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2017.08.30

妊娠糖尿病に搾乳は有効か【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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日本では、妊娠中の搾乳は早産の危険があると敬遠されていますが、欧米では、逆に赤ちゃんのための習慣になっているのだとか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「石原藤樹のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、今年のLancet誌に掲載された、妊娠の後期に母乳を搾乳して保存するという、ちょっと特殊な方法の効果と安全性とを検証した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

欧米では妊娠中に母乳を搾り、冷凍保存する

妊娠糖尿病から糖尿病への進展を防ぐ効果も

糖尿病の女性が妊娠をした場合や、妊娠中に母体の血糖値が上昇したような場合には、胎児のインスリンが過剰に分泌されるため、出生後に赤ちゃんが一時的な低血糖を起こす、というリスクがあることが知られています。

こうした場合にも、お母さんから離されて集中治療室に入った赤ちゃんが、母乳による栄養を受けられるように、妊娠の後期に母乳を搾乳して、それを冷凍保存しておくことが、欧米では1つの習慣として、行なわれているようです。

授乳は妊娠糖尿病の糖尿病への進展を、予防する効果のあることが知られています。乳汁分泌ホルモンにインスリン抵抗性を改善する効果があることが、その1つの要因と考えられています。
従って、早期に搾乳を行うことは、胎児と母体にとってのメリットがあると、そう考える意見があるのです。

ただし、搾乳が原因で陣痛を引き起こす危険はある

その一方で、妊娠中に搾乳することにより、それをきっかけに陣痛が促進して出産が早まり、胎児の低体重など、予後に悪影響を与える可能性も否定は出来ません。

2014年のコクランレビューにおいては、これまでのデータを収集しても、この問題に解決を与えるような、精度の高いデータは存在していない、という結果になっていました。

搾乳した場合としない場合でリスクの変化はなし

オーストラリアで妊娠糖尿病がある妊婦635名を調査

そこで今回の検証ではオーストラリアの複数の病院において、糖尿病があって妊娠をしたか、妊娠糖尿病が診断された、妊娠34から37週の女性635名を登録し、クジ引きで2つの群に分けると、一方は妊娠36週以降で1日2回お乳を搾って搾乳を行い、もう一方は搾乳はしないで、出産後の胎児の経過を比較検証しています。

胎児の健康面で有意な差は見られなかった

その結果、両群で出生児が集中治療室(NICU)に入室するリスクには、有意な差はなく、出生児の体重やその健康状態にも、有意な差は認められませんでした。
そして、搾乳を保存することにより、出生後24時間以内の母乳栄養の割合は、搾乳群で有意に高くなっていました。

つまり、当初想定されたような、搾乳により陣痛が早まることによる不利益は、今回の研究では明らかには認められず、妊娠後期の母乳搾乳の、一定の安全性が確認をされています。

日本では推奨されていないが、興味深い習慣

現状日本では推奨をされていない行為でもあり、この結果が即日本で適応される、というようには考えられませんが、興味深い結果であり習慣であることは間違いがなく、今後のデータの蓄積を注視したいと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36