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2017.08.31

「痒くないから治った」はNG!水虫完治の秘訣は”根気”にアリ【皮膚科医が教える水虫治療と予防・後編】

KenCoM公式ライター:桶谷仁志

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前回のインタビューから、想像以上に水虫が身近な病気であることが分かった。そして、感染・発症に気づかず、公共のプールや家庭内などで水虫菌を撒いている人が多いようだ。どうやったら防ぐことができるのだろうか?という問いに答えていただいたのは、東京女子医科大学皮膚科学教室の常深祐一郎准教授。

水虫の原因である白癬菌だけでなく、アトピー性皮膚炎や乾癬など、幅広く皮膚の病を研究する専門家に、水虫の正しい治療法と予防法について聞いた。

常深祐一郎(つねみ・ゆういちろう)先生

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東京女子医科大学 皮膚科学教室 准教授

【プロフィール】
1999年に東京大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院、国立国際医療センターで研修。東京大学大学院卒業後、東京大学医学部付属病院皮膚科にて助教を勤め、2010年東京女子医科大学講師、2014年より現職。専門領域は皮膚真菌症、アトピー性皮膚炎、乾癬など。医学博士、日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本医真菌学会認定医真菌専門医。

【所属学会】 日本皮膚科学会、日本研究皮膚科学会、日本医真菌学会、日本臨床皮膚科医会など

水虫?湿疹?その判断は顕微鏡検査から

水虫予防のために有効なのは「自分の足をよく見る」こと。水虫は自覚症状がないことが多いため、日頃から足を観察する習慣をつけておく必要がある。

顔は毎朝、鏡で見ると思いますが、足元は意識しないと見ないものです。そのため、足元をチェックする習慣をつくるというのが水虫予防のアドバイスです。例えば、皮がむけていたら、何らかの病気の可能性が高い。何もなければ、角質は垢で落ちるだけで、目に見える形でむけてくることはありません。特に注視していただきたいのは、足の指と指の間です。白くふやけてたり、角質のめくれがあったら水虫の症状かもしれません。足の指が密着している人は、指と指の間が蒸れやすいのでこまめにチェックしましょう。

もしも水虫や湿疹らしき症状を発見したら、皮膚科に行くのが早期治療・改善における近道だ。

水虫は、医師でも目で見ただけでは診断できません。他にもよく似た症状の病気があるからです。そこで、足の角質組織を取って、顕微鏡で菌がいるかどうかの顕微鏡検査(鏡検)を行い診断します。仮に水虫という判断になっても、じゅくじゅくして皮膚が傷んでいる場合は、いきなり抗真菌薬(水虫薬)を塗るのは避けるべきです。といのも抗真菌薬は多少の刺激があるので、皮膚が傷んでいると悪化することがありす。まずは他の軟膏を使って皮膚の状態を改善してから、抗真菌薬を使うようにします。

このように診断にも治療にも注意点があります。自己判断で市販薬を買ってきて塗って失敗することがあるのはこのためです。

また、皮膚科医が処方する抗真菌薬には、痒み止め成分が入っていません。なぜならば、水虫の症状が治まるにつれて、痒みが引くという考え方だからです。市販薬には痒み止め成分をはじめ、多くの成分が入っています。これは様々な症状に対応できるようにという意図があるのですが、おまけで入っている成分にはほとんど効果はありません。そればかりか、時にかぶれの原因になります。

自分で水虫を治そうとする人は、かぶれていても水虫が悪化したと思って、さらに市販の水虫薬を塗ってしまいがちです。

水虫の治療は、菌が完全に押し出されるまで薬を使う

水虫と診断されたら、抗真菌薬を根気よく塗ることが完治への道。医師に薬の使い方を教わっておこう。

2~3週間ほど薬を塗っていれば、水虫の状態が少し良くなってきますが、あくまでも完治の途中経過です。ここで「治った」と勘違いして、治療を止めてしまう人がいますが、足の角質は全体が入れ替わるのに約1ヵ月かかります。皮膚が入れ替わらないと、薬で弱っていた水虫菌が徐々に活動を再開してしまう。だからこそ、症状が落ち着いたところからプラス1ヵ月塗り、角質の層が完全に入れ替わって皮膚から菌を追い出したところで、ようやく完治するのです。

