要因は塩分です。塩分が萎縮性胃炎を促進することが分かっているので、胃がん予防の点では減塩に取り組むべきと考えます。実践する際に注意したいのは加工食品です。例えば、ポテトチップスとはんぺんでは、どちらが塩分を多く含んでいるか分かりますか?答えは、はんぺんです。塩味が強いので、ポテトチップスの方が多いと思われるかもしれませんが、直接舌に触れないだけで練り物は塩が多く含まれています。ハムやソーセージといった加工肉も同じです。また、麺類も塩分が多い。ラーメンはスープまで飲み干せば、1杯で1日に必要な塩分量を超えてしまいます。

熱い食事も悪いと言われることがありますが、これにははっきりとしたエビデンスはありません。他にも、誤解されやすいのは辛いものです。胃に悪いとよく言われますが、そんなことはありません。適度に辛いものはむしろ胃の働きを良くして、消化を助けてくれます。適度な量を食べるのであれば、そこまで気にすることはありません。

――塩分摂取以外に生活習慣の中で気をつけるべき点はありますか?

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食事以外に、懸念されるのは『喫煙』『腹部肥満』です。たばこは、ほぼ全てのがんリスクを上げることが報告されており、非喫煙者と比べると1.6倍のリスクがあるとされています。次に肥満も胃がんのリスク因子のひとつです。脂肪が下から胃を圧迫することで、胃の入り口にできる欧米型の胃がんと関係していると考えられます。また、最近では生活習慣病のひとつ「糖尿病」も、胃がんと関係性がありそうだと言われています。

検診を有効活用するには?

「ABC検診」で胃がんリスクを判定

――胃がん検査といえばバリウムや胃カメラのイメージがあります。より精度の高い検査などはないのでしょうか?

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以前はバリウム検査が主流でしたが、進行性のがんを見つける際に効果を発揮します。早期発見ということを重点におくのであれば、現状では内視鏡(胃カメラ)がベストでしょう。しかし、すべての人に内視鏡検査を実施するのは現実的ではありません。そこで最近では、胃がんになりやすい人を抽出する「ABC検診」が注目されていて、当院のがん検診ではこちらの方法を採用しています。

――「ABC検診」では胃に対するどんな点をみているのでしょうか?

「ピロリ菌抗体」と「ペプシノーゲンⅠ/Ⅱ比」を調べます。ピロリ菌抗体は、ピロリ菌がいたという”足跡”です。風船を使った検査で呼気を調べると、高い精度でピロリ菌の有無を判定できます。そして、「ペプシノーゲンⅠ/Ⅱ比」は、血液検査から血中のペプシノーゲンⅠ/Ⅱの比率を測定し、胃粘膜の萎縮の程度が判断できるのです。この2つから「ピロリ菌」と「胃の萎縮」が分かるので、疑わしいと診断されるとがんにかかりやすい胃の状態となります。そうなったら、内視鏡による精密検査を受けた方がいいでしょう。

早期胃がんは自覚症状がほぼないため、早期発見には検診が欠かせません。

胃の状態を知れば、胃がん対策の1歩になるはず

胃がんの研究が進み、胃がんのリスクを早期に判断できるようになってきた。まずは自分の胃の状態がどのようになっているのか、検診から理解することは大きな意義があるだろう。
その上で、食生活を省みて、減塩に努めることができれば、より胃がんの予防につながるかもしれない。

次回の話は、「胃がんは症状がない」という点に注目し、お話を伺った。ぜひご一読いただきたい。

比企直樹(ひき・なおき)先生

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がん研有明病院消化器外科胃外科部長・栄養管理部部長・機器開発センター長兼任

【プロフィール】1990年 北里大学医学部卒業。1999年 東京大学大学院医学系研究科(外科学専攻)修了後、東京大学医学部付属病院胃食道外科助手などを経て現職。日本内視鏡外科学会技術認定医、日本外科学会指導医、日本消化器学会指導医、日本がん治療認定医療機構日本がん治療認定医、日本静脈経腸栄養学会理事。

取材協力

参考文献

比企直樹 『新版 よくわかる最新医学 胃がん』 主婦の友社(2017年7月)

<著者プロフィール>

■桶谷 仁志(おけたに・ひとし)
1956年北海道生まれ。早稲田大学卒。20代半ばからトラベルライターとして国内のほぼ全県と海外30数カ国に取材し、雑誌、新聞等に寄稿。2000年には副編集長として食のトレンド雑誌「ARIgATT」を企画、創刊。03年から雑誌「日経マスターズ」(日経BP社)で最新医療を紹介する「医療最前線」を約3年間、連載。日経BPネット「21世紀医療フォーラム」編集長も務める。現在は食、IT、医療関連の取材を幅広く手がける。著書に『MMガイド台湾』(昭文社)『パパ・サヴァイバル』(風雅書房)『街物語 パリ』(JTB)『乾杯! クラフトビール』(メディアパル)など。

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