そして、薬の塗り方も大切です。

治療で重要なのは塗り方。目で見えている患部に塗るだけではダメだ。

患部と同じ靴を履いたり、床を踏んだりしているのですから、症状が出ていない場所にも水虫菌がいるかもしれません。そのため、患部だけに塗るのはダメです。足を洗ったら、水虫薬を足の指先から指の間、足底、アキレス腱ぐらいまでムラ無く塗ってください。片足だけの発症でも、両足塗りましょう。医師から薬の塗り方を教わったら、ぜひ実践してください。

もし「自分は水虫になりやすい」と考えている人がいたら、完治していないことを疑うか、他の疾患を疑いましょう。中途半端に菌を残しておけば、夏の時期に菌が活発化して、振り出しに戻ってしまいます。

予防の鉄則は足を洗うこと。五本指靴下も効果大

水虫は免疫で予防ができないため、再感染するリスクがある。

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水虫菌は免疫で予防することができません。そのため、水虫を完治させた人であっても、どこかで菌が付着すれば感染するリスクがあります。角質への侵入は、通常で1日、高温多湿の好条件であっても半日はかかると言われています。つまり、感染する前に洗い流せばいいのです。プールや温泉などから帰ったら、流水でいいので足を洗いましょう。出先で身体を洗ったからとそのまま寝たら、脱衣所で菌が付着していたら早ければ次の日には感染してしまいます。

掃除や洗濯は家族への感染を防ぐとともに、自身の予防としても重要だ。

来院された患者さんのケースをご紹介しましょう。「孫にうつらないように水虫を治して」と家族にいわれた患者さんがいました。私がアドバイスするのは、治療と合わせて掃除と洗濯をやってくださいということです。塗り薬で治療を始めれば、足からは菌は落ちないのですが、これまで床に落とした菌を処理しないとそこから感染してしまいます。水虫菌は角質にとりつくと1年ほど生きるといわれているので、角質にくっついて床に落ちている菌は長生きです。家の掃除をしっかりしましょう。

次に靴下ですが、衣類について菌は洗濯すれば落ちるので、他の衣類と一緒に洗濯しても問題ありません。非常に効果的なのは、五本指の靴下をはくことです。指同士がこすれず、通気も良くなるので、水虫だけでなく湿疹の予防にもなります。

あとは靴ですね。水虫が完治した後に、それまで履いていた靴を履くのは再発リスクがあります。洗えるものは洗って、買い換えられるものであれば新調したほうがいい。もし、革靴のような洗いにくいものをまた使うのであれば、通気の良い場所で1年ほど放置しておけば水虫菌は死んでしまいます。1番やってはいけないのは、靴下をはかずに革靴を履くことですので注意してください。ビジネスパーソンの方であれば、オフィスではサンダルのような通気のいいものを履いた方が予防になります。

前述の治療法と合わせて、予防法を覚えておけば、自分や家族が発症しても対処しやすいと思います。ぜひ参考にしてみてください。

もう水虫なんて怖くない

常深准教授は現在、爪水虫の診断薬の開発に取り組んでいるという。水虫の診断や治療の研究は進歩を続けている。今回のインタビューから見えてきたのは、水虫に対する思い込みをなくし、不幸にも感染してしまったら専門家にかかってアドバイスを守ることが完治への道ということだ。

「げ、水虫!?」「また今年もか・・・」という方は、慌てて薬を買いに走る前に『本当に水虫か?』という疑問を抱こう。そして、皮膚科医の診察を受けて、適切な治療をスタートしてほしい。

取材協力

<著者プロフィール>

■桶谷 仁志(おけたに・ひとし)
1956年北海道生まれ。早稲田大学卒。20代半ばからトラベルライターとして国内のほぼ全県と海外30数カ国に取材し、雑誌、新聞等に寄稿。2000年には副編集長として食のトレンド雑誌「ARIgATT」を企画、創刊。03年から雑誌「日経マスターズ」(日経BP社)で最新医療を紹介する「医療最前線」を約3年間、連載。日経BPネット「21世紀医療フォーラム」編集長も務める。現在は食、IT、医療関連の取材を幅広く手がける。著書に『MMガイド台湾』(昭文社)『パパ・サヴァイバル』(風雅書房)『街物語 パリ』(JTB)『乾杯! クラフトビール』(メディアパル)など。

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